3.軍手の謎
いつも不思議に思う。
道路沿いに落ちている軍手、あれはなんなのだろうか。
たまに見かけるのならわかる。そりゃあ、軍手くらい落とすこともあるだろう。わたしだって、ポケットに突っ込んであった手袋をなくした経験がある。
けれど、あまりにも度々なのだ。現在3月中旬だが、今年に入ってからすでに17件、目撃している。
偶然だろうか。それとも、何者かの策略なのか。
整理して、「軍手を落とす」シチュエーションを考察してみる。
1.配送業者が後部ステップに置き忘れ、トラックの移動時に落ちた。
2.配送業者が運転席に置いておいた軍手が、開いた窓から飛ん
でいった。
3.配送業者が軍手をしたまま運転をし、窓から手を出した際に脱げ
て落下した。
4.配送業者が運転席に置いておいた軍手をふと見て、「小汚くなっ
たな。いいや、捨てちゃえ」と窓から放り投げた。
5.配送業者の助手が、「ふふ、先輩を困らせてやろう」と思いつき、
助手席からこっそり外へ落とした。
「1」はいかにもありそうな話だが、よく考えると不自然だ。仕事を終えて軍手を脱いだのであれば、ポケットに入れるはずである。そうではなく、仕事が一段落して後部ステップに置いたのだとすれば、作業を始める際にまた軍手を履くだろう。発見される軍手は決まって片いっぽにかぎられる。けっして1組そろって落ちていないのだ。
というわけで、「1」は消える。
「2」であるが、これまたありそうな話ではある。走行中は、窓から風が入ってくる。友達は高速道路でチケットを飛ばしてしまった。
やはり「2」かなぁ、と思ったが、重大な事実に気がつく。夏場なら窓を開けたままクルマを走らせることもあるだろう。ところが、軍手が落ちている時期は夏にかぎらないのだ。真冬の寒い時期にも何度となく見つけた。寒いなか、わざわざ窓を開けっぱなしというのは考えにくい。
それでは「3」か。いやいや、これもないなぁ。軍手のまま運転ということはあるかもしれない。窓から手を出しただけで飛ばされるものだろうか。新品ならともかく、年期のいった軍手である。すっかり手に馴染んでいるはずだ。そう簡単に、手からすっぽ抜けたりはしない。
そもそも、なんで窓から手を出さなくてはならないのか。そういうドライバーもいるかもしれないが、これまでに見たことがない。
「4」についてだが、日本人のマナーを信じたい。軍手をポイ捨てできるほど厚かましい運転手ばかりだとしたら、ほかにもたくさんのゴミが路上に散らばっているはずだ。それこそ山のように。
実際にはそうなっていない。軍手、それも片っぽだけが落ちているのみである。
「5」は書いていて、「これはないよねぇ」と自分でも苦笑した。現代社会において、むしろそれくらいのいたずら心があってもいいくらい。先輩といえば上司のような存在だ。ほとんどの場合、「先輩、せんぱーい。ご飯奢ってくださいよー」と甘えるものである。仕事中ともなれば、ピーンとした緊張感があるに違いない。とてもとても、「ふふ、先輩を困らせてやろう」などとは思うまい。
そうなると、軍手が落ちているわけはなんだろう。
別の仮説を立ててみる。
あれは、わざとなのだ。軍手を道路沿いに落として歩くというアルバイトがあるに違いない。
なぜか?
整理して、「軍手を落として歩くアルバイトの需要と供給」のシチュエーションを考察してみる。
1.落ちている軍手を見つけて「おや? あんなところに軍手が」と首
を傾げる歩行者を見て、それを電柱の陰から雇い主がほくそ笑
むため。
2.「軍手を道路に落とす会」という秘密結社が存在しており、日夜
活動している。
3.軍手を販売する元締めが、「軍手をもっと世の中に知らしめよう」
という汗と涙と努力のたまもの。
4.宇宙人が地球を侵略するため、アルバイトを雇って軍手を落とし
て回っている。手袋を投げ捨てる=決闘という、中世からの習わ
しを皮肉っている。
5.そもそも軍手ではなかった。「エイリアン」に登場するフェイスハ
ガーのようなもので、成長すると宇宙人になるのである。
うーん、どれもしっくりとこないなぁ。どれも、もっともらしいとは思うのだけれど……。
謎は深まるばかりである。