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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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ジャンとデート?

 翌日、またマリーから服を借りて、裏庭に行った。

 さすがにマリーから毎回服を借りるのはちょっとよくない。

 今日は服も買わないといけない。


 裏庭に出ると、結構早く来たはずなのに、ジャンが薪に腰を下ろして待っていた。

 しかも、いつもよりこぎれいな服を着ている。

 イライラしたように身体を揺すったりしていて、緊張していることが分かる。

 気合い入ってるなー……


「あ、待ってましたか?」


 声をかけると、ジャンがハッと俺の顔を見た。


「い、いえ、全然!」


 ジャンがぴょんと立ち上がる。


 うーん、めちゃくちゃ気合い入ってるな。

 さすがに申し訳ない気がしてくる。


 っていうか、俺、ジャンに対して一日中女の演技をしないといけないのだろうか。

 それは勘弁して欲しい。


 ここのところ、割と思考が男側になってきていて、あまり女言葉を使いたくない。

 マリーやレベッカと話すときは完全に男言葉だし、アルフォンス相手だと女言葉にしないと機嫌損ねるのでここ2,3日はアルフォンスともあまり話をしていない。


 なんとかして男言葉を使って、もっと男っぽく行きたい。

 なにかうまい口実は無いだろうか。


「そういえば、アリスさんは弟が居るんでしたっけ?」


 ジャンが世間話をする風に言った。

 よほど恥ずかしいのか、視線を全く俺に合わせない。

 一日中こんな感じとか、すごく面倒くさい。


 弟……弟……うーん、これを口実にごまかそう。


「そうです。ってか、そう。一応俺には弟が居たよ。最近会ってないけどな」


 無理矢理、男言葉で返した。

 当然、ジャンが変な顔で俺を見た。


「え?」


 ジャンがぽかんとしている。


 驚いて当然だよな。

 でも、多少強引でも男言葉で行けるようにしてしまおう。


「お、驚いたか? 実は俺には弟も兄も居たんだけど……というか実は孤児院に居て、周りが男ばかりだったんだ」


 口から出任せ。


 やはり、普段女言葉で話している相手にいきなり男言葉を使うのは気まずい。

 でも、オフの時まで女のふりをして清楚に振る舞いたくないんだよ。

 普通に地でいきたい。


「孤児院……ですか?」


 ジャンがぽかんとした顔のまま聞き返した。


「そう。こう見えて孤児院育ち。それで、孤児院の育ての親も結構適当で、俺に男の服を着せるし、俺も自分のことを男だと思って育ったんだ」


「へぇ……」


 ジャンが頷く。

 でも、その顔はなにも理解していないことを物語っている。

 あこがれの女の子がいきなり男言葉で話し始めたのは、彼にとって衝撃的すぎたのだろうか。


「とにかく、そんな風に育ったから、性格は完全に男なんだよ。女の仕草はここに来てから仕方なくしてるだけなんだ」


「あ、そ……そうなんですね」


 と、ジャンは言葉上は分かったようなことを言った。

 しかし、視線は宙に向かっているし、やっぱり俺が言っている内容を理解していない。


 驚くとは思っていたが、ここまで呆然とするとは思わなかった。


「話、分かってるか?」


「え? あ、も、もちろん」


 ジャンがカクカクとぎこちない様子で頷く。


「だから、俺は自分のことを男だと思っているから、男には興味なくて……」


「ん……」


 ジャンの視線の動きが止まり、宙の一点を見たまま固まった。


「えーと、ジャ……」


 ジャンと呼び捨てにしそうになって、言葉を止めた。

 どう呼ぶのが適切だ?

 君、お前、あなた……どれも変だ。


「ジャン君……?」


「は、はい」


 ジャンがゆっくりと俺に視線を向けた。


「ジャン君が悪いとかじゃ無く、普通に男全般に興味ないから」


「そ、そうなんですか……」


 ジャンがそれだけ言って、黙り込む。

 完全に思考が止まっている。


 インパクトがありすぎたらしい。

 もっと小出しにした方が良かったかな。

 失敗した気がする。


「まー、そんなわけだから、あんまり意識せずに普通にやってくれるとうれしいんだけど……」


 ジャンが微動だにせず固まっている。


「き、期待させて悪かったな。だ、だから、俺のことは普通に男だと思って接してくれよ。今日は騙して付き合わせたみたいになって悪かったよ! 飯ぐらいおごるから!」


 慌てて声をかけると、ジャンはぎこちなく頷いた。


 うわ……

 男として育った位は言っても良かったかもしれないが、『男に興味ない』なんていうのはデートが終わってからにすれば良かった。

 ジャンがめちゃくちゃやる気失っている。


「ご、ごめんごめん! 悪かったって」


 俺もちょっと焦って、ジャンの背中を軽くトントンと叩いた。

 ジャンは我に返ったように、俺を見た。


「そ、そうだったんですね。だ、大丈夫です。行きましょう」


 ジャンが気の抜けたように歩き出した。


 うわ、俺、とちったな。


「とりあえず服を買いたいんだけど……連れてって……くれるか?」


 もうデートはお開きにしようとか言われかねないので、俺は遠慮がちにジャンに聞いた。


「服ですか……女性の服はあまり……」


 ジャンがうつろな顔のまま、困ったように答えた。


 俺はジャンの横を歩きながら、質問を続けた。


「というか、基本的なことだけど聞いてもいいか? いつも来ているメイド服は既製品だって言うのはわかってるけど、今そのジャンが着ている服とかは既製品? オーダーメイド? それとも家でお母さんが作ってくれるのか?」


「これですか?」


 と、ジャンが自分のジャケットみたいな服を掴んだ。


「そう、それ」


「これは古着屋で買いました。古着屋は安いし品揃えもいいですから」


「そうなんだ。既製品の新品って普通に売ってるの?」


「よく知らないです。でも、制服みたいな服以外はだいたいオーダーメイドだと思います」


「なるほど……」


 一つ一つ採寸してオーダーメイドか。

 それはさぞかし高いだろうし、時間もかかるだろう。

 

 ということは、様々な服を素早く手に入れたければ、古着屋に行く方が良さそうだ。


「じゃあ、その古着屋さんに案内してくれないか?」


「あ、はい。じゃあ、乗合馬車で」


 ジャン少年は気の抜けたように返事をした。


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