第十五話 壊滅した村
進はイナラシュを無視して歩くことで、お前たちに構ってる暇はないと態度で示す。
その姿に思わず苦虫を噛み潰したような顔をするイナラシュ。
「き、貴様! この私を侮辱するか!」
イナラシュは激怒する。しかしギルド内での戦闘は御法度だ。
「別に。面倒事はごめんだ。今は忙しいんだよ。すこしでも稼ぐ必要があるんだ。だからまた今度な」
と軽くあしらう。
「く、貴様……覚えていろよ」
イナラシュはそう吐き捨て、仲間を連れてギルドを出ていく。
ほっ、よかったー戦闘にならなくて。
相手がどんな能力かもわからないし冒険者同士の諍いも出来るだけ避けたいからな。
「全く、面倒なのに目をつけられたわね」
リーゼがギルドの出口を睨みながら言う。
「そうだな、外やフィールドでも、敵は魔物だけではないって事だな。これはゼイルにもノーテルで言われたな」
一応気をつけておこう。
(アドラメレク、お前も何か感じたら知らせてくれ)
(フフフ、了解致しました)
「んじゃ、何かいい依頼でも探すか」
「稼げるのがいいね!」
ライカの目が輝いている。
「そういえば、レイル家の夫人ってみたこと無いんだけど、どんな人なんだ?」
「それは……実はね、その人は……レイル=サラーは……悪魔に体を奪われてしまったの……しかもデモゴルゴンの手下の幹部、四凶悪魔の一角。堕天使になり悪魔へとなったイブリース。かなり強力な悪魔よ」
「マジかよ! それっていつのことなんだ?」
「大体十四年前の事だって聞いたよ。デモゴルゴンの活動が活発になったのが20年くらい前って言われてるからどんどん仲間を増やしていってるみたいだね」
ライカが義父に聞いたであろう話をする。
「そうか……あまり時間をかけるわけにはいかないみたいだな。これ以上悪魔の好きにはさせない」
「ねぇ、進はなんで悪魔なのに悪魔をそんなに倒そうとしてるの?」
リーゼの疑問は最もだ。進は別に悪魔の下へくだる事もできるわけで、悪魔の被害者というわけでも無い。
「最初にリーゼに剣を向けられた時とか、昔の話を聞いたりしてさ、悪魔がこんなにリーゼやライカ、いろんな人を苦しめているって知っちゃったんだ。それに俺だって元は人間だ。あんなに苦しんで、殺すなんて叫んでいるのをみたら救いたくなるさ」
リーゼは赤面を隠し小さな声で「ありがとう」と呟く。
「さてと、依頼はっと」
Arank 先日王都周辺で起こった村の壊滅事件の調査 金貨3枚
etc
「お、なんだこれ」
「村の壊滅事件。報酬はかなりのものね。大型の魔物でも出たのかしら。それとも……」
リーゼが言いかけたところにライカが添える
「悪魔……」
リーゼの村のような犠牲が出た可能性もある。
「行ってみる価値はあるな」
「そうね……行って見ましょう」
リーゼも覚悟を決めたようだ。もしかしたらデモゴルゴンについて何かわかるかも知れない。
「んじゃ、受付持ってくわ」
進は依頼掲示板からその依頼書を剥ぎ取り受付へ持っていく。
「こちらArankの依頼ですがよろしいでしょうか」
「ああ、問題無い」
受付をし、3人はギルドを出る。
「さて、場所は俺らの街予定地の反対。サーベル平野? の村らしい」
「なら、そんなに遠くなさそうね」
「よし! レッツゴー!」
ライカは今日もノリノリです。
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「さて、そろそろか」
王都を出て2時間ほど、野生の魔物を倒しながら村へ向かってこの程度なのでかなり近い所だ。
「もしこれが悪魔のものだったら王都もかなり危ないな」
「まぁ、王都には王騎士団がいるし、そうそう陥落はしないだろうけど、冒険者もいるしね。でも悪魔が本気で来たら多分……」
3人は息を飲む。
「その王騎士団ってのはどのくらい強いんだ?」
「数は王騎士団だけだと1万はいないわね。でも1人1人は通常のフィンドルフの兵士達とは比べものにならないわ。男が多いのにほぼ全員が冒険者で言うBrank以上。
特に聖天の騎士って言う4人はかなりの強者らしいわ」
「すごいな。だから容易に悪魔達も手を出さずに力を蓄えているのか」
だとしたら、もう王都を陥落させるだけの力が集まってきているということか。
最もデモゴルゴン1人でもその4人の力がどのくらいかはわからないが、ArankやBrank のただの人間なんて然程脅威では無いだろう。
「さ、ついたわよ……」
3人はその村であったであろう様子に言葉も出ない。
建物は跡形もなく燃えさり、もはや村の残骸でしか無い場所となっていた。
そこでリーゼが何かに気づいた。
「ねぇ。ここには先に国の軍かなにかが調査に入ったの?」
「いや、それは明日入るらしくてその前の斥候みたいな役割を今回は担っているらしい」
「私の村と圧倒的に違う点があるわ」
リーゼが青ざめた顔で言う。
「なんだ?」
「死体が……無い……」
「な!? 確かに、襲われた後なのに死体がない!」
「ほんとだ……そんな事ってあるの? 皆食べられちゃったとか?」
ライカも驚愕している。
「いや、奴らが食うのは人間の魂だけだ。もしそうなのだとしたら悪魔ではない可能性が高い」
リーゼが冷静に分析する。
「そうだな、この村の詳細には確か……多くの人が魔術師の卵や魔術師の村だとか」
「ならまさか……憑依……」
リーゼが恐怖を顔に乗せて言う。
「なんだそれ?」
「悪魔を人間に強制的に受肉させる魔法……悪魔は魔力の多い人間に悪魔を受肉させて戦力を増強させているの。前に勉強したんだ」
ライカがレイル家で勉強したであろう知識で説明する。
「つまり……この村の人が全員悪魔を受肉した可能性があると?」
「その可能性が高いわね」
「マジかよ……それって俺はもう受肉してるけど2人も危ないんじゃ」
「そうね。対策はとにかく強くなるしかない。自分より弱い悪魔なら受肉を拒否することができるわ」
「なるほどな。でも弱い人間に受肉させても対して戦力にならないから出来るだけ強い個体に受肉させてるってことか。結構エグいな……」
「でも憑依は少なくとも四凶悪魔以上の強さがなければ行使できない代物なの。だからすこしずつ村を襲って確実に増やしているのね」
リーゼ先生は博識ですな。
「とにかくこの惨状をギルドに___!? なんだこの魔力は!?」
進達がギルドに戻ろうとした瞬間凄まじい魔力が村周辺を包み込む。
「なに! この魔力……信じられないくらい強い……」
「クッ……こんなの……耐えられない……」
リーゼとライカは魔力の圧に耐えるので精一杯なほどだ。
「誰だ! 姿を現せ!」
進がこの魔力の主人に呼びかける。
「フフフ……これはこれは。素晴らしい逸材ですね」
そこに現れたドス黒い魔力を荒々しく、しかし無駄のない魔力コントロールをするその白銀の髪を持つ美女……いや……悪魔だった……
果たして進達の前に現れた悪魔とは……
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