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平凡な男がナンバーワンを目指す!

仕事がつまらない。まともに教えてくれる上司がいない。若手管理職で部下のマネジメントに困っている。そんなときに、小説を読んでみたら、いつの間にか仕事ができるようになっていた。というような、楽しみながらビジネススキルを習得できる小説を目指します!

▼第1話 始まりは愚痴大会と共に

もうすぐ暑すぎる夏が終わる。セミの鳴き声もいつの間にか聞こえなくなっていた。

明日からもう9月になる。そんな日の夜の出来事だ。


「まじで終わってない?うちの会社」

「こんな無名な会社でで売れるわけないっての」

「それわかるわ。それで売って来いって、馬鹿なの?」

「だよな。なんでこんな会社に入ったんだか。」


 俺は会社の近くで行われている神社の祭りに新卒の同期4人と共に仕事終わりで遊びに来ている。都内でも有名な神社で、そこそこ大きな祭りだ。この祭りが行われる夏の終わりと、花見の季節は、人があふれかえる。


俺たちは、出店の裏側にあった飲食スペースにいた。ビアガーデンにあるようなプラスティックの椅子に座り、瓶ビールが入っていたであろうボトルクレートの上に板を置いた簡易テーブルを囲み、ビール片手に会社の悪口をつまみにお酒を飲んでいた。仕事終わりに月に何回か行われる新卒の同期との愚痴大会。いつものことだ。


俺は仲間たちの話を聞いて、同じように不満を感じ、うんうんとうなづく。これもいつものことだ。


俺は総合広告代理店で働いている。総合広告代理店なんていうと格好いいが、社員数100人にも満たない中小企業だ。今年の4月に入社し、営業部に配属された。


「なぁ?さとるはどう思うんだよ?」

悟というのは俺の名前。訊いてきたのは4人の同期のうちの1人、和樹かずきだ。こいつは、なんと説明会で席が隣だった。入社式ではちあわせしビックリしたのを覚えている。


「どうって・・・」

和樹からたずねられ、就職活動の時のことを思い出していた。


俺は当時。いや、今もだが、やりたいことが特になかった。とりあえず、周りが就職活動を始めるのに同調するように就職活動を始めた。


就職活動をはじめた当初は大きな会社からベンチャー企業と呼ばれる数人の会社まで、よくわからないながら、いろいろな会社の説明会を聞きに行き、選考を受けた。

一流企業と呼ばれる会社は、書類選考で全て落ちてしまった。三流大学の俺は面接すら受けさせてくれないらしい。

そんな中、中小企業の会社説明会に行くと、自分とさほど歳が変わらない人が、前に立ち、自分で部署を立ち上げました、こんなに責任のある仕事を任されています。と、自信に満ち溢れていた顔でスピーチしていた。

俺にはその人たちがスポットライトが当たったように輝いて見え、なんだか自分とは別の世界の人間に見えたことを今も覚えている。


いつの間にか、自分もそんな風に活躍するビジネスマンになりたい!とかいいながら若手が活躍できそうな中小企業に絞って、就職活動をした。絞っただなんていうとカッコイイけど、単純に大きな会社は書類選考の時点で落ちてしまい、受けることすらできなかった現実から目をそらしたかっただけかもしれない。


そんなことを考えながら、就職活動を続け、内定をもらったのが今働いている、オールアド株式会社だ。ここは若いころから裁量を与え、活躍できるというのを説明会で押し出していた。言葉通り、入社してから研修は数日で終わり、すぐにOJTに突入した。活躍できる。は、イケメンに限るよろしく、活躍できる人は活躍できるという注意書きがあったらしい。


俺はというと、入社して1日目は名刺交換などのビジネスマナーの研修、2日目は広告とは何かという基本研修、3日目には営業リストと売上目標を渡され、売ってこいと、その会社で裁量と呼ばれるものを渡された。


見よう見まねで電話をかけ、メールをし、活躍に向けた第一歩を踏み出してみたがことごとく会うことすら断られ、何も進むことはなかった。

1円も売ることができず、5ヵ月が過ぎていた。


売上もあげず、会社の同期の愚痴大会に参加していて、俺の活躍するビジネスマンになりたい!はどこにいったって?そんなものは入社して1、2ヶ月が過ぎるころにはとうに消えていた。


「こんなはずじゃなかったなぁ・・・」

俺はボソッと呟いた。


「そうだよな!こんなくそみたいな会社に入るつもりじゃなかったよな!会社辞めて、転職してやる!」

和樹が俺の目を見て鼻息荒くいきまいた。会社を辞める勇気なんてないのに。

そうとう酔っている。


そう。こんなはずじゃなかった。俺はそう思った。

和樹は入社したことすら不満に思っているようだが俺は違う。

今の言葉は、今の自分自身に向けた言葉だった。


現実からの逃避がはじまりだったかもしれないが、活躍するビジネスマンになりたい!というのは、就職活動でいろいろな人に出会い、いろいろな会社の面接を受けるころには、心からそう思うようになっていた。だから、内定をもらった当時は、オールアドで活躍したい!本当にそう思っていた。それは、紛れもない事実だ。


だが、今の俺は会社の愚痴大会の参加者だった。こんなことをしていて活躍できるわけがない。それもわかってはいたが、何も教えずいきなり営業リストを渡され、裁量といえば聞こえはいいが、ただのまるなげ、会社への不満を共感してくれる仲間といるのは、居心地がよかった。


ちらほらと出店の片付けも始まり、人の姿もまばらになってきていた。お酒もいい具合に周り、ろれつが回らない仲間もいた。祭の空気がそうさせたのか、俺も、いつもよりお酒が回っているように思えた。


「俺、もうすぐ終電だから、そろそろ帰るわ」

俺は皆にそういい、席を立った。最初の一歩目が、ちょっとふらついたが、まだ1人で歩ける程度だ。


酔い覚ましに、電車に乗る前に水を飲もう。

確か神社内のおみやげ屋さんがやっている場所に自動販売機があったはずだ。俺はそこに立ち寄り、水を買うことにした。


出店がある通りを少し外れ、本殿に近づく道を行くと、少し薄暗くなる。その先のシャッターのしまったお土産屋。その横で、ぽつんと自動販売機の白い明りがぼんやりと浮かんでいた。

心なしか、青みがかった光に見える。さっきまでの騒がしさが嘘のように静まり返っている。周りには誰もいない。なんだか、祭りが行われている同じ神社とは思えない静けさだった。


ふらふらと光に吸い寄せられる虫のように俺は自動販売機に近づいた。


歩いたせいか、さらに酔いが増した気がする。若干の眠気と、頭が少しぼーっとしていた。

「おみず。おみず。」

俺は、独り言をつぶやきながら、ペットボトルの水を探した。


ミネラルウォーターのペットボトルが左上にあった。ふと、視界の端が光った気がした。

目を向けると、自動販売機の最下段の右端に栄養ドリンクのような小瓶が売られていた。

見たことがない銘柄だった。

「TLD あなたの目を覚まします・・・」

某有名なドリンク剤のインスパイア商品だろうか。

お酒と一緒に飲んでいいものかよくわからないが、不思議とそのドリンク剤に目を引かれた。

「酔いもさめるかな・・・眠いし・・・」

お酒と一緒に飲んでいいものかわからないが、ミネラルウォーターとともに、ドリンク剤も購入した。


少し足元がふらつくので、自動販売機の横の縁石に腰を掛け、自動販売機から取り出したミネラルウォーターとドリンク剤を横に並べ、一息つくことにした。

といっても、終電の時間も近いので、そんなにゆっくりはしていられない。

俺は見たことがないドリンク剤のアルミキャップを捻ると、プシュっという小さなガスが抜ける音がした。

一口、味見をする。どこにでもある栄養ドリンクのよくある味だった。

俺は小瓶を上に向け、一気に飲み干した。その瞬間、喉が焼けるように熱くなった。テキーラのショットを一気飲みした時のような感覚だ。味見では、強いアルコールを口にした時、特有の下の痺れる感覚は全くなかったので驚いた。

「なんだこれ・・・お酒?かよ・・・」

酔いが覚めるどころか、余計に頭がぼやっとしてきた。


『はい!入社年数に関係なく裁量をもらえるところに惹かれて御社を希望しました!』

 いかにもなリクルートスーツを身に着け、無難な白いワイシャツに薄黄色のネクタイを締めた青年が会議室で面接を受けていた。

 特に乱れたところがあるわけではないが、着慣れていないことが見るからにわかるからリクルートスーツというのは不思議なものだ。


「就職活動をしていく中で、私と何歳かしか変わらない人たちが社会に出て活躍している姿を見て、自分もそうなりたいと考えるようになりました。その中で、御社の説明会に参加させていただいたときに──」

「夢・・・?・・・」

 会議室で面接を受けていたのは、悟だった。面接を受ける自分自身の姿を会議室の天井から見下ろす視点で光景が広がっていた。

 これは1年前のオールアドの一次面接のときの光景だ。


『なにか目標はありますか?』

 面接官が手元の履歴書を見ながら質問を続けている。

『はい!御社の説明会で登壇されていた小原さんのように、若いうちから活躍するビジネスマンになりたいです!』

 今考えれば具体性のない恥ずかしい目標だが、それを青年はきらきらとした表情で答えていた。


「何も知らないって、怖いね。活躍なんてとてもじゃないけど無理だから」

 自分自身のキラキラとした表情に、ばつが悪くなり、俺はその光景から目をそらし、誰に言うでもなく、俺は吐き捨てるように呟いた。すると目の前が真っ暗になった。



『おぉ!?なるほど。これは、そういうことか』

ぼんやりとする頭の中に声が響いた。

どれくらい時間が過ぎただろうか。俺は重たいまぶたをこじあけ、ゆっくりと顔を上げる。あたりをゆっくりと見回すが誰もいない。

『あ、えーっと、とりあえず、終電がやばいぞ?』

再び、同じ声が聞こえた。30代?40代?声の雰囲気は自分より年上だ。

「え?あ、はい?」

俺に声をかけてきているようだ。再びあたりを見回すが誰もいない。見渡す動作と同時に、携帯電話をポケットから取り出し、時間を確認する。

「やばい!終電が。」

終電の時間まで10分もなかった。神社から駅まで、急いで歩いて10分くらいだ。俺は横に置いてあるミネラルウォーターを拾い上げると、駅に向かって足を向ける。


『酔ってるんだから、気をつけろよー!』

 はっきりと声は聞こえたが、声の主はわからないままだった。最初に声が聞こえた場所から、少し離れたところまで歩いたのに、驚くくらいはっきりと声が聞こえていた。

ただ、終電が間に合わないギリギリのところだったので、そんな細かいことを気にしていられなかった。

 お酒を飲んだ直後に小走りしたため、急激に酔いが回ったのか、意識が遠のく。

『おいおい!まてまて!!ちょっとのみすぎだぞーーー』

目の前が真っ白になっていく中で、声も一緒にフェードアウトしていった。


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