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元気なあいさつ

うろたに急かされ、会社に向けて足を運んだ。

会社までのみちのりのなか、うろたにいろいろと質問をしたが、のらりくらりとかわされ、事態の究明には何も繋がらなかった。

ただ、いくつかわかったことがある。


うろたの声はどうやら、俺にしか聞こえないということ。

うろたは俺が見ている世界と同じものを見て同じものを聞いていそうだということ。

あとは普通に会話をすることはできるが、俺は声を出して話さないと、うろたには伝わらないということ。つまり思考が読めるわけではないらしい。


そんなやりとりをしているうちに会社の前に到着した。

この状態で、出社して本当に大丈夫なのだろうか。

俺は会社のビルの前で立ち止まった。

『こんなんで出社して大丈夫かな?なんて、ここまで来て考えるなって。大丈夫。うるさくしないから。ま、うるさくしたところで、俺の声は周りに聞こえないけどな』

うろたが言う。

「え? 俺が考えていることがわかるの? さっきわからないって・・・」

俺がうろたえる姿を見て、うろたは少し笑い声をもらした。

『いやいや、わからないよ。ただ、さとるの考えそうなことだなと』

さも、俺のことを知っているかのようにうろたが言う。少し気味が悪い。

『とりあえず、タイムカード切れって。ほれほれ』

うろたが、俺を急かした。


俺は覚悟を決めて出社することにした。今起きていることは何がなんだかわからない。ただ、頭の中のうろたと名乗る男と、会話ができるだけで、今のところ、体調が悪くなったりということはなかった。


オールアドは駅から徒歩10分くらいの5階建てのビルの4階だ。1階は飲食店で、5階は大家が住んでいるらしい。そんなに大きくないビルだが6人程度が乗れるエレベーターがある。


ビシッと決まった受付も、受付嬢もいない。エレベーターを降りると簡易パーテーションが設置されていて、その前にテーブルと内線電話が置いてある。オフィスの奥の声は丸聞こえである。まだ、歴史も浅く、100人に満たない中小企業だから仕方ない。


「おはようございます」

いつものように受付の前をすり抜け、タイムカードを押しながらあいさつする。

受付を抜けた入り口に営業部隊のデスクがある。

『元気ないね。朝からそのあいさつ』

自分のデスクに向かっていると、うろたがボソッと言う。

「元気だし」

俺は小声で言い返しながら、自分のデスクに座る。

「ん?おはよー。なんか言った?」

先にデスクに座っていた和樹が俺のほうを向く。

和樹と俺はデスクが隣同士だった。和樹も今、出社してきたばかりのようだった。

「え?あ、いや、なんでもない。」

俺は慌ててごまかした。なんとなく声が聞こえてるなんて言いづらかった。

うろたは慌ててごまかす俺の姿に笑いを堪えるのに必死なようだった。


その後、うろたが俺に話しかけてくることはなく、いつものつまらない一日が始まった。

ただ、うろたは、間違いなく俺の頭の中にいるのがわかった。なぜなら、うろたが、時折、ほうほうとか、なるほどとか、聞こえるか聞こえないかくらいの声でささやいているのが聞こえたからだ。


会議と午前中の業務を終わらせ、お昼休みに入った。

オフィスに同期がいるときは一緒にランチを食べるが、営業に出ているときや誰もいないときは一人でランチに出る。

だいたいは、近くの定食屋で食べるか、コンビニでごはんを買い、近くの神社、昨日、祭りをやっていた神社のベンチでごはんを食べる。

今日はコンビニでごはんを買い、神社のベンチで食べることにした。

うろたに話しかけようと思っていたので、周りに人がいないところでランチを取りたかったのだ。


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