1.わたしの夢は総天然色
わたしはよく寝る。とにかくよく寝る。朝は9時過ぎに目を醒まし、とりあえず日常生活に必要とされる作業を一通り済ます。歯を磨いて顔を洗い、ご飯を食べる。
パソコンを立ちあげ、ニュース・サイトで世の中の動きを確認する。「なろう」を開いて、お気に入りの作家が更新していないかチェックする。U-NEXTの新着作品にめぼしいものがないか見て、面白そうなアニメや映画があれば「お気に入り」に登録しておく。
洗濯物が溜まっていれば洗濯機を回し、買い物があれば近所のスーパーまで自転車にまたがる。
お昼の町内放送を合図に昼食を摂り、食後はコーヒーを豆から挽いてブラックでいただく。豆だけにマメなのだ。
食べたら眠くなるので、取りあえずベッドに横たわる。3分以内には眠りにつく。カップ麺を作る目安にはなるが、本人は決して食べることができない。
午後3時前後にはもぞもぞと起き出す。体をほぐすために、軽く散歩へ出かける。歩いて5分のところに大きな公園があって、そこで30分ばかり過ごす。
帰ってYouTubeを観たり、サボテンの「ケニー」に話しかけたりして時間を潰す。
夜の7時ちょうどに晩ご飯を食べる。お風呂に入ってぼーっとしていると、2時間くらい経っている。いつの間にか眠ってしまっているのだ。
夜の歯磨きをしてからパソコンに向かう。午後10時を回る頃には眠くなってくるので、すかさずベッドへ直行。だいたい11時間くらい寝ている。たまに、そのまま夜を迎えていることがある。
とにかくよく眠るのだ。不眠症とは縁がない。
1日の半分以上を夢の中で過ごしていることになる。だからだろうか、まるで現実のように何もかもがリアルなのだ。
まず、総天然色である。24Bit、16,777,216色だ。加えて4K画質なので臨場感は半端ではない。
触感もしっかり伝わってくる。コンニャクはプルプルとしているし、うっかりかじりついたリンゴの食品サンプルはロウの歯ごたえがした。おまけに味覚まで確かなものだから、口に中でいやーな後味が残る。
悪いことばかりではない。
ふつう、夢の中でご馳走を食べようとすると目が覚めるものだが、わたしの場合、ちゃんとありつけるのだ。まれに、これは夢だと気づいてしまうことがある。そんなときはチャンスだ。
街に繰り出して、ふだんはとてもじゃないが入れない高級ステーキ・ハウスに入店する。懐が寂しいのは承知しているのだが、どうせ夢である。払えなくたって現実世界には影響がない。
「すいませーん、松阪牛の霜降り、400グラムをウェルダンで」
注文してしまえばこっちのものである。じゅうじゅうとはぜるステーキを待っていればいい。
目の前に運ばれてきた松阪牛のステーキ。この匂い、この見た目、どこからどう見たって本物だ。
ナイフとフォークを手に取り、分厚い肉をサクッと切り分ける。脂がじわっと滴る。フォークに突き立てた肉を、口いっぱいに頬張る。
おいしいっ! 至高のひとときである。
わたしの夢は総天然色。何もかもがリアルだ。
だから眠るのが大好きなのだ。
夢中毒といってもいいかもしれない……。