弱さ
、、、用事から帰ると自室に男がいる、、、それだけで恐れ慄きそうなものだが
天使族のナナミは嫌な顔一つせず、リオウを受け入れてくれていた。
ナナミ「どうしたの?何かあったの?」
その優しい言葉に、改めてこの女は凄いな、と、悪魔族のリオウは思っていた。
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石で出来た小さな部屋。小さなテーブルと椅子が一脚。戸棚が一つ。そしてベッドが一つ、ある簡素な部屋。
俺を椅子に座らせ、ナナミはベッドに腰掛けてこちらを見ている
なぜ、またこのナナミの元へ来たのか、顔を見たくなったのか、声を聞きたくなったのか、
その理由は自分でも良く分からなかった。
ナナミ「何か嫌な事でもあったの?」
、、、この人は何かを察する能力が高いのか
俺が話しやすいように優しい言葉で質問してきてくれた。
リオウ「部隊の、隊長に、昇格した、、、」
あった事をありのままに話す。
ナナミ「凄いじゃない!良かったね。」
ナナミはそれを、自分の事のように喜んでくれる。
それは、とても心地が良かった。
が、しかし。
リオウ「でも、それは、つまり、俺はまた更に天使族を殺し続けなくてはいけないって事だ」
ナナミの目を見て悩みを打ち明ける。
、、、、そう、不安の正体はそれだった。
以前の、(ナナミと会う前の)俺ならば、昇格した事に喜ぶだけ喜んで、さらに戦火の中に身を寄せるだけであっただろう。
しかし、ナナミと話してからその考えが少し変わってしまった。自分の行いに疑問を持ってしまった。
俺は、今のままで良いのだろうか?
俺の今の姿は、俺が子供の頃に見た、あの邪悪な天使族と同じになっているのでは無いか?
、、、今の俺には以前の様に天使族と戦う事は出来ない気がした。
しかし、隊長格になった俺に戦わないという選択肢は無い。
その、悩みに対して、
ナナミ「でも、それは仕方ないんじゃないかな。それぞれの立場もあるし、個人で大きな流れに逆らうのは無理なんじゃないかな?」
と、大人の意見を口にした。
ナナミ「君は、そのままで良いんじゃないかな?」
ニコッと笑って全てを包み込むような言葉。
俺は、その言葉で涙が出てきそうになっていた。
ナナミは言葉を続ける
ナナミ「、、、私は、私の家族を殺した悪魔族も憎かったけど、それ以上により戦争というものが憎かっただけ。だからそれに個人で抗ってるだけ。戦争なんて大きなものに。でもそんな大きなものに対して個人でいくら頑張ったって何の意味も無いよね。
私の行動こそ意味無いんだよ。」
遠くの方を見てナナミは呟く。
ナナミはナナミで色々悩み、考えていたのだろう。少し、弱さを見せてくれた。
リオウ「意味は無くない。」
俺はナナミの活動を否定したくなかった。ナナミが俺に対してしてくれたように、俺もその弱さを優しく包んであげたかった。
リオウ「君の行動は、俺の考えを変えた。」
精一杯、心の底から思った事を言う。
ナナミ「迷わせただけかも」
リオウ「良い方向に」
沈黙が、流れる。
お互いがお互いを見合う。
互いに、幼い頃に辛い思いをして、色々考えてきた。
それを理解して共感してくれる人が目の前にいる。
互いに弱さを認めてくれている。
ありのままの姿を認めてくれている。
そこに種族を越えて、愛しい、という感情が芽生えるのは自然なことだった。
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リオウ「一つ、お願いがあるんだ。」
ナナミ「ん?」
リオウ「俺の、勝手なお願い」
ナナミ「なーに?」
リオウ「ナナミの活動は身の危険が大き過ぎる」
ナナミ「、、うん」
リオウ「だからもう少しだけ危険から離れてほしいんだ」
ナナミ「、、、、、、、、」
リオウ「その代わり、、」
ナナミ「その代わり?」
リオウ「俺も戦争を無くす為の行動を少し起こす」
ナナミ「うん」
リオウ「そうすれば、ナナミがそんなに危険を冒さずとも、平和に近づくと思うんだ。」
ナナミ「うん、、、、」
リオウ「二人でやれば、もう少し良くなると思うよ。」
ナナミ「うん、、、、」
リオウ「ナナミに傷付いて欲しくないんだ。いつか死ぬかもしれない。戦場は危な過ぎる、、、」
ナナミ「うん」
リオウ「俺の、勝手なお願い。俺もなんとか頑張るから」
少し、間をおいて
ナナミ「うん、分かった」
と、微笑んでくれるナナミ。
その柔らかい表情を見て、ついナナミを抱きしめてしまう。
そしてまた、少し、
俺の中の憎悪の火が弱まって行くのを感じていた、、、
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意識の遠くの方で
自分の身勝手さに笑ってしまっていた。
何故ならその道は険しいものになるのは
明白だ
ナナミにどうして欲しいと言いながら
自分は何をしようとしているのだろう?
くく、、、
俺は本当に身勝手なやつだ
救われない
しかし、初めて、自分の生きる意味を、見つけた気がしたんだ。
そのために、今日までの自分があったのだと感じていたんだ。
だから、俺は
ある覚悟を、心の中で決めていた。
必ず、守る、と。
命に代えても、、、、




