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序章
北国の日が傾き、黄昏が全てを包む。人の心も時間も、全て。
やがて闇が音もなく空を染める頃、真鍮でできたBar『琥珀亭』の看板をライトが照らす。人をほっとさせる温かみのある琥珀色をした灯りは、先代が切り盛りしていた頃から変わらない。
私はいつものようにレトロな呼び鈴を鳴らす。そしてカウンターの隅っこを陣取り、居合わせた人々の人生の一幕を肴にちびちびやるんだ。
福沢諭吉は人生を芝居といい、シェイクスピアはこの世を舞台にたとえた。誰もが役者というなら、酒は彼らにとってスポットライトだ。まるでこの店の看板を照らす灯りのような琥珀色をし、人生の一瞬に光をあててくれる。
何十年と飽きもせず同じ酒を飲むが、どんな演目が繰り広げられるかで味も変わる。だから病みつきなんだ。
そう、今夜も琥珀亭で。