第四十話 宴の朝
あれから三日ほど日が経った。
受け入れは五日後に持ち越し、今は破壊された建物の修理作業をしている。
目的は何も変わらない。ただひたすらに、奴らを滅ぼすために。クレアを救えなかった分、絶対にやらなければならない。
そのために、だ。
まずは地上にいる悪魔を殲滅する。そして、それと同時に悪魔のいる異界への行き方を探りつつ、憑依を解除する方法を探す。そして、悪魔達に対抗しうる戦力を整える。
それが大まかな目標だ。
その達成のために欠かせない存在。少なくともなんらかの秘密を知っている。もしくは秘密への鍵を握っているであろうステファニーを探す必要がある。
しかし、まだどこに居るかも、フィンドルフ王国にいる確証すらない。情報がなさすぎるのだ。
信用できる者も分からない。流石にレイル家は信じてもいいと思うが、確証はない。
「進、お疲れ様」
リーゼが木にもたれかかって座っている進に水を渡す。
「ありがとう。リーゼもお疲れ様」
「ハムハム……ゴクン……お疲れ様!」
レイル家からの差し入れでここで働く人達に届いたパンを両手に持ち、頬張りながらライカもやって来た。
「手が早いなライカ」
「えへへ〜お腹すいちゃって。進とリーゼも食べる?」
「おう。ありがとう」
「ええ。仕方がないから、ライカが食べすぎて太らないために食べてあげるわ」
「もぉ〜リーゼは素直じゃないね」
そうして3人は、しばらく木の下で談笑をした。
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さらに四日後
「ふぅ、これで終わりだな」
街の完成を祝う声が街中に広がった。今夜は打ち上げだろうか。これはまた金を稼がなくてはならないな……流石に100人程の打ち上げは初めてだしどうなるやら。
最後の修理を終えて、ついに明日、約100名ほどの様々な人種の亜人を受け入れる予定だ。
そして、いずれは王国に住む亜人ではない人も移住して異文化交流できたらいいなと思っている。しかし簡単なことではないだろう。王国も無視は絶対にしないだろうし、森は基本的にトレントの領有してるものとされているので、そこを利用してできればいい関係を築きたいところだが。
というか、レイルはフィンドルフ王国内のどこからそれだけの亜人を連れて来るのだろうか。そんなことしてバレる可能性は無いのだろうか。それが原因で戦争とか笑えないんだが……
不安要素は多いが、悪魔共と戦うためには王国にも協力してもらいたい。自分達の力で戦力を集めるのは限界がある。それに俺は一応四凶悪魔討伐者だ。最初は中々大変かもしれないが、そこを利用すれば協力は取り付けられるかもしれない。
レイルのことに関しては今日あの家に行くついでに聞いてみるとしよう。
「さて、リーゼ、ライカ。そろそろ行こう」
「どこに?」
ライカが首を傾げる。
昨日言ったはずなんだが……
「全くライカらしいというか……今日はあの家に行くって昨日言ってたでしょ」
リーゼは溜息混じりに言った。
「あ! そういえば!」
「進様、今日は私も一度行く予定でしたので同行してもよろしいですかな?」
使者の方はいつもの穏やかな顔をしている。
「ええ。では、一緒にいきましょうか」
そうして4人は、トーラス=レイルのところへと向かった。
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フィンドルフ王国内 トーラス=レイル家 会議室
「さて、まさか2ヶ月足らずで一つの小さな街を完成させてしまうとはな。恐れ入ったよ、進君」
レイルは腕を組んで言った。
「いえいえ、レイルさんの協力が無ければできなかったですし、自分はただ人を雇う金を出したのと亜空間収納を使った資材運びをしただけですよ」
「先日起こったことに関しては報告を受けている。気の毒だったな……詳しく事情は知らないが、気を落としてばかりもいられない。明日、私もそちらに出向くとしよう。亜人達と共にな」
「そのことで聞きたいことがあるのですが」
「ふむ。言ってみなさい」
「その亜人達は今どこに?」
「それはだな、伯爵家であるクルト家、子爵家であるルドルフ家、ラーズロイド家といった三つの亜人差別反対派の貴族家の元にいる。明日はそれらの貴族の元から馬車を率いて内密に亜人達を輸送する」
「なるほど……時間は何時ごろですか?」
「夜中から明け方までに輸送していく予定だ」
「了解しました。では、今日はあまりハメを外しすぎないようにしなくてはいけませんね」
「フッ、構わんさ。今日ぐらいハメを外してもよかろう」
「そうですか。では、皆のためにたくさん酒でも買って帰りますよ」
「馬車を出そう。一体何升必要なのか分からんだろう」
「ありがとうございます」
「では、私は今日のところは一度レイル様のところに戻りますので、皆さん、帰りは気をつけてくださいませ」
使者の方は礼をして言った。
「わかりました。では、そろそろ行きます」
そろそろ日が傾きかけてくる頃だ。今日は皆んなと楽しむぞ!
「ああ。エイル、馬車まで案内しなさい」
レイルがそう言うと、扉の向こうにいたエイルは扉を開けた。
「はい。承知致しました」
エイルは礼をしてそう言った。
「では、ありがとうございました」
進達はエイルに連れられるように、扉を出て行った。
それを見る––––ライカとリーゼ見つめるレイルの顔は、どこか、寂しげであった。
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進達は大量の酒と肉などの食料を持ち、フィンドルフ王都を後にした。
その間、ライカは目の前の生肉に今にも飛びつきそうな顔をしていて、リーゼに何度か止められていた。
そして、一ヶ月で闘技場以外の施設を小さな街ではあるが創り切るという偉業を成し遂げた仲間と共に宴が始まった。
進も、ライカも、リーゼも、一時の解放感に身を委ねた。
そして、各々想いを馳せた。
酒に強いリーゼも、この日は少し酔っていたような気がする。
そして俺も、今日は深く泥酔した。
そして夜も更け、そろそろ来てもおかしくない頃かと思い解毒をする。
リーゼとライカは寝ていたので寝かせておいた。
そして待った。
夜が明けるまでずっと待った。
しかし、馬車が来る事はなかった。
ライカとリーゼが目を覚ましてからも、馬車の走る音が聞こえてくる事はなかった……
次回もよろしくお願いします。




