第十一話 レイル家
次回もよろしくお願いします。
その屋敷は、トレントの長の屋敷と同じくらい大きなお屋敷だった。
「ここは?」
「私の家!」
いや、家デカ! さすが貴族だな。これからは遠慮せず支払いを任せよう。
「さすが貴族だな」
「ええ、私も初めて来た時は少し驚いたわ」
リーゼもうなずいている。
「家は公爵家だからね。領地もそれなりなんだ。でも亜人差別は反対派だけどね。」
どうやらすごい奴と冒険者パーティーを組んだらしい。でもなんで公爵家の娘が冒険者に?
「なぁ、なんでライカは公爵家の娘なのに冒険者になったんだ?」
「その話は……また今度話すから、とにかく行こう」
まぁ色々事情はありそうだな。
ライカは足早に大きな扉をノックする。
すると向こうから扉を開けられる。
「ラ、ライカお嬢様! お帰りなさいませ。旦那様は二階の執務室でございます。お連れの方もいらっしゃいませ」
メイドらしき黒髪の人物が驚いた様子でライカに頭を下げている。
「ありがとうエイル」
ライカは礼を言うと二階に上がっていくのでついていく。
長い廊下の2番目の扉でライカは止まる。おそらくここが執務室なのだろう。
ライカは息を整えてから扉をノックする。
「入っていいぞ」
扉の向こうから4、50代ぐらいの男性の声が聞こえる。
そしてライカは覚悟をしたように扉を開ける。
「ラ、ライカ! どうしてお前がここに! なぜ帰ってきた!」
「今日は頼みがあって来たの」
ライカは意外にも冷静だった。
「お前の頼みを聞いてやる義理はない。お前は出て行った身だろう。今更なにを言っておる」
ライカはこの家を出て行ったのか、でも少し疑問だな。なんでライカはエルフなのに父親は人間なんだ? まぁ法律で禁止されてるとはいえ差別がある中エルフが公爵家までなれるとはおもいにくいが。
「都合のいいことだとはわかってる。でも、力を貸して欲しいの。お願いします。話だけでも聞いてください」
「私からもお願いします」
リーゼもライカと一緒に頭を下げたので俺も一緒に下げる。
「リーゼ! 君も一緒だったな。しかし、そのような願いは聞けぬ。それは筋違いというものだ」
う〜ん。お父さんも頑固だなー。まぁ確かに筋違いではあるけど。
「あの、これは僕からのお願いでもあるんです。というか俺が巻き込んだようなもので」
「君は?」
「近藤進というものです。進で結構です。こう見えて悪魔なんですよ」
「あ、悪魔!?」
「進!」
なぜそんな事口走ったと言わんばかりの目線をリーゼが進に送る。
「はい。と言っても、僕は人類の味方です。僕自身元々は人間ですし、今は2人と一緒に、原初の悪魔、デモゴルゴンを倒すために旅をしています。今回の願いはその一環となっているんです」
勇気を出して悪魔だと言ってみたがどうだ?
「は、はぁ。私はトーラス=レイルだ。私も友人であるリーゼの父親にあたるウィル君をデモゴルゴンに殺されている。しかし悪魔が悪魔に敵対するなど簡単には信じられん」
まぁ、そりゃそうだよな。悪魔の言葉を簡単に信じるような奴だったらこっちから願い下げだ。しかしどうしたものか。
「私は、進は信用していいと思います」
「リーゼ。君は家族と友人を悪魔に殺されたのだ、私よりも悪魔への恨みは深いだろう。そんな君が悪魔と旅をしているとはな。その理由を聞かせてもらってもいいかね」
「リーゼ……」
やっぱり最高の仲間だな。
「私に任せて」
と小声で言ってきた。
ならば任せるまでだ。
「私はもちろん悪魔を恨んでいます。絶対に悪魔は許さない。しかし進は、そんな私に希望をくれた。私の悲しみを、理解し、一緒に戦おうって、覚悟を決めてくれた。それは私にとって信頼に値するものでした。それを嘘だと、私は思いません」
「君がそこまで言うなら、きっとそうなのだろう。しかしこの家の当主である私が悪魔に大っぴらに手を貸す事はできない。ただでさえ、亜人差別反対派としている立場、いつ暗殺されてもおかしくないというのに、
そんな事がバレれば亜人差別派に理由を与えるだけだ。それだけは避けなけれればならない」
と、いうことは
「頼みを聞いていただいてもいいのですか!」
「いいだろう。ただし、これは進君の頼みであって、ライカの頼みではない」
頑固な人だなー。
同意する様に3人で目を合わせ、苦笑する。
「では、詳しく話してもらおうか。そこに座りたまえ」
執務室にある革のソファーに勧められる。
「ありがとうございます。では内容なのですが、街を作ろうと思っているのです。場所は王都近郊の森の中にある広大な空き地です。トレントから貰った土地なのですが、そこに街を作ろうと思いまして、そのための援助をしてもらいたいのです」
かなり難しい要望ではあると思うが、どうだろうか。
「ふむ、では、開拓という名義で資金援助や人員募集、そして住んでもらう人探しなども裏でしましょう」
「いいんですか! 結構大きなことだと思うのですが」
「ああ。悪魔を倒すんだろう? それなら人手が必要だろう。それにそこに亜人の街を作るというのはどうだ? それなら亜人保護施設としての役割も持てて、こちらとしてもありがたいし、その名目なら動きやすくはなる」
マジかよ……公爵家から協力を得られるとは思ってもいなかったが……ライカに感謝しなくちゃな。
「ありがとうございます! なら、詳しい話は後ほどするとして、今日のところは一度帰りますね」
そういって立ち上がる。
「うむ。では明日の十時ごろ、またここにくるといい。宿は近くのところを私がとっておこう」
公爵家ってやっぱすごいんだな。
「ありがとうございます。ではまた」
そういって執務室を出る。
「ありがとうライカ。ライカのおかげでなんとか街作りができそうだよ」
「ううん。ちょっとお庭散歩してくるね。すぐ戻るから」
そういうといつもより浮かない顔をしたライカが階段を降りる。
思う所はあるだろう。久しぶりの再会がこれなのだ。ここは仲間として話を聞いてやるか!
そう思い追いかけようとした所をリーゼに止められた。
「今は1人にして置いてやろう。1人で考えたいことだってあるだろう」
そう言われ足を止める。
「ああ。確かにそうかもしれないな。悪い。じゃあさ、ライカのこと、聞かせてくれないか。話せる範囲で構わない。もっと知りたいんだよ。理解者は多い方がいいだろ? それに、リーゼの事も。大切な仲間だ」
進は、リーゼをまっすぐ見て言う。相変わらずリーゼは綺麗な顔立ちをしている。一切の曇りのない目が進を見つめる。
そして、リーゼは少し笑って、
「ええ。そうね。話すべきなのかもしれないわね。だって大切な仲間なんだから」
なんで、こんな子を殺そうとしたんだ。俺は絶対にデモゴルゴンを許さない。この笑顔を奪おうとした悪魔を、絶対に許すわけにはいかない。
「私がこの家に引き取られたのは聞いたでしょう。それより2年前にライカはこの家に引き取られたの。つまり、本当に血のつながりがある娘ではないということよ。でも、この家には跡継ぎがいなかったから魔法の才能があるライカを跡継ぎ候補として保護したのよ。元々亜人差別反対派だから保護施設の管理などはしていたのだけれど、酷な話よ。エルフのライカに跡継ぎをさせるなんて、今の当主よりも苦労するわよ。亜人が公爵家の当主なんて、今の王都じゃ認められないわ。12歳の時に私は引き取られて、ライカと出会った。あの時私はどん底だったわ。家族を失って友達失って、何もかも失った。そんな私にライカは話しかけてくれた。失ったものは戻らないけど、きっと、これから素晴らしい人生が待ってるって。でも、私は怖かったの。また失うのが、誰かが目の前で死んでいくのが。だから関わらないようにした。出来るだけ傷つかないように。けれどライカはそれでも私を気にかけてくれた。人は失って失って、傷ついて生きていくんだって。でも、得られる喜びもある、なにも失うだけが人生じゃないんだよって教えてくれた。そうして、私は失う恐怖から抜け出せたの。そしていつか2人で悪魔をやっつけちゃおうって。でも、ライカは家の跡継ぎ候補。色々悩んだりしたのよ。16歳の誕生日の頃、ライカがお義父様に言ったんだ。私達で悪魔を倒すから跡継ぎは出来ないって。もちろん反対はされたわ。無茶ゆうなって。でもライカは諦めなかった。ライカも両親を失っていてね、エルフ狩りにあって悲惨な死に方をしたそうよ。それもあって多分私に寄り添ってくれたのよ。結局お義父様が折れて、この家を出て行くことになってね、それであんな感じの関係になったの」
「そうなのか……ライカも両親を失っていたんだな」
亜人差別か。異世界じゃつきものだよな。そのエルフ狩りもなんとかしたいな。
「ありがとうリーゼ。リーゼとライカの想いは必ず俺が叶えて見せる」
「ええ、そうね。進」
2人は共に笑い合う。
「さ、ライカでも誘って飯でも行こうぜ。王都の美味い店教えてくれよ! あと、そういえばずっとジャージだったし、服も買いたいんだよ」
「そうね。いきましょう」
そうして2人は庭へと階段を降りる。




