朝のご褒美
「失礼いたします!アリスお嬢様の声が聞こえましたが、いかがなさいましたか?」
扉が開き、メイドのリサが朝の準備を整えたワゴンを押しながら部屋に入ってきた。
返事を待たずに入室するのは、私が朝が弱くいつも返事をしないせいではあるが、私は絶賛頬っぺた齧りに挑戦中…舌を伸ばすという令嬢にあるまじき姿!!
今日は返事待っててほしかった!!
声したってことは私起きてるわけだしね?
「「……。」」
思いっきり舌を右頬に伸ばしている令嬢と
メイドの見つめ合いは数秒だったが、数分にも感じられた。
「おはようリサ!清々しい朝ね!」
さっと舌を口のなかに戻し、満面の笑みで何もなかったかのように挨拶を済ませる。
お願い!見逃して!
「…っ!アリスお嬢様、分かっているとは思いますが、決して人前で舌を伸ばしてはなりませんよ?お嬢様は公爵家のご令嬢なんですから、はしたない振る舞いは慎みましょうね?…あー朝から可愛かった。(ボソッ)」
無理だった!
何か最後聞こえなかったけど、
優秀な侍女のリサは変顔を見逃してはくれなかった様だ。
そして、今リサが説明してくれた通り私は何と公爵家のご令嬢なのである!
私の名前はアリス・リネンブルク
先日10歳になったばかり。
リネンブルク家の長女として生まれた私は、
自分でいうのも何だけど家族やリネンブルク家で働いてくれている人達に愛されてると思う。(ドヤッ)
リネンブルク家は代々公爵家の割には自由に育てるがモットーの様で、その為か他の貴族からリネンブルク家は少々変わり者と言われているらしい。
んー、思い返してみてもそんなに変わった人いなかったと思うけど…。
と私の事はここまでにして、
変顔を見逃さなかったリサに私は素直に謝った。
ご令嬢なのにはしたなかったわよね。
「ごめんなさい、リサ。今度から(人目につかないように)気を付けるわ!」
「……。ちなみに、何をしてらっしゃったんですか?(何かまたやろうとしてる気がする)」
「えっ?自分の頬っぺた齧れないかなーと思って挑戦してた「無理です。アホ可愛いかよっ(ボソッ)」のっ!」
「えっ?」
「えっ?」
また最後聞こえなかったけど、無理って言うのは聞こえたわ!
「無理なの?どうにかならないかしら?どうしてもハムハムしたいの!」
「無理です。白目をしている自分を見ようとするくらい無理です。」
「それは無理ね。」
「では、朝の支度をさせていただきますね。」
「……。はーい。」
やっぱり無理なのかー。
リサは私が物心ついた頃から私のお世話をしてくれている侍女で、なんでも話せる姉のような存在である。
リサがリネンブルク家に来たのは今の私と同じ頃。
薄い茶色の瞳と髪色で、目元は少し切れ長でクールな感じ。小柄でとても可愛らしかったと昔母から聞いたことがある。
初めは見習いだったが、リサは侍女の中で腕を上げ、能力も身長もぐんぐん伸び、お胸も育っていった。(羨ましい)
そして、実力を上げたリサは侍女長の目に留まり、母のお世話係の内のひとりになったそうだ。
母が妊娠して、私が生まれてからは優秀さと屋敷の中で私に一番年が近いという事でそのまま私専属の侍女となった。
今は20歳とこの世界では結婚してても可笑しくない年頃なのだが、リサはあまり結婚には興味が無いようだった。
もし妙齢のいい人に出会ったら、
リサに紹介しなくては!と密かに企んでいる。
「アリスお嬢様。支度が出来ましたので、朝食に参りましょう。」
おおっ!いつの間にか髪も編み込まれてきれいになってる~!さすが最年少でお母様に使えていただけあるわね!
「いつもありがとう。リサ(にっこり)」
「…くっ! 私の方こそアリスお嬢様にお仕えできて、毎日幸せでございます。 」
「リサ大好き!」
そう言って私はリサの柔らかいお胸に飛び込むと、リサの腕に包まれた。
スリスリスリスリ
や~ん!やわらかーい❤️
私こそ幸せよ!リサ!
毎朝ご褒美をありがとう!
「アリスお嬢様。そろそろお時間ですよ。」
「はーい!」
名残惜しいけど、お胸は明日も明後日もあるものねっ!
いざ、朝ごはんへ!
「朝からご褒美ありがとうございますっ!」
と後ろに控えたリサの呟きは
元気に家族の集まるリビングに向かう私には聞こえていなかった。
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作者「やっとアリスとリサの説明おわったー!」
アリス「まだ、朝だけどなっ!」