夏色体温(女性Ver)
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夏色体温(女性Ver)
作:狩屋ユツキ
【御影♀】
高校三年生
【冴沙♀】
高校三年生
15分程度
男:女
0:2
御影♀:
冴沙♀:
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御影「あっつー……」
冴沙「今日三十六度だって」
御影「マ?それ私の平均体温じゃん」
冴沙「じゃあ今私は御影にくっついてるわけだ。うっざ、離れてくんない?」
御影「空気中に漂ってるので無理ですー。……大体自分にくっつかれるって考えるのもキモいんだけど」
冴沙「それもそうだ。……あー、あっついー……」
御影「夏だからね」
冴沙「夏休みだからね」
御影「西日だからね」
冴沙「部活の帰り道だからね」
御影「それも行かなくてもいい部活のね」
冴沙「後輩シゴキのね」
間
御影「あ、売店」
冴沙「寄ってこ」
御影「この先にコンビニあるじゃん」
冴沙「コンビニである必要ないじゃん」
御影「コンビニのほうが色々あるじゃん」
冴沙「買いたい物決まってるから大丈夫。それにここの売店のおばあちゃん好きなんだ」
御影「何、冴沙ってば、おばあちゃん子だったの」
冴沙「だったの。すみませーん」
御影「あ、ちょっと!!」
間
(二つに割れるチューブ型のアイスとスポーツドリンクとアンパンの入った袋を持って出てくる二人)
冴沙「売っててよかったー」
御影「買いたい物ってそれだったの?」
冴沙「うん。二つに割れるソーダアイスでも良かったけど」
御影「これ食べるのなんてマジ懐かしす」
冴沙「私好きでよく買うよ。ここの売店でだけど」
御影「そういえばコンビニでは見なくなったね」
冴沙「あるところもあるんだろうけどね」
御影「スポドリも冷えてたし。あのおばあちゃん可愛いね。おまけでアンパンくれた」
冴沙「今食べたら晩ご飯入らなくなるよ」
御影「わーってまーす」
間
(冴沙、アイスを半分に割る)
冴沙「はい、半分こ」
御影「ん」
冴沙「この売店の良いところは外にベンチがあるところです」
御影「ベンチっていうより木の置物って感じだけど」
冴沙「ボロいからね」
御影「二人で座ったら折れるんじゃない?」
冴沙「最大三人」
御影「ぎりぎりじゃんよ」
(二人して笑いながらベンチに座る。二つに分けたアイスを頬張っている)
間
冴沙「暑いけどさー」
御影「うん?」
冴沙「私夏って好きなんだよねー」
御影「え、初耳」
冴沙「言ったの初めてだもん」
御影「いつも「溶けるー」「あづいー」「もうやだー」しか言わないから嫌いなんだと思ってた」
冴沙「そりゃね、クーラーの効いた部屋に比べれば快適度は全然違いますよ?今だって御影の体温に纏わり付かれてるわけですし」
御影「その言い方ヤメレ」
冴沙「でもさ、照りつける太陽の眩しさとか、時折吹く涼しい風とか、夏ならではのイベントとか、そういうの、好きなんだよね」
御影「……実は私も夏が好き」
冴沙「え、意外」
御影「意外かな」
冴沙「意外、意外、超意外。え、どういうところが好きなの」
御影「夏草の香りとか、アスファルトに映る逃げ水とか」
冴沙「……逃げ水って何」
御影「蜃気楼。水溜りみたいなのがアスファルトの向こうに映るの。それから」
冴沙「それから?」
御影「日が長くなるから、こうやって一緒に帰りにアイス食べたり出来る」
冴沙「せんちめんたるーぅ」
御影「うっせ」
冴沙「あはは、ごめんごめん。……でもわかるよ、私もこういう時間好き」
御影「だよね」
(二人、笑い合う。アイスはもう半分なくなっている)
間
御影「アイス、残り半分だね」
冴沙「そうだね」
御影「溶けてふにゃふにゃ」
冴沙「一気に啜っちゃう?」
御影「んにゃ」
冴沙「だよねえ」
御影「もうちょっと真っ暗になるまで時間あるでしょ」
冴沙「うん」
御影「高校三年になるとさ、夏って受験漬けじゃん?」
冴沙「そうだね」
御影「本当は部活に顔出してる場合じゃないんだろうけどさ」
冴沙「でも、もうちょっと私、高校生でいたい」
御影「……」
冴沙「ダイガクセイってなんか大人って感じじゃん。最後のモラトリアムーとか言うけどさ、お酒も飲めちゃう年になるし、私達の中にはもう車の免許取ってる奴だっているんだよ」
御影「冴沙は子供でいたいの?」
冴沙「んー」
御影「私は早く大人になりたかったけどなあ」
冴沙「なりたかった、ってことは今は違うんでしょ」
御影「……うん。なんか、実際オトナになるって考えたら怖くなった」
冴沙「責任とか?」
御影「そうそう」
冴沙「出来ることも増えるよ」
御影「それも怖い」
冴沙「……」
御影「出来ることが増えるってことは、しなくちゃいけないことも増えるってことでしょ」
冴沙「したくないことはしなくてもいいんじゃね?」
御影「それをしなくちゃいけないのが大人って奴だって悟ったわけですよ」
冴沙「いつ」
御影「この間。最後の進路相談のとき。……私ね、就職するの」
冴沙「え、」
御影「大学進学するつもりだったんだけど、この間お母さんが倒れちゃって。うち母子家庭だから、お母さんはお金貯めてくれてたけど、私も働いてちょっとでもお母さんに楽させてあげたいなって」
冴沙「御影、それって」
御影「だから、一緒の学校行けなくなっちゃった。ごめんね」
冴沙「……ま、そもそも大学合格しなきゃ一緒には行けないけどね」
御影「……黙っててごめん」
冴沙「いーよ。御影が言いたくなかった理由、何となく分かるし。私が逆の立場でも言いにくい。だから、いい、許す」
御影「冴沙」
冴沙「でも何するつもりなの。バイトとかやってなかったでしょ。部活漬けで」
御影「……お母さんと同じ工場でバイトからやってみようと思ってる。この間社長さんに会わせてもらったんだ。……いい人だったよ」
冴沙「(おどけたように)将来の就職安定ですか!!いいですなあ!!」
御影「(たしなめるように)冴沙」
冴沙「(溜息)……私さー、やりたいことなんにもないんだよね。仕事何につきたいとか全然思いつかないの。きっとそのへんのOLやってるんじゃないかな。あ、事務は良いよね事務は。座り仕事だし」
御影「腰痛めるよ」
冴沙「ドコ情報?」
御影「お母さんの友達情報。ヘルニアになったんだって」
冴沙「事務も楽じゃないのかー!!」
間
御影「大人、……なりたくないね」
冴沙「大人って、楽しいのかな」
御影「毎日満員電車に揺られてさー」
冴沙「したいこともだいたい毎日仕事に追われてるんだろうしさー」
御影「下手すりゃ全部の責任を自分で負ってさー」
冴沙「逃げ道なんて何処にもなくて一人でなんとかしなくちゃって頑張らないとだろうしー?」
間
(アイスはいつの間にかなくなっている。最後の残りを二人して啜る)
御影「……でも、なってくんだよね、大人」
冴沙「そうだね、絶対なっていくんだよ」
御影「この夕日みたいにさ、ゆっくりでも、絶対」
冴沙「勝手に沈むんじゃないよ。もうちょっと前向きに行こう」
御影「前向きに?」
冴沙「自分でお金稼いで、好きな服買う!!」
御影「ふはっ(吹き出す)」
冴沙「なによう、大事なことでしょー」
御影「それ、今でもお小遣いでやれるじゃん」
冴沙「そうじゃなくて、自分で稼いだお金ってところがミソ」
御影「私、一番最初のお金はお母さんに渡すって決めてるから買えないなあ」
冴沙「まっじめー」
御影「苦労かけたからね」
冴沙「……恵まれてんだろうな、私ってば」
御影「でも冴沙んち、両親仲あんまり良くないじゃん」
冴沙「(おどけて)別れないのが不思議なくらい!!」
御影「それも大人だからかもね」
冴沙「私っていう鎹のせいですよ」
御影「……子供も大変だね」
冴沙「……本当はね、私も就職して家出たかった」
御影「……え」
冴沙「でも親が、大学出ない奴は碌な就職できないって言いはるもんだから、テキトーに大学選んだ」
御影「……」
冴沙「だから、私も大学入ったらバイトするんだ!!」
御影「冴沙……」
冴沙「ね、ね、御影、今度さ、御影の働く場所見学しに行っていい?」
御影「え?」
冴沙「そしたら一緒に働けるじゃん。私はあくまでずーっとバイトだから大学の四年間だけだけど、それでも一緒にいれんじゃん!!」
御影「……うん」
冴沙「何、嫌なの?」
御影「ううん……なんか、……変わんないなって」
冴沙「私が?御影が?」
御影「や、大人も、子供も、変わんないなって」
間
冴沙「そうかもね」
間
御影「さって、帰ろうか。もうすぐ日が暮れちゃう」
冴沙「そうですねー。あ、アンパン消費期限明日までだから明日の昼一緒に食べよ」
御影「置いとくの?」
冴沙「いいじゃん、ギリギリまで全部置いておいたって。パンも、子供も、大人も、仕事も、家族も、ぜーんぶ全部、ギリギリまで置いておこうよ」
御影「……」
冴沙「だって、私達まだそれが許されるもん。この夕日が暮れるまでまだ時間あるみたいにさ。(両手で口にメガホン作って)モラトリアムー!!!!!」
間
御影「(少し涙ぐんで)……そうだね」
冴沙「だしょ?」
御影「冴沙にしては良いこというじゃん」
冴沙「私はいつだって良いこと言ってるわ!!」
御影「……あー……やっぱり夏って好きだな」
冴沙「なんで?」
間
御影「冴沙の体温、私とおんなじでしょ」
間
冴沙「……さては健康診断の紙を盗み見たな!!体重とか見てないでしょうね?!」
間
御影「あー、冴沙に包まれて帰ろー」
冴沙「私だって御影に包まれて帰ろーっと」
間
御影「もうちょっとだけ子供のままでいいよね」
冴沙「高校卒業までは子供でいようよ」
御影「そうだね」
冴沙「だしょ?だしょ?」
御影「夏になるたび、暑さに冴沙を思い出すんだ」
冴沙「ばっか、思い出になんかしてあげないから!!」
(二人、笑いながら帰っていく)
了
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