第一話 kカップ級冒険者
「誰だ!」
姿の見えない声に問いかける。
(私の名はアドラメレク。あなたの体を共有する悪魔です)
やっぱりか。デーモンに体のっとられるとか死んでも嫌だぞ。つか勇者とか期待してたんだけどおかしいな。
思ってたのと違うんだけど。
(おい。お前は俺のなんなんだ。体でも乗っ取るつもりか?)
(いえいえ。まだ私にはそこまで力はありませんよ。それに乗っ取るよりこうして肉体を共有する方が楽なのですよ、私達悪魔は普段肉体を持たないスピリットと意志で動く存在なのです。それが現世に現れるにはその媒介となるものが必要。今回それがあなたということです)
つまり俺を完全に支配は出来ずにいるってわけか、でもその内力をつけたら支配される可能性はあるな。
そう考えると無性に腹が立った。こいつのせいでリーゼに剣を向けられている訳だし。
(おい! 今すぐ俺からでていけ!)
(せっかく手に入れた肉体を手放すとお思いですか? それにあなたを支配するのは難しいでしょう。それはあなたの、おっとあちらが動いてきますよ)
話の途中でリーゼが剣を構えてこちらに歩いてくる。
「リーゼ! 話を聞いてくれ!」
「黙れと言っている! 悪魔め! 貴様はここで殺す!」
だめだ全然聞く耳を持たない。
(クフフッ。私の力を使えばあんな者すぐに殺せますが、どうです?)
(悪魔の力なんかに頼ってやるか! お前は黙っていろ!)
リーゼと進の視線が交差する。
(向こうは悪魔の力をこっちが使ってくると考えて警戒しているのか)
しかし攻められれば武道の経験も無い俺なんかさっきのオオカミと同じ道を歩くだけだろう。
「まあ、やるだけやってみるか!」
「覚悟は決まったようね、なら死になさい。」
覚悟なんてたいそうなものは出来ていない。ただ震える足を少しでも止める為に言ったのだ。
一瞬で5メートル程の間合いを詰めてくる。
反射的に出した腕から血しぶきが上がる。
それを認識するのに少し時間がかかった。そして明実と共に、痛みと腕を切断されたという事実が進を襲う。
「ギャアァァァァァァァ!!」
「弱いな。まぁいい、人類にあだなす邪悪な悪魔よ、ここで死ぬがいい!」
斬られると思った瞬間悪魔が話しかけてきた、このままでは死ぬ。
その意識が俺にアドラメレクの力を認めさせた。
(フハハハハ! ようやく私の力を認めましたか。これで完全に私とあなたは一心同体、あなたが死ねば私も魔界に戻され何百年と眠りにつくことになるでしょう!)
意識が遠のいていく俺にもハッキリと情報として聞こえた。
どれくらい寝ていただろうか。
ぼんやりと気を失うまでのことを思い出す。
(俺は確か腕を斬られて……殺されると思った時アドラメレクの声が聞こえて……ああ、そうか。俺は悪魔を認めてしまったのか。リーゼはどうなった)
周りを確認しようとした時右腕に感覚があった。
「な!? 切られたはずじゃ! これも悪魔の力か?」
(その通りですよ。私の能力によってあなたの腕を再生しました)
つまり完全におれは悪魔と同一化してしまったということか。
(リーゼはどうした)
(まだ力があまり馴染んでいないので殺すには至りませんでしたが、かなりの深手は負わせましたよ。フフフ、近くの町にでも逃げ込みましたかね)
まあ、なってしまったものは仕方ないがリーゼには何と言えばいいか。
とにかくノーテルの町はここから近いらしいし、行って見るか。
10分ほど歩くと町の入り口が見えてきた。
そこそこ栄えているようで門兵も居る。
「君! そこで止まりなさい。身分を証明できるものはあるか?」
うへー、面倒そうだな。
(クックック、殺してしまいましょう)
(バカいうなよ! そんなこと出来る訳ないだろ!)
「おい! 何とかいえ!」
門兵は厳つい顔で進を睨む。
「あ、ええと。身分を証明できるものはないです」
「ふむ。では持ち物を見せろ。武器もだ」
「いえ、俺はなにも持ってないんで」
「何も? 旅の者ではないのか?」
何か言い訳が必要だな。何か疑われるのは避けたい。
「魔物に荷物を奪われてしまいまして……」
「なるほど、悪魔が出たとか噂もあるからな。気をつけるんだぞ。」
え? これで通れるのか? もしかしたら魔物に襲われて荷物を失うことは少なくないのかもな。
「はい。ありがとうございます」
何とか門をくぐり抜け町の中へ入っていく。
結構賑やかで、市場にはたくさんの人が居る。
その中には獣人も混じっているようだが、差別などは見たところ感じられなかった。
「そーいやギルドがあるんだったか。まずはギルドにでも行ってみるか。リーゼにも会って謝らなくちゃな。まぁ斬られるかもだけど」
中央に三階建てぐらいの建物がある。おそらくあそこに行けば何か掴めるだろう。
「どうやらここがギルドっぽいな。剣が交差してる看板もあるし。」
ドアを開けて中に入ってみる。するとそこには屈強な……
「女の子!?」
「あれ、男性ですの? 依頼ですか?」
そういって職員と思われる女性が受付へ俺を案内してくれた。
「あ、いやそのー冒険者って女性が多いんですか?」
「はい。男性冒険者はこのノーテル支部では2名しかおりません」
「何か理由があるんですか?」
「基本的に男性には魔力がありません。なので魔力量も多く、精霊の力を持っている人も多い女性が冒険者には多いのです」
なるほどな。だが俺にはアドラメレクの力はあるから魔力はあると思うんだが。
「そうそう。それで今回は冒険者になりに来たんです」
「依頼ではなく登録に? よろしいのですか? 適性検査に受からなければなりませんが」
「適性検査?」
「はい。魔力量が100以上。もしくは魔力量が100に満たなくても剣がかなり使えれば冒険者になることはできますが……」
進は武器など持ってはいない。
「じゃあまずは魔力量を調べてくれよ」
「わかりました……」
受付嬢は心配そうに進を見ていう。
「この水晶に手をかざして魔力を注いでください」
「わかった」
そういって差し出された水晶に手をかざす。
(力を注ぐってどうすればいいんだ?)
(手に力を込める感覚です。私に任せてくだされば全魔力を尽くして注ぎますが)
(全魔力って?)
(魔力量にして20万といったところでしょうか)
(20万!? いやダメだろ絶対! 抑えて普通ぐらいに調整して注ぐんだ!)
(仕方ありませんね)
すると目の前の水晶が光始めた。
「こ、これは! 魔力量1万!? すごいですよ! 魔力量1万というとランクてきには一番上のkカップ級ですよ!」
いやどんな階級だよ! 俺の胸はAAAだよ!
「あ、ありがとうございます……」
周りも驚きの声や歓声らしきものも聞こえる。
(おい! 普通にしろって言っただろ!)
(…………)
うわー黙りやがったよこいつ、後で覚えとけよな。
こうして謎の階級を得た一応最上位の俺はまがいなりにも冒険者をやっていくこととなる。
悪魔だけどね!
三話もよろしくお願いします。