[第九話、初めての林間学習]
毎週、月、水、金の更新を予定してます。
※夜の21時までには投稿します!
どうぞよろしゅうに〜
「おい、リン!あっちにゴブリンがいる!」
俺の叫びに、リンはすぐさま視線を向けた。街の外れ、闇に紛れて小さな影がうごめいている。
「いますぐ街から離れなさい!」
鋭く命じるが、ゴブリンは耳を貸すことなく牙を剥き、リンに向かって突進してくる。
「くっ…!やるしかないのね。ユウマ、下がってなさい!」
「お、おう…頑張れよ!」
俺のの声が背後で響くのを聞きながら、リンは駆け出した。風が彼女の周囲を巻き込み、なびく髪を激しく揺らす。
『烈風』
唱えた瞬間、鋭い風の刃が疾走し、ゴブリンの身体を一瞬で両断する。しかし、倒れたそばから別のゴブリンが襲いかかり、棍棒を振り下ろした。
「っ…!」
回避が間に合わない――鈍い衝撃が肩を直撃し、リンの身体が地面に叩きつけられる。
「ギギィギ!」
ゴブリンが勝ち誇るように吠え、さらに追撃を加えようとする。だが、リンは素早く身を翻し、ぎりぎりで棍棒を避けた。
腰に下げた短刀を抜き、刃に冷たい光を宿らせる。そして、鋭い踏み込み。ゴブリンの懐に潜り込むと、首元を狙い一閃。
「ギッ…!」
短く悲鳴を上げる間もなく、ゴブリンの喉から血が噴き出した。
リンは次々とゴブリンを斬り伏せていく。しかし、それを上回る速度で、地下水路の奥から新たなゴブリンが湧き出してくる。
「っ…く、数が…!」
倒しても倒しても、終わりが見えない。呼吸は荒れ、手足が徐々に重くなってくる。気づけば、追い詰められていた。
「くそっ!俺にできることはないのか…!」
焦りと苛立ちが入り混じる。リンは必死に戦っているが、ゴブリンの数が多すぎる。このままではいずれ押し負ける――。
「若造!こっちへ!」
低く鋭い声に振り向くと、魔法具を売っているマーリンさんが小さく手招きをしていた。
「なんすか、今大事なところで…」
「しぃー!こっちに気づかれたら厄介なことになる。お前さん、武術の心得はあるか?」
「一応、ボクシングはやってましたけど…」
「なら、ちょうどいい武器がある!これを持って行け!あの子と一緒に街を守るんじゃ!」
「これって…?」
マーリンさんが手渡してきたのは、黒いグローブの形をしたナックル。魔力が淡く脈打ち、ただの武器ではないことが直感的にわかる。
「ありがとうございます!」
俺はそれを受け取り、すぐに走り出した。
(このままじゃ、数に負ける…!)
リンは荒れた息を整えながら、迫りくるゴブリンたちを睨む。
(ヤマトマルを呼ぶ魔力も、もう残ってない…せめてサンクチュアリが来るまで耐えないと…)
だが、思考を巡らせる間もなく、ゴブリンの棍棒が振り上げられる。
「ギギ!」
(避けきれない…!)
そう思った瞬間――
「おおおらぁっ!!!」
轟くような怒号。次の瞬間、棍棒を持ったゴブリンが衝撃で吹き飛んだ。リンの視界に飛び込んできたのは、拳を突き出したユウマ。
「大丈夫か!?リン!」
「え?…あ、ありがとう…!」
驚きと安堵が入り混じる。
だが――
(やべぇ…身体の震えが止まらねぇ…!)
ユウマは自分の手を見つめる。心臓がバクバクと音を立て、膝がわずかに揺れていた。殴った感触が、骨を砕いた衝撃が、まだ拳に残っている。
(死ぬかもしれないのがこんなに怖いもんだったのか…)
「ユウマ、ペンダントが光って…!」
「え?」
リンの声に促されて目を下げると、胸元のエーテルペントが鈍く光を放っていた。そして、それと呼応するように――ユウマの手にも淡い光がまとい始める。
(なんだこれ…?)
じんわりと温かく、それでいて異様に馴染む感覚。光は徐々に形を変え、ナックルへと移動していく。やがて――
「重っ!!!」
ナックルが銀色に輝き、鉄のように硬質化した。突然の変化に、ユウマは腕を持ち上げるのさえ一苦労する。
「手に意識を集中して!魔法をコントロールするの!」
「そんなこと言われても、いきなり実戦で魔法を扱うなんて無理だろ…!」
「ユウマ、危ない!」
リンの叫びと同時に、ゴブリンたちが一斉に飛びかかってくる。
(やばい――俺の命、ここまでか…?)
そう思った、その瞬間。
「フリーズスパイク!」
凛とした女性の声が背後から響いた瞬間、鋭い氷の槍がいくつも宙を駆け、俺の目の前を通り過ぎた。氷柱は寸分の狂いもなくゴブリンたちの心臓を貫き、その場に倒れ込ませる。
「もう大丈夫ですよ。二人とも、あとは僕に任せて。」
落ち着いた声音に振り向くと、そこに立っていたのは――
「あ、あなたは…!」
見覚えのある姿。黒い制服に身を包み、知的な眼差しを浮かべる女性。間違いない、以前見かけた委員長キャラの先輩だ。
「ペンドルトン、一気に決めますよ。」
「了解したロン!」
ペンドルトンと呼ばれた小さなペンギンの星獣が、ぷくっと頬を膨らませる。そして――
『アイスペンブリザード!』
冷たい霧が周囲に広がると、ゴブリンたちの動きが急激に鈍くなっていく。ただ凍らせるのではなく、行動を制御する魔法のようだ。
「今ロン!」
ペンドルトンの合図にルーシーは軽く頷き、水色の本を開く。彼女の周囲に魔力が集まり、空気がピンと張り詰める。
(これだけの数を一掃するには、上級魔法しかない…だけど、魔力供給なしでの使用は今のところ一回が限界。失敗すれば…僕がやられる。)
水色の魔法陣が輝きを増し、彼女の黒いスカートと髪が風に揺れた。そして、力強い詠唱が響き渡る。
『氷の嵐よ、荒れ狂え! ブリザード・ストーム!』
冷たい強風が吹き荒れ、氷の粒が渦を巻くように舞い上がる。視界を白く染めるほどの猛吹雪がゴブリンたちを包み込み――瞬く間に氷漬けにしてしまった。
「す、すごい…!」
思わず声を漏らすリン。
しかし、その場に立ち尽くしていたルーシー先輩は、力を使い果たしたのか膝をついた。
「ルーシー、大丈夫ロン!?」
「うん、大丈夫…ありがとう、ペンドルトン。」
よろけながらも立ち上がり、星獣の頭を優しく撫でる。
「ペンドルトン、周囲にまだゴブリンが残っていないか見回ってくれる?」
「了解したロン!」
ペンドルトンはピシッと敬礼をし、そのまま素早く辺りを巡回し始めた。
「君たち、大丈夫そうでよかった。」
ルーシー先輩は俺たちに向き直り、改めて自己紹介をする。
「僕の名前はルーシー・ノーザンライト。2年生です。 よろしくね。」
凛とした表情のまま、差し出された手。俺とリンは握手を交わす。
「ケンザキ・リンです。」
「ハヤシ・ユウマです。」
「なぜゴブリンが出現したのかは分からないけど、君たちのおかげで被害を食い止められた。本当にありがとう。」
その言葉に、少しだけ誇らしくなる。だが――
「おーい!ルーシー!無事か!?」
突然、背後から男の声が響いた。
「レオ先輩!問題ありません!無事にゴブリンを倒しました。」
「さすがだな。よくやった。」
そう言うと、レオさんは自然な仕草でルーシーの頭を撫でる。
(イケメンは何やっても許されるのかよ…俺がやったら間違いなく殴られるぞ。)
「もう、頭を撫でないでください!」
「すまんすまん。」
レオさんが軽く手を上げながら謝ると、視線が俺たちへ向く。
「ところで、この二人は?」
ルーシー先輩が簡潔に状況を説明すると、レオさんは納得したように頷いた。
「なるほど…君たちも頑張ってくれたんだな。よくやったよ。」
そして、穏やかな笑みを浮かべながら手を差し出す。
「俺は3年生のレオ・デュークだ。よろしくな。」
知ってますよ。チートキャラの人、って覚えました。
「後は俺たちサンクチュアリに任せて、君たちは休むといい。ご苦労様♪」
軽く手を振ると、ルーシー先輩と共に足早に去っていく。
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「今日は…疲れたな。」
俺は空を仰ぎながら呟く。
「ほんとに。でも、楽しかった。それに、魔法が使えるようになってよかったね。おめでとう!」
「これでようやく、俺もみんなと同じスタートラインに立てたな!」
「ふふっ…まだ星獣を召喚できてないでしょ?」
「そ、そっか…(笑)」
お互いに顔を見合わせて、苦笑する。
「それじゃあ、また明日。」
「うん、また明日。」
こうして、長く慌ただしい一日が終わった。
なんだか、リンとの距離が少し縮まった気がする。
(帰ったら、風呂にでも入るか…)
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翌日
4月16日
「今日は皆さんに、1週間後に行われる林間学習について説明します。」
先生の言葉に、教室内がざわつき始めた。
「林間学習だって…」
「姉ちゃんが言ってたけど、マジで地獄らしいよ。」
クラスメイトたちがヒソヒソと噂話を交わす。
「はいはーい、私語はそこまで! 今から、2日間共に行動する班を決めますので、みんな順番に前に来て、この箱からくじを引いてね~!」
先生に従い、生徒たちは列を作り、順番にくじを引いていく。引いた紙には、班の番号が書かれている。
やがて、ほとんどの班が埋まり、最後に残ったのは4班(あと2人)と6班(あと4人)。
そして、残ったメンバーは――
俺、ジョン、レイラ、リン、ミケロス、ミシェル。
(マジで頼むぞ、神様…!)
「次、ユウマ君からよ~。」
「よし、行くぞ!」
気合を入れて箱に手を突っ込み、勢いよく引いた紙を確認する。
「お、6か。」
「僕も6だ!」
「最悪……6。」
「6。」
「フン…4か。」
「4だって。」
俺、ジョン、レイラ、リン、ミケロス、ミシェル
それぞれが番号を確認し、リアクションを取る。
「では、各自班に分かれてくださいねー!」
「ジョーン!」
「ユウマー!」
「お前と一緒で俺は嬉しいよ~!」
「僕もだよ、ユウマ~!」
「アタシは最悪だけどね。」
レイラがジト目でこちらを見てくるが、気にしない。
「レイラもリンもよろしくな!」
「フーンだ!」
「よろしくね。」
(あっぶねぇ…!ミケロスの野郎と同じ班にならなくてよかった…!)
ちらりと視線を向けると、ミシェルがミケロスと一緒の班になっていた。
(ミシェル…可哀想に。 あんな兄と一緒とか、大変だろうな。)
「私、ドジで失敗ばかりするけど…一生懸命頑張ります。」
「よろしくね!ミシェルちゃん!」
「お前ら、俺の足を引っ張るようなことはするなよ!」
「兄様、そんな言い方はよくないです」
神様、どうかお願いです。この林間学習、何事もなく楽しい思い出として終わらせてください。
同時刻―― ギルド『サンクチュアリ』
「これは…」
レイヴンの鋭い声が響く。彼女の視線の先には、黒い魔法陣が刻まれた石板があった。
「気づくのが早いねぇ、さすがレイヴン。」
レオが腕を組みながら言う。
「これをどこで見つけたんだ、レオ。」
「昨日、ルーシーとゴブリン被害に遭ったカラビアの地下水路だ。おそらく、これがゴブリン召喚の鍵だったんだろう。」
レイヴンは沈黙し、しばらく石板を見つめる。
「……闇のギルド『オブキュラス』が動き始めたか。」
[おまけ]
「キャー♡ レオ様、待ってー!」
「……毎日毎日、よく飽きないな、あの子たち。」
学園の廊下に響く黄色い悲鳴。追いかけてくる女生徒たちを背後に感じながら、レオはため息混じりに呟く。
「先輩、こっちです! 早く隠れて!」
「え、あっ…」
ルーシーに腕を引かれるまま、狭いロッカーの中に押し込まれるレオ。
「キャー♡ 待って待ってー! …あれ? レオ様は?」
足音が遠ざかり、静寂が訪れる。
「ふぅ…助かったよ、ルーシー。って、おい、どうした?」
(あわわわわ……僕まで一緒にロッカーに入ってしまった……!!)
ルーシーの脳内は一瞬にしてパニック状態。
(しかもこの中、狭い! 先輩の顔が近い! 近すぎる! しかも、手を壁についた状態だから……これ、壁ドンになってる!?)
鼓動が爆音のように響く。
(ホントに無理です。ルーシー・ノーザンライト、本日命日です。いままでありがとうございました。)
「おい、ルーシー? 返事をしてくれー!」
「なんか、あのロッカーやたらとガタガタ動いてるロン。変なの。」
次回! [第十話 みんなで楽しい林間学習]
第九話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




