第十二話 ライカ
遅れてすみません。
ライカは少し俯いた表情で、庭を散歩していた。
自分から出て行ったとはいえ、あそこまで拒絶されては堪えるものだ。
久しぶりに帰ってきた家だが、あまり居心地は良くなく、なんとなく一人になりたい気分だったのだ。
「これで良かったんだよね。私は間違ってなかったんだよね。でも、まだ私、何にも返せてないし。保護して貰った恩も返さずに、ほんとによかったのかな……」
誰かに聞いて欲しいのかもわからず、ただ呟く。
共感が欲しい訳じゃない。ただ、どうにもならない過去に後悔ともいえぬ感情を囚われているのがどうにもなく苦しい。
「何かできることはないのかな」
ライカいつになく真剣に考える。
いつもは頭脳労働もなんなら肉体運動もわりと進とリーゼに任せているため、中々何かを真剣に考える事は少ないのだ。別にふざけてる訳ではなく、単純に進達にやらせた方がいい結果に繋がるのだ。それでも2人で冒険者をやっていた時はちゃんと活躍していたのだ。今活躍していない訳じゃないが、跡継ぎに選んでくれたお義父様を裏切って後悔しないほどの活躍ができているのだろうか。リーゼとの約束を今更破る気はない。
でも、もしかしたら他にも道があったのではないか。公爵家として悪魔達を倒す事も出来たのではないだろうか。そんな仮定に意味はない。そんな事はわかっている。けれど、こうゆう気分の時はつい考えてしまうのだ。
「考えても仕方ない。明日にでも少し話してみようかなぁ。なんて……」
口にしてみたものの実行するにはやはり勇気が必要だ。
「いいんじゃないか。話して見れば」
ふいに庭の入り口側から話しかけられて思わずびっくりして腰掛けていた花畑の柵から落ちて尻もちをついてしまう。
「イテテ……」
「大丈夫かライカ」
差し出された手をつかみ立ち上がる。
「ありがとう、進」
進の横には長い緑髪をたなびかせる美女もいる。最近となっては見慣れた光景だ。
覚悟はしたはずだったんだけどなぁ。
「いつからいたの?」
「今来た所だよ。飯でも行こうと思ってな。それと服も見繕ってほしいし」
進はライカに笑いかける。
「明日、少し2人で話してみるのはいいと思う。きっと、これはライカに必要なことだと思うよ」
リーゼも、ライカに歩み寄り、手を握ってそっとした笑顔と共に、ライカを包み込むように言う。
「私、迷ってたんだ。これまでの選択を私は、後悔はしてない。でももし、跡継ぎを選んでいたら。保護されていなかったら。それを考えたら怖くなっちゃった。そんな事考えても今更変わらないのに」
ニヒっと笑いながらライカは1人ごとのように言う。
「私のためにライカは跡継ぎをやめて、お義父さんを裏切ってまでついてきてくれたのに、そう思わせたのは私の落ち度よ。ライカは正しい選択をした。それは事実だし私が絶対にそう思わせてあげる! ライカには私達がいるの。そして私達にも貴方がいる。だから貴方は私達と自分を信じて。ライカ」
リーゼは自分の言葉をライカに伝える。自分の宿命とライカへの責任と信頼。それら全てをもって。
それでも、ぽつぽつと降り出す雨とともに、ライカは自身の想いと事実をぶつける。
「わかんないよ……私には悪魔を倒せるような力もない。魔力がエルフだから多いってだけで強くなんかない。かといって頭がいいわけでもない。そんな私に自分を信じることなんて出来ない! そんなのただの自己満足だよ!」
降りしきる雨とともに心の叫びを言葉にする。
(クックック。この娘はなにを言ってるのでしょうか。自身の力に気づいていないのでしょうかね。主人なら気づいていると思いますがこの娘には類稀なる魔法の才能を持っています。上位の悪魔と鍛えれば同等以上に戦えるようになるでしょう。)
(いやお前いつから主人なんて呼び始めたんだよ。ま、まぁライカの力には気付いていたけどな!)
もちろん初耳だ。もっとそういうのは早く言ってほしいものだ。
(自分より格上の宿主なのですから主人と呼ぶのは当たり前の事かと)
(俺のがお前より格上? 何を言ってるんだ? 俺はただの人間だぞ)
(その内ご自身の力に気づくかと。それより今は)
(ああ。そうだな)
いろいろ気になる事はあるがまずはライカのことだ。
「ライカ。君は魔法の才能がある。決して自分を卑下する必要はない。俺の見立てでは上位の悪魔とも互角以上に戦えるようになる。それに、もしそうじゃなかったとしても、ライカはもう大切な仲間なんだ。だから俺達と一緒にいるんだ。それは自己満足なんかじゃない。悩むのはいいことだ。ライカの言う通り、明日話してみるといい。きっと、何か、得られることがあるんじゃないか」
ただまっすぐに。愚直なまでにまっすぐと。その綺麗な眼を見る。
「進……私……強くなれるかな」
「なれるさ、俺が保証する」
「悪魔に……勝てるかな」
「勝てるさ、俺を信じろ」
「ねぇ……進……」
「ん?」
「ううん。なんでもない。ありがとう2人とも」
ライカは小さく微笑む。
「どういたしまして」
リーゼも微笑みかける。
「さ、ライカには武器の時みたく服を選んでもらいたいし、早く行こうぜ」
「うん! 期待しててね!」
そうして3人はレイル家をあとにする。
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3人は服を買うため、王都に店を構える「黒い羽」という服屋を訪れていた。
「いらっしゃいませ。どのようなものをお探しですか?」
店員は店主1人らしく、女性の店主が話しかけてきた。
「えーと、冒険者用の服を探してまして」
店内には様々な服が売られており、冒険者っぽい服もたくさん置いてあった。
「あの、オーダーメイドってできますか? ライカの案にそって作りたいんですけど」
「はい。構いませんよ。代金は後払いとなります。ライカ様は30分ほど時間をいただけますか? どのようなものにするか相談したいので」
オーダーメイドってやっぱいいよなー。
あとはライカのセンスだけど。ライカの装備見る限りまぁ魔法と短剣ってのもあって軽装ではあるんだが流石にあの露出度の服は作らないよな。
「はーい!」
ライカは嬉しそうに店主について店の奥へ入っていく。
「じゃあその間どうしよっか」
「ギルドにいって報酬を受け取ってきましょう。ギルドであればどこでも報酬の受け取りはできるの」
「便利だなー。じゃあ行くか」
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「王都のギルドはノーテルのギルドよりも全然広いな」
ノーテルの二倍の広さがあるであろうギルドは掲示板に貼られている依頼数も多かった。
「そうね。冒険者の数も多い分強者も多いわよ」
ふむ、強い奴とはぜひ戦ってみたいものだ。まだまだ試したい事は多いからな。
2人は報酬を受け取りギルドをあとにしようとすると。
「ねぇ、君はもしかしてノーテルの新米kカップ級男冒険者かい」
白い肌で綺麗な丸い青がかった透明な玉を持った女性冒険者らしき人が話しかけてきた。
「ああ。近藤進だ。貴方も冒険者ですよね。その丸いのは何ですか」
「これは魔水晶だよ。申し遅れたね。私は冒険者チームゴルゴーンの黒の魔術師イナラシュ。以後よろしくね。進君」
息がかかる距離で言われて思わず鼓動が高鳴る。
それをみたリーゼが割って入るように
「ゴルゴーン。kカップ級冒険者チームの黒の魔術師。かなり有名どころが来たものね何の用かしら」
「いやいや、新米でkカップ、しかも男となれば気になるのは当たり前でしょう」
王都にはどれくらい男冒険者がいるんだろうか。
この人なら知ってそうだな。
「なぁ」
「ならもう十分でしょう。私達は用があるので」
えー。マジですか。まぁ機会はまたあるかな。
そうして2人は服屋に戻る。
時間的にはちょうどいいだろう。
「ライカー相談は終わったか?」
「うん! 楽しみにしててね!」
ライカは満面の笑みで言う。
「そうか。じゃあ夕飯でも食べに行こうぜ」
「ええ。いきましょ」
そして3人は明日を迎える




