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第二十九話 過去と現在の重なり


 「なぁ、皆、朝飯いこーぜ」

 進は、ライカ、リーゼ、クレアが泊まっているダルクフの街の宿の部屋のドアをノックしていう。ちなみに進は隣の部屋で泊まっている。


 「ええ。いきましょう」

 リーゼは1人で部屋から出てきていう。


 「ライカとクレアは?」


 「2人はまだ起きたばかりなのよ。だから先にいって席をとっておきましょう」


 「わかった」

 そうして、進とリーゼは宿の隣にあるお店で4席を確保し、リーゼと進は向かいに席につく。


 「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」

 お店の制服であるエプロンを着た、20代くらいの男性店員は礼をしてお店の奥へと入っていく。


 席はあまり多くなく、ざっと見て15席といったところだろうか。

 それでもそれなり客は来ているようで、経営に苦労はしていなさそうだ。料理の値段も平均的で、銅貨2から高いもので5枚といったところ。

 2人が座っているのは窓側のテーブル席で、ダルクフの街の中央通りに隣接しているこの店からは、この街の人の動向もある程度伺える。亜人が多いこの街は、働き手にも亜人が多い。現にこの店の店主は獣人で、王都ではこんな光景は見られないだろう。


 そんな街を横目に、イスの背もたれにはあまり深く座らずに、聞きたかったことを問う。


 「なぁ、リーゼ。一つ聞いていいか?」


 「一つなら」

 リーゼはまだ眠いのか、小さなあくびをしていう。


 「なんで、クレアを俺達に反対してまで殺そうとしなかったんだ? リーゼなら、悪魔は殺すって言って殺しそうなものだ。自分と……重なって見えたのか?」

 進は恐る恐る聞く。鼓動の高鳴りを必死に抑える。なぜこんなにもドクドクと音を鳴らしているのかはわからないが、大事な質問な気がするから言葉は選ばなければ。


 「私をどんな殺人鬼だと思っているのかは知らないけど、その質問は答えかねるわね」

 リーゼは顔色一つ変えずにいう。


 「理由は?」


 「質問は一つといったでしょう。まぁ……そうね、自分の為、かしら」

 リーゼは少し言葉を濁す。


 「自分の為ね。まぁ、これ以上は聞かないでおくよ」


 「そうね。それがいいわ」

 リーゼはそういうと、窓の外へと顔を向ける。


 様々な人種の住民が歩いているのを見ていると、店の入り口のドアが開く時になるベルの音が店に鳴り響く。


 「あ! いたいた!」

 ライカは進達を見つけると、クレアを連れてテーブル席につく。

 クレアが進の隣に座ったので、ライカは必然的にリーゼの横に座る形となった。


 「2人とも何話してたの?」

 ライカは2人を見ていう。

 クレアは前日帰ってきてから買ったピンクのワンピース(ライカチョイス)を見に纏い、リーゼのように腰ほどまであるわけではないが、長い髪も整えたのでかなり可愛らしくなっているが、相変わらずだんまりと虚空を見つめている。


 進はそんなクレアを見て、少し笑顔を漏らしていう。

 「何も、ただ、これからどうしようかなって考えてただけだよ」


 「ふーん」

 ライカはつまらなそうに頬杖をつく。


 それから朝食を食べ、今日の予定を立てる。


 ダルクフの街はさほど大きい街ではなく、人口は一万人にも満たない。さらにこの辺りではあまり魔獣や魔物が暴れるようなこともなく、比較的安全な為、冒険者協会はあるものの依頼が少ない。なので、ここは一旦街づくりの途中でもあるので王都に帰ることにした。


 「また移動ー?」

 ライカが不満げな顔をこちらに向けてくる。


 「仕方ないだろー。時間はそこまでないんだ。1日でも早く街を作って対悪魔の軍も作らなければいけないし、何よりクレアのこともあるんだ」

 進はシャルルを取り出し、異常がないか確認しながらいう。


 「わかってるけどぉー」

 ライカは未だ不満げだ。確かに移動続きでしんどいが、帰りは馬で帰るので歩きよりは楽だろう。


 「さ、いくぞ。ギルドに報告して、街の様子を見たら、今日は飲むとしよう」


 「よし! 早く帰って飲もー!」

 ライカは一瞬で顔つきを変え、すぐさま馬にまたがる。


 「まったく……」

 リーゼは溜息混じりにいうとライカに続き馬にまたがり、


 「ほら、早く私の後ろに乗りなさい」

 と、リーゼは馬の背中をたたき言った。今日の馬はリーゼの愛馬のようで、暴れる心配はないようだ。


 「お、おう」

 進は恐る恐るリーゼの後ろに座り、リーゼの腰に軽く手を当てて捕まる。


 「振り落とされないように気をつけなさい」

 リーゼは後ろの進を覗き込んでいう。


 「ああ」


 クレアはライカの前にちょこんと座り、ライカが落ちないように徐行しながらいく予定だ。

 リーゼと進は先に街へ帰り、やることを済ませて待っている予定だ。





 リーゼは風を操り、馬を飛ばして草原を駆け抜ける。現在正午程。このペースであれば夕刻前には着くだろう。ライカ達は一応野宿用の荷物を持たせてある。最悪翌日につくかもしれないので、ライカは飲めないかもな。まぁ、夜には着くとは思うけどな。


 「風が気持ちいな! 俺も早く自分で乗れるようにならなきゃな!」

 進は風の音で声が届きにくい中、大声でリーゼに話しかける。


 「口を慎みなさい! 舌を噛むわよ! でも、そうね早く乗れるようになってもらいたいものだわ! その時は私を乗せてもらうわよ!」

 リーゼもそれに答えた時、ちょうど草原から森林に入ったため、木の根などで凹凸のある場所に移り変わった。そのせいで馬が揺れ進はバランスを崩してしまう。


 「おぁ!!」

 間一髪でリーゼに捕まり耐えた進。しかし、先程と違う腰の鎧の部分より明らかに柔らかい感触に違和感を覚える。


 進は手の方に目をやると、なんと進の手は揺れで必死に捕まろうとして、手は上に上がりプレートの隙間へと入っていた。それはつまり……


 「す、すみません! わざとじゃないんです! どうか振り落とすのだけはご勘弁を!」

 進はすぐに手を離すも、手に残る柔らかいムニムニした感触に名残惜しさを感じる。


 普通なら馬に乗りながらでも鉄拳が飛んできそうなところだが、なにも言ってこないリーゼ。

 「あ、あのー。リーゼさん?」

 進は恐る恐る声をかける。


 「は、はぅぅ……はっ!」

 リーゼは我に帰ったような顔を浮かべると


 「か、覚悟しておきなさい! 今夜酒を飲む時はしっかり毒味しておくことね!」

 と、ちゃっかり暗殺予告をして押し黙った。


 「そんなに!? 俺こんなんで殺されちゃうの!?」

 しかしこの言葉の返答はなかった。なぜかというと……


 (はぅぅぅ……私の……私の胸を進が……ぅぅぅ……恥ずかしくて進の顔を見れないじゃない……)


 という有様だったからである。


 その後2人は特に話すこともなく王都への道を辿っていった……

 


 


 


 


遅くなってすみません

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