[第百話、鳴かぬ蛍が牙を研ぐ]
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レビューなんかもしてもろたら涙ちょちょぎれますわん
どうぞよろしゅうに〜
パリン。
何かが砕ける音がした。けれど、それは耳で聞いたわけじゃない。感覚の奥、もっと深い部分で感じた。心臓がギュッと縮み上がるような、不吉な予感が背筋を駆け上がる。
何かが、壊れた。
そう思った瞬間、全身に嫌な悪寒が走った。けれど、何が壊れたのか、何が消えたのか――それはわからない。わからないけれど、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような、そんな感覚だけが残る。
息が詰まる。頭の中が白く霞んで、目の前の景色が遠くなる。何かが欠けた気がするのに、それが何なのか思い出せない。
俺は――何を忘れている?
「ユウマ? ちょっと... いきなりどうしちゃったのよ」
ぼんやりとした視界の端で、レイラが俺の顔を覗き込んでいた。心配そうな表情を浮かべながら、何度か声をかけているのはわかる。だけど、その声は妙に遠く、ぼやけて聞こえた。
自分が今どこにいるのか、何をしているのか――それすらも曖昧になっていく。
次の瞬間、バチコーン!という音が響いた。
「いってぇぇぇぇ!!!」
頬が熱い。じんじんとした痛みが走り、一瞬で視界がクリアになった。何が起こったのか理解するよりも早く、目の前のレイラが腕を組んで仁王立ちしているのが目に入る。
「いきなりボサッとするからでしょ!?」
「だからって殴ることないだろぉぉ!?」
ギャーギャーと叫びながら、頬をさすりつつ文句を言う俺。それに対し、レイラはフンッと鼻を鳴らして腕を組んだ。
「アンタ、さっきから様子がおかしいじゃない。いきなり固まって、なに考えてたのよ?」
「さっき、なんか変な感じがしたんだよ」
「変な感じ? いつも変なのに?」
「んー... なんかすごく不吉な感じがする」
このモヤモヤはなんだろう。今まで生きてきて、こんな胸騒ぎを感じたことなんて一度もなかった。悪いことが起こる前触れ――そんな風に思えてならない。
その時、校内に軽やかな放送が響いた。
「17時になりました、これより文化祭の最終プログラムとなります。 校庭でのダンスを始めます。」
「もうそんな時間か...」
俺はポケットからソサマを取り出し、時間を確認した。
嫌な予感を振り払うように、俺はレイラに向かって言う。
「レイラ、よかったら一緒に校庭まで行こう」
「え? ア、アタシ?」
突如、レイラの動きが止まった。モジモジと指をいじり、視線をそらしながら、顔を真っ赤にしている。まるで、突然の誘いが予想外だったかのように。
「もしかして、もう相手いたりする?」
「そ、そうね! この爆裂美少女のレイラ様だもん! 相手の1人や2人はいるに決まってるじゃない!」
エッヘンと胸を叩き、ドヤるレイラ。しかし、その動きはどこかぎこちなく、目線も泳いでいる。
「そうか... だったら仕方ないな」
俺が踵を返し、一人で校庭に向かおうとすると――
「待ちなさいよー!」
慌てたように腕を掴まれた。俺が振り返ると、レイラは頬を膨らませながら、そっぽを向いたまま呟く。
「今日は特別にアンタと踊ってあげてもいいわよ...」
最初からそう言えばいいのに。ツンデレとは本当に手のかかる性格だ。
「おっ! じゃあ一緒に行こうぜ」
ぶつぶつと文句を言いながらも、レイラはしっかりと俺の横を歩き始めた。
まぁ、これはこれで可愛いかもしれないな、なんて思った。
−−−−−−
ユウマとレイラが体育館を出て校庭に向かう
最後を締めくくる圧巻の雰囲気にレイラは思わず一粒の声を漏らした。
夜空は、静かに燃えていた。
墨を垂らしたような空に、星の雫が零れ落ち、呼吸するように瞬く。
そのひとつ、ふたつが尾を引き、やがて数え切れない流星が、夜の帳を裂いていく。
その下では、グラウンドいっぱいに広がる魔法の灯りが、揺らめきながら祝祭の終焉を盛り上げていた。
生徒たちの歓声、笑い声、弾けるような熱気が、夜風に乗って広がっていく。
魔術で浮かび上がる光の花が次々と宙へ舞い上がり、静かな夜を一瞬で煌めかせる。
ひとつ咲いては散る光の花火、そしてまた新たに咲く星のきらめき――どちらが天上のものなのか、地上のものなのか、その境界すら曖昧になっていく。
そして、グラウンドの中央には、踊る者たちが集い始める。
肩を揺らし、足を踏み鳴らし、魔法の光に照らされながら、生徒たちがゆっくりと円を描くように動き出す。
上空からその様子を見下ろす星々は、ただただ沈黙しながらも、そのすべてを見守っていた。
今だけは――この瞬間だけは、何もかもが輝いていた。
それが、嵐の前の静けさであることも知らずに。
「凄いな、とっても綺麗だ…」
ユウマは夜空に舞う光の粒を見つめ、息を呑んだ。星明かりの下で、まるで魔法がかけられたかのように幻想的な雰囲気が漂っている。
そんな彼の前に立ったのは、端正な顔立ちに綺麗に結ばれたツインテールを揺らすレイラだった。彼女はユウマに手を差し伸べ、躊躇いもなく言葉をかける。
「ほら、踊ろう」
促されるままに手を取ると、グイッと強引に引っ張られ、互いの身体が密着する。驚いて足元がふらつくユウマを見て、レイラは可笑しそうに笑った。
「踊れないなんてダッサーい」
「うるせーよ! こちとら女の子と踊ったことなんか一度もありませんので!」
「はいはい、ではアタシがリードしてあげるわよ」
校庭の真ん中では淡い灯りが揺れ、まるで世界がその場所だけに収束しているかのようだった。
レイラが微笑むと、ユウマの緊張も少し和らぐ。彼女の手を握り、ぎこちなくステップを踏む。指示に従うたびに、少しずつリズムを取り戻していく。レイラの動きは優雅な風に乗るように軽やかで、ユウマを導いていく。彼自身もまるで夢の中にいるかのような感覚に包まれた。
目の前にはただ彼女だけ。まるで"前世"で結ばれた運命のように、二人の動きが次第に一つになっていく。
すると、ユウマを颯爽と拐っていく影があった。
「ちょっと、いきなりなにすんの… よ」
「ごめんねレイラちゃん、ユウマくんは頂いていくわ♪」
エメラルドグリーンの髪が美しく舞い、端麗な笑顔を浮かべるメリファがいた。
「メリファさん…? どうして俺とダンスを? レイヴンさんと踊らないんですか?」
疑問だらけのユウマに、メリファは目を細めながら言葉を紡ぐ。
「レイヴンとはこのあと踊るわ、でも今はもう一人の王子様役の貴方と踊りたいの」
その言葉と同時に、曲が変わった。軽快なビートが流れ、雰囲気は一変する。
「ほら、もっとノって♪」
メリファがくるりとユウマの腕を引くと、シェイクのリズムに合わせてステップを踏む。ユウマは慌てながらも、彼女のリードに引っ張られ、軽やかなリズムに身を任せた。
「ちょ、ちょっと! 俺、こんなダンスやったことないんですけど!」
「大丈夫よお姉さんに任せて♪」
スカートを翻しながら踊るメリファは、まるで風を纏った妖精のようだった。ユウマは必死に彼女の動きに追いつこうとするが、どこか楽しさが混ざる。
そんな二人の様子を遠くから見守るように、ワイングラスにグレープジュースを注ぎ、石で造られた縁石に腰掛けるレイヴンとローザ。その隣ではフェイが頬杖をつきながら、じっと校庭を眺めている。
「ブラボーね、あの二人」
ローザがフフンと笑い、独り言のように呟いた。
「私にしてみればまだまだ、だな」
レイヴンは足を組みながら、ワイングラスを傾けると一飲みし、静かに目を細める。
「あら? サンダーガール、まさか嫉妬かしら?」
「なわけ… ある」
「やだー♡ 可愛いわね、このこの♡」
「脇腹を突くな! 触るな!」
学園の女王であるレイヴンの脇腹を遠慮なく突けるのは、同じクラスメイトであるローザだからこそだろう。二人は楽しそうに戯れ合いながら、軽口を叩き合っている。
そんな中、屋台で買った大量のポテトやクレープを頬張るフェイの視線は、ダンスをする人々に向けられていた。ポテトを口に放り込みながら、恨めしそうに呟く。
「なんやなんや… ユウマのアホ、ウチのことフっといて、レイラとは踊るんかいな… それにメリファ先輩とも… アホンダラのタコー!」
ポテトを噛みしめながらブツブツと文句を言っていると、その独り言がしっかりと耳に届いていたのか、一人になったレイラがフェイに近寄り、目を輝かせて詰め寄った。
「フェイ先輩、ユウマに告白したんですか!? しかもガチのやつ!?」
「ん!? ゲホゲホ… 今の話し聞いてたん?」
「聞いてたも何も、かなりの声量でブツブツ言ってるから聞こえるわよ!」
「そうやねん、ウチ実はユウマに告白してん」
すると、その話をさらに聞いていたもう一人が、驚きの表情を浮かべながらレイラの背中に抱きつくようにしてやってきた。
「今の話し聞こえちゃいました、フェイ先輩尊敬します!」
同じくユウマの恋のライバルの一人であるリンも、フェイを讃えるように激励を送る。
「恋のライバルが減って可能性が上がったな、お二人さん」
フェイは親指を立て、冗談じみた言葉をレイラとリンに投げかける。
「アタシだって告白したくてもそんな勇気でないのに… フェイ先輩、今日から師匠って呼びます」
「ホントに師匠って呼びたくなるね! よかったら、告白したときのユウマの反応を教えていただきたいです」
フェイは満足そうにポテトを頬張りながら、「ええで」と小さく笑った。
優雅な旋律に乗せてカップルたちが次々と踊り出すなか、ひと際目を引く二人がいた。
「キース、お前ほんっとにダンスが上手いな、とくに腰使いが最高にエ...」
シルベスターが余裕たっぷりに笑いながら、しっかりとキースの腰を抱く。
「当然です。俺こう見えて貴族の家系ですからね」
「嘘つくな」
「えへへ、バレましたか」
小さく舌打ちしつつも、シルベスターの顔はどこか誇らしげだった。
二人のステップは完璧で、息もぴったり。シルベスターがキースの手を引き、くるりと回転させると、観客からもちらほらと拍手が上がる。
「そんな可愛い顔するなって… 惚れ直してしまうだろ?」
「……惚れ直してください♡」
キースは耳まで赤くしながらも、しっかりとシルベスターの手を握り返す。
みんなが賑やかに踊り、笑い、夜の空気を熱気で満たしているなか、その喧騒から少し離れた木陰に、ひっそりと寄り添う二人がいた。
ジョンとルナ。
彼らは踊ることもせず、ただ静かに並んで座り、指先を絡めるように手を握り合っていた。
「踊りますか?」
ジョンがそっと問いかけると、ルナは小さく首を振り、ぎゅっと手を握り返す。
「ううん、ここでジョンといたい」
どこかお互い受け身がちなこのカップルは、言葉よりも穏やかな時間を大切にしているようだった。
「まさか、入学したときは好きな人と文化祭とか一緒になんて想像もできなかったなー」
ジョンは少し照れくさそうに頬をかきながら、隣に座るルナをチラリと見る。
「私も... 好きな人ができるなんて思ってもみなかった...」
ルナは恥ずかしそうに、金色の髪を耳にかける。その仕草がやけに愛おしく見えて、ジョンは思わず微笑んだ。
ふと、思い立ったように彼はルナを見つめ、少しだけ声を弾ませる。
「あの、ルナ先輩」
「なに?」
「冬休み、僕の故郷に遊びに来ませんか?」
「え?」
ルナが驚いたように目を瞬かせると、ジョンは慌てて手を振る。
「いや! いやならいいんです! ただ、こんな素敵な人を早く両親に会わせたくてとか... なんちゃって...」
言葉を濁して照れるジョンを見て、ルナは小さく笑った。
「行きたい、ジョンのご両親に会いたい」
「やった♪」
素直な喜びを隠せないジョンに、ルナはそっと微笑みながら、彼の頬に手を添える。
「フフ、笑ってる可愛い」
その言葉に、ジョンの顔が真っ赤になった。
「まぁ、そういう感じやな」
しんみりとした様子ではあるが、どこか吹っ切れたような表情でフェイはレイラとリンに、自身の告白を語った。
「なによ、幸せにできないって! 振られてないのになんかムカつくー!」
「ユウマらしい振り方って言えば、そうだけど… 全くホント、ユウマって…」
レイラはツインテールをピーンとアンテナのように張り、リンはやれやれと首を横に振る。
そんな彼女たちのもとに、わらわらと星獣たちが集まってきた。
「レイラー!」
「あら、フレイア。ベジタブルンジャーのグッズは買えたの?」
「うん! 買えたピィ!」
赤い翼をパタパタと羽ばたかせながら、満足そうにするフレイア。
「おかえりなさい、ヤマトマル」
「ただいまっスー!」
「ヤマトマル… 口調」
「すんません… あっ! そうだ! リン様、ムニン見なかったでござる?」
「ムニン? ジュリア先輩と一緒なんじゃないの?」
「エシャもアイシャもいないルー!」
リンの足元で、ホッパーが手振りを交えながら訴える。
星獣たちの様子を察したレイヴンが、ふと口を開いた。
「ムニンやジュリアがどうした?」
「いつもは一緒に行動するのに、今日は朝見かけてからずっと見てないアルよ」
白い子犬のリエルは、眉を八の字にしながらレイヴンを見上げた。
リエルの言葉に、レイヴンは腕を組み、考え込むように視線を落とす。
「なにもなければいいのだが…」
そんなとき、ダンスを終えたメリファとユウマが、息を切らしながら戻ってきた。
「ただいま〜♡ おまたせ♪ レイヴン、一緒に踊りにいきましょう」
「ちょ、ちょっと待て! こら、手を引っ張るな…!」
フフフと笑いながら、メリファはレイヴンの手を強引に引き、またダンスの輪へと消えていった。
「メリファさん、元気だな…」
苦笑しながら呟くユウマ。だが、ふとレイラたちの方を見ると、三人が眉をひそめ、ジーッと鋭い視線を送ってきている。
「な、なんだよ。なんでそんな目で俺を見るんだよ」
「別に〜」
「やっぱりユウマはユウマだね」
「アホンダラのタコ」
レイラ、リン、フェイの順番で、ユウマに皮肉っぽい野次が飛ぶ。
「えぇぇ…」
ため息交じりに肩をすくめるユウマ。しかし、フェイやレイラが軽口を叩くなかで、リンだけはユウマをじっと見つめ、なにか言いたげに口を開こうとしていた。
(あれ? リン、もしかしてユウマと…)
そんなリンの様子を見たレイラが、何かに気づいたように目を輝かせると、突然リンの背中に回り、ユウマの方へグイグイと押し出した。
「ユウマ〜、リンと踊ってきなさいよ」
「え? 俺!? いいけど…」
「ちょっと! レイラ… 私、なにも言って…」
顔を赤らめてワタワタするリンの耳元に、レイラがこっそりと囁く。
「今日ずっとギルドの仕事頑張ってたんでしょ? ユウマに甘えてきなさいよ」
「レイラ…」
レイラは得意げにウィンクをすると、リンの背中を軽くポンと叩く。
「じゃあ、踊りに行ってくれる?」
戸惑いながらも、そっと手を差し伸べるリン。
ユウマはその手を握り、リンとともに校庭の真ん中へと歩いていった。
次回![第百一話、つぶれちゃったザクロみたい]
第百話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧
ついに百話ですって
いつも読んでくれてありがとうございます。
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