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第六話 「災厄の始まり」

少しいつもより長めです。


 ある年の5月



 風車が回るのどかな里には100人ほどが住んでいた。

 その中の緑髪が輝く1人の少女の悲劇の話である。


 その少女は興味本位で聞く。

 

 「なんで私には魔力がないの?」


 「それはね、お母さんにも魔力がないからしょうがないことなのよ……ごめんなさいね」

 

 「うん……」

 少女は元気のなさそうな返事をする。

 母親はそれを見て少し憂鬱な気持ちになる。

 

 この世界では魔力の少ない者の肩身は狭い。

 地域によっては生まれてきた娘に魔力が少ないだけで殺してしまう所もある。

 もちろんそんなことがバレれば死刑は免れないだろうが、王族や貴族にもそうゆう意識は根強く、ある程度は黙認してしまっているのだ。


 「ほんとうにごめんなさい……」

 娘に聞こえないようにそっと呟く。

 この里には幸いそんな迫害はないが、王都などではそうは問屋が下さないだろう。

 

             ※        ※          ※


 そんなある日、1人の男が里を訪れた。

 「どうも、私の名はデモゴルゴン、旅のものなのですが、5日ばかり泊めて頂けませんか」

 背が高く、どこか威圧的な雰囲気を持つデモゴルゴンと名乗る男が長老を訪ねた。

 それが厄災の始まりだった。

 

 「全然構いませんぞ。エステラ、お客さん用の宿場に案内するのだ」

 エステラと呼ばれる白銀の美しい女性がデモゴルゴンを案内する。

 

 「こちらです」

 そうして案内されたのは里には似つかない豪華な宿だった。


 「ありがとうございます」

 男はしっかり礼をするのを見てエステラも礼をし、エステラは戻っていった。

 

 「さて、準備をしましょう。どうやら戦えるものも少ないようですし、先ほどの女性は魔力がそれなりに感じられましたが問題にはならないでしょう」

 そうして使い魔を通じて何やら連絡を取るデモゴルゴン。


 「はい。では50体ほど下位の悪魔を送りましょうか?」

  使い魔を媒介に連絡している相手が提案をする。

 「ふむ、いいでしょう。では3日後に実行するとしましょう。それまでに冥界の門をここに繋げられるように座標設定をしておいて下さい」

 

 「はっ」

 そうして連絡を終える。

 

 「さて、下見でもしましょうか」

 そういってデモゴルゴンは部屋を出ていく。




         ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



 「キャハハハ!」

 数人の男女の子供が野原を駆けて遊んでいる。

 

 「ねぇ、私達でさ、いつか冒険したいなぁ、魔物を倒したり、人のために戦うの!」

 緑髪のショートカットの少女が言った。

 

 「リーゼはまだ魔力が少ないじゃないか」

 1人の焦げ茶色の髪のルエラという少年が決してバカにはせずに言った。

 

 「魔力はその内つけるよ! それに私には剣があるもん! 絶対すごい剣士になるんだから!」


 リーゼはそういうと腰につけた子供用の木剣を取り出す。

 

 「いーなー、私はお母さんが剣はダメって。魔法使いのが向いてるって言うんだよー」

 青髪の少女が愚痴をこぼす。

 

 「でもサエラには魔力があるじゃん。大人になったらkカップ級もあり得るってエステラさんも言ってたよ」

 リーゼが羨ましそうにサエラに言う。


 「まぁ、その辺はリーゼとは違うよねー」

 サエラという少女はのらりくらりとした口調で自慢げに言う。 


 「もう、しょうがないじゃない!」

 リーゼが少し膨れた顔で言う。


 「まぁまぁ、そもそも俺たち男はなることすらできないんだからさ」

 そうゆうのは黒髪のディレインだ。


 「でも剣を極めればなれるでしょ? ディレインは剣ができるんだから目指せばいいじゃない」

 リーゼが当たり前のように言う。


 「簡単に言ってくれるなよなー。それが出来れば苦労しないぜ。」

 ルエラがそう嘆く。


 「ルエラはーそもそも訓練が足りないんじゃないかなー」

 

 「サエラの言う通りよ、ルエラはもっと頑張らなきゃ。」

 リーゼはサエラの言葉に賛同する。

 「確かにね」

 そう苦笑しながらディレインも言う。

 

 ルエラとサエラは双子である。一応サエラが姉ということらしい。

 

 「おい、ディレインもかよぉー」

 ルエラは自分の味方が居ないことに嘆く。


 「まぁ、絶対なれないわけじゃあないからな。やれることをやるしかないよ」

 ディレインが慰めも込めて言う。


 そんな事を話しているところに先ほど宿を出たデモゴルゴンがやってきた。


 「誰だ? あいつ」

 ルエラが近づいてくる男に気づくと、他の子供もそちらを見る。

 

 「どうも。私はデモゴルゴンというものです」

 

 「デモゴルゴン? 変な名前だな」

 ルエラが馬鹿にしたようにいう。


 「ちょっとー、失礼だよー、見たところお客さんみたいだし」

 サエラがルエラを掴んで言う。


 「ふむ、私に対してそんなことを言ってきたのはあなたが初めてですよ」

 デモゴルゴンが、金色に輝いている髪を持つも、どこかドス黒さを感じさせるニヤやついた顔で言う。

 

 「え〜と、私達に何か?」

 リーゼが当たり前の疑問を問う。

 

 「いえ、この里の子供はどんなものか見にきただけですよ。魔力をどれほど持っているか気になりましてね」

 デモゴルゴンは本心を言う。

 しかしお客さんがなぜ子供の魔力など気になるのだろうという疑問がリーゼに生まれる。

 

 「お客さんがなんで私達の魔力を?」

 

 「いえいえ、大したことではないですよ」

 と、はぐらかされてしまった。

 リーゼもそれ以上問うことはなかった。

 

       



            ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 3日後


 「今日は何しようかな」

 白い服を着たリーゼがそう呟く。

 

 その日は澄んだ青空でよく晴れていた。


 「ほら、朝ごはん食べてしまいなさい」

 机にある朝ごはんを平らげると、リーゼはまずお母さんの家事の手伝いをするのが日課だ。


 リーゼが洗濯物を干していると、サエラがやってきた。


 「偉いねリーゼはー、毎日お母さんの手伝いしててー」

 サエラの、いつも通りののらりくらりとした口調は、どこか人を安心させる。


 「まぁ、うちはお父さんが王都で働いてるからね。私とお母さんは行けなかったけど、皆とは離れたくなかったし複雑だよ。そういえば今日はお父さんが帰ってくるんだ」

 リーゼはサエラに気づかれない程度に、少し寂しげに言う。


 「一か月に一回くらいは帰ってきてるんだっけー。王都のお仕事はここからじゃ遠いから出稼ぎだもんね」

 そんな事を話していると馬車が里に入ってきた。

 

 リーゼには見慣れた馬車ですぐに何かわかった。

 「あ! お父さん!」

 里の入り口で馬車が止まるとリーゼが駆け寄っていった。

 

 馬車から降りてくるお父さんに抱きつくリーゼ。

 

 「リーゼか。ただいま」

 お父さんに撫でられて機嫌がますます良くなるリーゼ。

 

 「さ、母さんのところへ行こう。お土産もあるぞー」

 

 「わーい!」

 リーゼとお父さんが家に向かおうとした瞬間だった。

 グシャッ

 という音とともにお父さんの首から上が消えた。

 

 「え」

 リーゼは何が起こったのかわからなかった。

 そしてただ走り続けた。

 とにかく走り続けた。

 

 里にはデモゴルゴン率いる悪魔が侵攻してきた。

 

 「貴様……まさか悪魔だったとは……」

 デモゴルゴンと対峙していたのはエステラだ。

 エステラは、何処か怪しい雰囲気を持つ男だとは思っていたが、悪魔とまでは予想していなかった。



 長老は殺され、悪魔の軍勢に里は蹂躙されつつあり、もはや勝ち目などなかった。

 

 「あなたは見どころがある。魔力量は12000といったところでしょうか。どうです? 我々とともに生きませんか?」

 デモゴルゴンは誘い込むような妖艶さを持つ笑みで言う。


 「ふざけるな! 悪魔と生きるだと……貴様達の仲間になるくらいなら死んだほうがマシだ!」

 エステラ渾身の魔法が解き放たれる。

 おそらく悪魔10体を同時に殺せるほどの威力だろう。


 「氷山破壊(アイスブレイク)!」

 エステラは決死の表情で放つ。


 あの––––子供達だけでも–––


 「残念です。ではあなたには悪魔になってもらいましょう。暗黒(カオスティック)減闇(メア)

 デモゴルゴンの魔法がエステラの魔法を砕き、さらにエステラを襲う。

 

 「クッ……悪魔になど……ならん!」

 エステラは驚異の精神力と忍耐力でデモゴルゴンの技の直撃を受けきる。


 しかし、デモゴルゴンの表情は依然、余裕の表情を浮かべている。

 「無駄です。憑依(ディペンデンス)

 黒い気配がエステラを包むとエステラが気を失った。

 

 「起きなさい。エステラよ」

 あまりにも呆気なく、エステラは、体を悪魔に奪われてしまった。

 それほどまでに、悪魔は強力な力を持っているという事だ。



 デモゴルゴンが声をかけると明らかに今までとは違う気配を持ったエステラの姿をした悪魔(デーモン)が顕現した。下位の悪魔100体を相手取れるであろう圧倒的魔力を持って。


※下位の悪魔=魔力量1000〜2000


 「さあ、この里を蹂躙するのです。エステラよ」

 

 

 「はっ、デモゴルゴン様」

 そういうとエステラは戦っていた長老の館を出て行く。

 

 「さて、どれほど魂が集まるでしょうかね」

 そう呟くとデモゴルゴンは姿を消した。

 

 

         ➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖



 一方、リーゼは走りながらサエラがルエラを庇っている死体を見て絶望していた。

 とにかく家に! お母さんが危ない!

 そう思い、リーゼは必死に家へ走る。


 しかし、倒壊した家屋や、聞こえてくる悲鳴。悪魔に殺された里の住人の死体を見て、リーゼは足を止めてしまう。

 

 「もう……いやだよ……お母さーん!」

 リーゼは、泣かないように、その言葉を口に出さないようにしていたが、つい叫んでしまった。


 「リーゼ! こっちよ!」

 その声はお母さんのものだった。リーゼは駆け込むように、その声の方へと走る。



 家の中へ入ったリーゼは、お母さんに連れられ、地下室の入り口に来た。

 家の地下室への入り口を開けるお母さん。

 

 「ここに隠れていなさい」

 

 「お母さんは?」

 リーゼは震えた声を絞り出して言う。

 「私もすぐに行くから。だから絶対出てきちゃダメよ」

  

 「わかった」


 そういうとお母さんは戸を閉めて外に出ていく。


 叫び声や悲鳴が轟く中、ただひたすらに震えながらお母さんの言いつけを守った。

 

 「お母さん……早く帰って来てよ……」


 内心帰ってこないと勘ずきつつあるも、お母さんを待ち続ける。


 丸一日経っただろうか、お腹も空いている。

 もう出ていいだろうか? 

 

 「誰か、生き残りはいるかー!」

 知らない声が聞こえた。

 

 ゆっくりと戸を開け、外を覗く。

 すると、それに気づいた衛兵らしき男が近寄って来た。


 「大丈夫かい、君以外に誰かいるかい?」

 

 「お母さんが、帰ってくるから待っててって。だから、そろそろ帰ってくる」

 リーゼは自分に言い聞かせるようにいう。


 「多分……お母さんは、帰ってこないよ。」

 衛兵は、険しい表情で、何処までいうべきなのか悩みながらいう。


 リーゼはその返答に、不満げな表情と涙を浮かべる。

 「帰ってくるの! 帰ってくるって言ったんだもん!」


 そういって家を飛び出したリーゼは、外の光景に立ち尽くす。

 

 入り口近くにはディレインの姿もあった。無論、生きては居なかった。

 「ディレイン……嘘……」


 少し歩くとそこには上半身だけとなったお母さんの姿があった。

 

 「お母さん……お母さんの……嘘つき」

 そう呟くとそこにリーゼは膝をつく。

 そこには滴るものが見えた。

 「帰ってくるって言ったのに……帰ってくるって言ったのに!」


 叫んでもお母さんは帰ってこない、その現実がリーゼを襲う。

 

 「お母さんは旅立ったんだ。悪魔から君を守るために。」

 衛兵がリーゼを慰める。

 

 「そんなのおかしい! お母さんはなんで! 私を置いて行っちゃったの! お父さんもお母さんもどうして私を置いてっちゃうの! 皆もなんで……なんで私だけ生きてるの!」


 衛兵は思わず黙ってしまった。

 

 そして王都にそのまま衛兵と行ったリーゼは、お父さんが世話になったというレイルという男のもとに引き取られた。


 そしてこの悲劇は後に「災厄の始まり」と呼ばれることなった。




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