[第九十九話、落ちて、降りて、沈んでいく]
毎週、月、水、土、絶賛更新中!!
高評価にコメントも頼んまヾ(*’O’*)/す〜
レビューなんかもしてもろたら涙ちょちょぎれますわん
どうぞよろしゅうに〜
一話から十話まで、なんか色々気になったとこ修正したんで、気になる人は読んでみてな〜
息を切らしながらも校内を駆け抜ける二人。
ジュリアは脇腹を押さえながら、それでもミケロスの後を追い続けた。
「ハァ…ハァ…ミシェルちゃんがどっちに行ったかわかるの?」
前を走るミケロスは自信に満ちた表情で答える。
「確信はないが…ミシェルの魔力が微かに感じる」
ミケロスは生まれたときから妹と共に過ごしてきた。かつてなら、ミシェルがどこにいるのか、どんな感情を抱いているのか、直感的に理解できたはずだった。それが今では、ぼんやりとした魔力の残滓を辿ることしかできない。
(俺がミシェルを気にかけてやれなかったせいで、こんなことに…情けない兄ですまん)
ミケロスは無意識に手の指を動かし続けていた。それは自分の焦燥を鎮めるための癖のようなものだった。ジュリアはそんな彼の横顔を見つめながら、なにも言わずに走り続ける。
やがて二人は目的地にたどり着いた。そこは——
「ここって、私たちの…サンクチュアリの部屋?」
ジュリアが肩で息をしながら呟く。ミケロスも眉をひそめ、扉の前で立ち止まった。
「どうなってるんだ…」
ジュリアがドアノブに手をかけようとした、その瞬間。
「待ってくれ」
ミケロスが咄嗟にジュリアの手を押さえ、できるだけ小さな声で囁いた。
「この部屋には…ミシェル以外の誰かが数名いる。しかも、魔力の質が異様に歪んでる…」
ジュリアの表情が険しくなる。
「まさか、オブキュラス…?」
ミケロスは無言で頷く。ジュリアはギルドの扉を見つめながら、かすかに震える息を吐いた。ミケロスが再び口を開く。
「ジュリア、君に頼みがある。生徒会長... レイヴンさんにこの事を伝えてほしい」
「じゃあ、ミケロスは?」
「俺はこの中に入って時間を稼ぐ」
「そんな! 無茶だよ!!」
ジュリアは思わずミケロスの腕を掴む。だがミケロスは静かに彼女の手を振りほどいた。
「元はといえば…俺が招いてしまった事態かもしれない」
「…どういうこと?」
ミケロスは林間学習での出来事を語った。ユウマやリンに対して嫉妬に駆られ、ダミアナの封印を解いたこと。ミシェルにきつくあたり、悩んでいる妹を無下にしたことを話した。
「…そうだったんだね」
ジュリアはしばらく沈黙したあと、小さく頷いた。
「だからここは俺に任せてほしい」
「…わかった。でも、ひとつ条件があるよ」
ジュリアは背後に控えていた自分の星獣ムニンをミケロスの肩に乗せた。
「ムニンを連れていって。いいよね? ムニン」
「 まかせるじょ!」
ミケロスの足元にいたエシャも不安げに彼を見上げながら、決意を込めた眼差しで言った。
「私もミケロス様のお側から離れないにゅ」
ミケロスは彼らの想いを受け止め、不安でいっぱいだった気持ちがほんの少しだけ楽になった気がした。
「…みんな、ありがとう。では俺が合図をしたら突撃する。…3、2…」
だが、そのとき。
「こそこそと扉の前で…さぁ、入ってこい」
背筋を凍らせるほど冷たく、抑揚のない低い男の声が響いた。
次の瞬間——
ガンッ!!
扉がひとりでに開き、ミケロスとジュリアは猛烈な力で吸い込まれた。
「なっ…!?」
抵抗する間もなく、二人の身体は異様な引力に引き寄せられ、部屋の中へと投げ込まれてしまった。
サンクチュアリの部屋の空気は、異質なまでに重く、冷たい。まるで——そこだけが異界に繋がっているかのように。
ジュリアが床に倒れ込みながら顔を上げると、そこにはミシェルが立っていた。その隣には、黒いローブに身を包んだ数名の影。
「ミシェル! 俺と一緒に帰ろう!」
ミケロスの声が響く。しかし、目の前にいるのはかつての妹とは違った。ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべながらも、その瞳の奥には怨讐が渦巻いていた。
「お兄様、私は帰りません♡」
その甘い声が、まるで嘲るように響く。
「そうか、ならば…!」
ミケロスは杖を構え、強制的に連れ帰るために眠りを誘う魔法を唱えようとした−−だが、その瞬間。
「なんて乱暴なお兄様なんだ? なぁ? ミシェルよ」
その声は、まるで地獄の底から響くような、不気味な余裕に満ちていた。
ミケロスが呪文を詠唱する前に、魔王はただ指一本を軽く振るった。それだけで、彼の杖はスルリと手から抜け落ち、まるで意思を持つかのように闇に呑まれて消えた。次の瞬間、黒い雷のロープがミケロスの四肢に絡みつき、彼をその場に縛りつけた。
「くっ…!」
バチッと音を立てる黒雷の縄は、抵抗するほどに電撃を流し込む。ミケロスは歯を食いしばりながらも、身体をねじることすらままならない。
その光景に、ジュリアは思わず息をのんだ。
周囲に立ち並ぶ黒いフードを深々と被った魔法使いたち そして、彼らが醸し出す圧倒的な闇の気配。空気そのものが沈むような重圧に、彼女は思わず後ずさった。まぶたを震わせながら、恐怖を抑え込もうとするが、足がすくむ。
それに気付いた魔王は、フードを外しながら愉快そうに声を上げる。
「お前は…確か、ジュリアとか申しておったな?」
その名を呼ばれた瞬間、ジュリアの背筋に冷たい悪寒が走る。
「魔王イクノシア…何故こんなことをするの?」
声を絞り出すように問いかけた。しかし、イクノシアはまるで滑稽なことを聞かれたかのようにヘラヘラと笑いながら肩をすくめた。
「何故? 理由を知ってどうするのだ?」
その軽薄な態度が、余計に不快感を煽る。ジュリアは震える指をギュッと握りしめ、恐怖をねじ伏せるように前に出た。
彼女の両手に、鉄製のグローブのような武器が召喚される。蟷螂鉄糸その細く鋭い糸が指先からするすると伸び、瞬く間にイクノシアの手足へ絡みついた。
「喰らえッ!」
ジュリアは一気に雷を流し込もうとした
だが。
「…ふむ」
イクノシアは顔色一つ変えなかった。それどころか、彼の周囲に闇のオーラがふわりと膨れ上がる。次の瞬間、糸は音もなく溶けた。いや、消え去ったと表現するのが正しいだろう。
「なっ…!?」
驚愕に目を見開くジュリアに、イクノシアは口角を上げて微笑む。
『闇よ、絡みつけナイトメア・タングル』
手を広げ、黒く粘つくスライムのような闇の粘土がジュリアへと飛びかかる。
『させるかじょ! ハートシールド!』
ムニンがジュリアの前に立ち、ピンク色に輝くハート型の盾を展開する。
ドロッとした闇の粘液がムニンの盾にぶつかり、バチバチと音を立てながら弾かれた。
ピキッ――
だが、たった一度の攻撃で、盾に細かなヒビが走る。
「ほぉ… 星獣のくせにやるではないか」
イクノシアは感心したように目を細め、手を軽く掲げる。
「では、もう一度」
同じ呪文を放つ
「も、もうもたないじょ…」
ムニンの声とともに、バリンッ! と盾が砕け散った。
「くっ――!」
防御を失ったジュリアとムニンは、うねうねと這い寄る黒い粘液に絡み取られ、そのまま捕らえられてしまう。
「な、なにこれ… ネバネバして…!」
「この魔法は捕まえるだけではないぞ?」
イクノシアが手をギュッと握る。
闇青紫の稲妻が粘液の中を走り、ジュリアとムニンの体を激しく貫く。
「ぐああああああっ!!」
絶叫が響く。
ジュリアの身体が痙攣し、ムニンも羽をバタつかせながら苦しげにのたうつ。
その光景に、ミケロスの瞳が絶望に染まった。
「頼む…この人達を傷つけないでくれ、お願いだ…お願いします…!!」
「グハハハ! 何故だ? 今死のうが後で死のうが結果は一緒だが?」
イクノシアは楽しげに笑い、口角を吊り上げる。
その後ろで、ミシェルも肩を震わせながらクスクスと笑っていた。
「何でも言うことを聞きますから! お願いします!!」
かすれた声が漏れた。
それは、懇願か、それとも呪いか。
その言葉に、イクノシアの手がピタリと止まる。
「……何でもすると?」
イクノシアは酒の入ったグラスを揺らしながら、隣のミシェルをちらりと見る。
「ミシェルよ、プライドだけはご自慢の兄がここまで堕ちたぞ。お前の望み通りになったわけだが、どうする?」
イクノシアが酒を飲み干し、優雅にくつろぐ。するとミシェルが静かに歩み出た。
ミケロスの前に立ち、細めた瞳でクスクスと笑う。
「お兄様、何でもしていただけるなら お兄様もオブキュラスに入っていただけません? そして、私と仮契約をしましょう…この薄汚い世界から、ユウマくんを守るために。」
囁くように言いながら、ミケロスの前に立つミシェル。
「ミシェル…お前って奴は…」
ミシェルによって拘束が解かれたミケロス
彼は屈辱に耐えながら、ゆっくりと膝をついた。
「……言う通りにする」
その瞬間、痛みに耐えるジュリアが震えた声で叫ぶ
「ダメ! アナタは闇に染まったらダメ!」
ジュリアの叫びが、張り詰めた空気に響いた。
「はぁ? お前ごときがお兄様に指図を…」
「よせ、ミシェル」
ミシェルがジュリアを蹴り飛ばそうとしたが、イクノシアが制止した。
「哀れな娘よ、お前には生きる希望を失うほどの絶望を味わせてやろう」
イクノシアは愉快そうに嗤うと、苦しみ倒れているムニンを宙に引き寄せ、鷲掴みにした。
「先程、どうしてもおトイレに行きたかったからおトイレに行ったときに、ふと隣の男子に質問をしたんだ」
その余裕たっぷりの語りに、ジュリアの鼓動が嫌な形で跳ねる。
「星獣が死んだとき、魔法使いはどうなるのか? とね」
イクノシアはニヤリと犬歯を覗かせ、目を細めた。
「最近の子供はなにも知らないのだな、これがどういうことかわかるか?」
ジュリアは眉を寄せ、奥底からこみ上げる戦慄を感じた。
「星獣が死ぬなんて、そんなこと聞いたこともないわ! つまらない話をしてないで、ムニンを放して!」
怒りと恐怖が入り混じり、彼女は震えながらイクノシアを睨みつける。
「そうかそうか、ならば... 実践してみようか」
「嫌じょ! ジュリア! ジュリアー!!」
ムニンがもがきながら叫ぶ。しかし、イクノシアの掌に渦巻く黒炎が、徐々にその色を濃くしていった。
『さよならの代わりに綺麗に鳴いておくれ、ヴォイドフレア』
黒き炎が、ムニンの身体へと放射された。
「ギャァァァ!!」
空気を裂くような絶叫。
燃えている。ムニンの黒い羽が、赤々とした闇の炎に包まれ、焦げる音が辺りに響く。
イクノシアの手のひらで燃え盛る黒炎は、まるで意思を持ったかのように流れ落ち、地面に影を伸ばした。
闇に縛られたまま、ムニンは暴れる。
もがく。
必死に翼を広げようとする。
だが、火は容赦なく羽毛を舐め、皮膚を裂き、焦がしていく。
「ギィィィィッ!!」
喉を引き裂くような悲鳴。
それでも、炎はムニンの苦しみを聞き届けることはなかった。
火は喉元を襲い、熱風が気管に流れ込む。
「キュッ…! ヒュ…!」
声が掠れた。
断続的な息音に変わり、ついに沈黙が訪れる。
――ムニンは死んだ。
ペンダントが砕け散る音がした。
そして、ジュリアの身体から光が立ち昇っていく。
それは失われた魔力の名残。
「いやぁぁぁ!」
ジュリアの声が虚空に響いた。
ペンダントが砕け、魔法使いの資格も消えた。
彼女の全てが、粉々に崩れ去った。
イクノシアは丸焦げになったムニンを、ゆっくりと口元へと運んだ。
燭台に照らされたような薄笑いを浮かべながら、彼は静かに目を閉じ、修道院での食事の時のように、皮肉たっぷりの感謝を捧げる。
「天より与えられし糧に感謝を……」
まるで神に祈るかのような口調で呟いた後、ふっと瞳を開き、楽しげに微笑む。
「さて、いただこうか」
バリッ、ボリッ、ジュッ……
焼け焦げた羽根の間から肉が裂ける音が響く。
歯で砕くように咀嚼し、イクノシアは陶酔したように目を細めた。
ほんのりと香ばしい風味の奥に、微かに漂う焦げた脂の苦味。それを舌で転がしながら、彼は笑う。
「これはいい。焦げた皮の下から滲み出る、わずかに鉄臭い甘み…」
イクノシアはゆっくりと咀嚼し、口の中に広がる熱を感じるように唇を舐める。
「肉は固すぎず、柔らかすぎず…そうだな……例えるなら……」
イクノシアは考える素振りをし、ふっと唇を吊り上げた。
「死にたての命の味、か。」
そう言って、血の滴る指を舐めとる。
「とっても美味だ♡」
血も涙もないその笑顔が、何よりも邪悪だった。
鬼畜とは、こういうことを言うのだろう。
泣き崩れるジュリア。
声にならない声で、ただ涙を流し続ける。
「では、我の完全復活の儀式を始めるとするか」
魔王が手を上げると、オブキュラスたちが動き始めた。
−−−−−−
サンクチュアリの部屋には、ただ心蕩けたジュリアだけが取り残された。
もう、ムニンは帰ってこない。
彼女の魔法使いとしての生も終わった。
ジュリアは、ただ泣くしかなかった。
[おまけ]
「じゃじゃーん! ジュリアちゃんのファッションショーへようこそーっ!」
ジュリアの部屋のカーテンが勢いよく開かれる。
光沢のあるベージュのドレスに、ふんわりとしたフリルがついたエプロン風の装飾。手には小さなハットを持ち、くるりとターンを決める。
ベッドの上で丸くなっていたムニンが、ジュリアの方へと黒い羽をばさりと広げた。
「うおお!? じょ、じょじょじょ、ジュリア! なんかすごいじょ!」
「でしょ!? これ、ママのおさがりのドレスなの! 似合う?」
ジュリアは両手を広げて、ムニンに向かってくるくる回る。
部屋の淡いピンクのカーテンが風に揺れ、窓から差し込む夕陽が彼女の姿を柔らかく包み込んでいた。
「すっごく似合ってるじょ! まるで…お姫様みたいだじょ!」
ムニンは小さな羽をぱたぱたさせ、ジュリアの周りを飛び回る。
「お姫様かぁ~! いいねえ、じゃあムニンは王子様かな?」
「王子様!? ぼ、ぼぼぼくがか!? 無理じょ無理じょ! そんな柄じゃないじょ!!」
「大丈夫だよ、ムニンはもう私の王子様だから」
そう言ってジュリアはくすくす笑いながらムニンを抱きしめる。
窓の外、夜の帳がゆっくりと降りてくる。
二人はベッドに腰を下ろし、部屋の窓から流れ星を見つめる。
「ねぇ、ムニン。星ってさ、何億光年も輝いてるけど、いつかは消えちゃうんだよね」
ジュリアはふと、遠くの星を指差した。
「…うん。星にも寿命があるじょ」
「なんかね、ちょっとだけ寂しいなぁって思うの。ずっと光り続けてくれるわけじゃないんだなって」
「でも、星は最後まで全力で輝くじょ。ジュリアは知ってるじょ? どんな星だって、最後の瞬間まで、めいっぱい光るんだじょ」
「…うん」
ジュリアは微笑みながら、夜空を見上げる。
ムニンは小さく羽を震わせ、ジュリアに寄り添う。
「ジュリア、ボクたちはいつも一緒だじょ」
「うん…ずっと一緒だよ」
指先でそっとムニンの羽を撫でる。
あのときの夜空の星は、今も変わらず輝いている。
だけど
今となっては、もう、その温もりには触れられない。
もう、ムニンは帰ってこない。
次回![第百話、鳴かぬ蛍が牙を研ぐ]
第九十九話を読んでくださったそこのアナタ!
次回も読んでくれると嬉しいです(。•̀ᴗ-)✧




