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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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帰りたいけど帰れなかった

 ギュスターヴとダニエルとの話は盛り上がり、ギュスターヴがいろいろ人を呼んで来るという話が決まった。


 そんなこんなで日が暮れ、俺は怯え始めた。


 夜にこの二人が盛り上がったら、またギュスターヴが変態行為に走るのでは無いだろうか?


「ギュ、ギュスターヴ、あ、あんた、今日も泊まってく気か?」


 もう俺はギュスターヴに丁寧に対応するのは完全に止めていた。

 普通に呼び捨てにした。


 すると、変態は爽やかな笑みを浮かべた。


「そうしたいところですが、あいにくと野暮用があるので、そろそろ帰らなくては」


 その言葉に胸をなで下ろした。


「そ、そうか……よかった……」


「できれば私も愛するアリスと一緒に居たいのですがね」


 爽やかな笑みに心が打たれ……


 いや、この変態にときめくな!


 本当にいい加減にしろ、この感受性!


 まじで死ね!


 ギュスターヴも死ぬべきだが、俺も死ぬべきだ。


「おや、なにをもだえているのですか? その心の内を私に教えてください」


「もだえてない! 帰るならさっさと帰れ!」


 ギュスターヴのけつを本当に蹴っ飛ばした。


「はっはっはっ! ああ、涙が出るほどいい気分です! もう一度蹴ってください」


 ギュスターヴが心底愉快そうに笑う。


「ええ……?」


 なんかもう、どうしようもできなくなって、固まる。


「それでは、ごきげんよう。そうだ、あなたの手に別れのキスをさせてください」


「だ、誰が!」


「おやおや、残念ですね。ダニエル、また来る」


 ギュスターヴがダニエルに手を上げて、ダニエルも同じように手を上げて見送る。

 俺に向かって優雅に一礼をすると、そのまま家を出て行った。


「あーもー……死ぬほど疲れた」


 ぐったりとした気分で、ソファに座り込んだ。


「ははは、そんなにあいつが駄目か」


 ダニエルが軽い口調で言った。


「駄目に決まってるだろ……。あんな変態、そうそういないよ。しかも、全然悪びれずに言いやがって、対応に困るってんだ。ああ、腹が立つ!」


 そういうと、ダニエルが小さく口笛を吹いた。


「ん? なに?」


「俺はそういう乱暴な話し方をする女が好きなんだ。いいぞ、大分俺のツボが分かってきたな」


 その台詞を聞いて、さらにげんなりした。


「い、いい加減にしてくれ……」


 ため息を吐き出した。


 気疲れしすぎて、もう演技とかする気分が無い。


 男の時の疲れて面倒になったときの気分そのものになっている。


「ギュスターヴも変態だけど、ダニエルも大分変態だ……」


「は!? 俺のどこが変態だ!?」


 ダニエルが急に大きな声を上げた。


「いや、変態だと思うけど」


「ど、どこがっ!? 俺はまともだぞ!」


 ダニエルが見苦しく主張する。


「本気で言ってる……?」


「本気に決まっているだろう。俺とあいつを一緒にするな!」


 俺からすれば同じ部類の人間だと思う。


 類は友を呼ぶ。


 アルフォンスが一番まともだ。


「あ~、本当はリラックスしに来たはずだったのに、なんでこんな疲れてるんだ、俺……」


「普段のメイドの仕事なんてそんなに疲れる物でも無いだろう」


 と、ダニエルがさらっと言ってきた。


 男にそういうことを言われるとイラッとする。

 メイドはメイドで細かい雑用が多くて大変なんだよ!

 一度メイドになってみろ!


「疲れるんだよ! それに、うちの屋敷はいろいろあって……」


 マリーとレベッカとコレットの顔が浮かぶ。


「ほお? なんだ? アルフォンスの馬鹿が毎日迫ってくるのか?」


 と、ダニエルがレモン水を飲みながら聞いてきた。


「アルフォンス……あいつはまだいいんだよ。たまに面倒くさいけど、基本的にはそれほど無理を言わないから」


「意外だな。あれだけ入れ込んでいれば、かなりしつこくつきまとってそうだけどな」


「だから、アルフォンスは俺に入れ込んでるわけじゃ無いって。単純にこの見た目が好きなだけだってさ。そういう誤解は止めてくれ」


「そうか? 俺にはそうとは思えなかったが」


 ダニエルが首をかしげる。


「思えなくても、そうなんだよ。とにかく、問題はアルフォンスじゃ無くて……」


 と言いかけて、口をつぐんだ。


 女の子にキスされまくっているとか言ったら、ダニエルと変態に余計にいじくられる。


「ま……いろいろあるわけさ」


「ほお」


 ダニエルはピンとこない様子であいまいに頷いた。


「しかし、アルフォンスは本気でお前に入れ込んでいると思うがな」


 そのセリフに、反射的に身体を起こした。


 冗談じゃ無い!


「は!? いや、ありえないし! ってか、中身が男だって知ってるから、それはありえないって」


「だけどなぁ……」


「ありえないから言うな! 気持ち悪くなるだろ!」


 俺は首を振ってもやもやする思いを振り払った。

 

 そういう話題を持ち出さないで欲しい。


「まったく、今は男モードだからいいけど、女モードの時はやばいんだからさ」


「そういえば、男モードとか女モードとか言っていたな」


 と、ダニエルが視線を天井に向ける。


 そういえば、説明していなかった。


「あ、あぁ、女モードだと、つい思考が女の子っぽくなって、アルフォンスが格好良く見えて……あ、あー! もー違う! とにかく、そういう時に変に迫られるとやばいんだよ!」


 すると、ダニエルが意味ありげな顔をした。


「なんだよ、お前もそんなにまんざらじゃないのか」


 クックックッという感じで笑った。


「は!? 違うって! だから……女モードだと無意識にそういう反応しちゃうだけなんだってば。俺としては男だからそういうのは気持ち悪いと思うし、アルフォンスだって内心嫌だと思っていると思う」


「ほお……なるほどなぁ。ってことは、あいつが嫌がってなきゃ半分はOKってことか?」


 ダニエルがふざけたように言った。


「あ、あのさぁ、あんまりからかわないでくれるか? そういうこと考えたくないんだけど」


 本気で嫌そうな顔をすると、ダニエルも口をつぐんだ。


「さて、とりあえずギュスターヴに知り合いから技師を探してもらうことになったわけだが……」


「そうだな。あー……あいつと毎回会うのか、憂鬱だ」


 これは本音だ。


「俺の方は出資できそうなやつを探すことにしよう。だが、そのときにはお前にも協力してもらわないとな」


「協力?」


「出資してもらうには、お前が他の世界から来たって事を納得させないといけない。お前の世界の物の絵とか描いてみせられるようにしてくれ」


「絵……?」


 ダニエルの言うことはもっともだ。

 口で言うだけより、何か目で分かる物があった方がいいに決まっている。


 しかし……


「俺……全然絵とか描けないんだけど……」


「別に下手でもいいさ。こういう物があるってわかればいいんだ」


「あ、うん、わかった……」


 内心、気落ちする。

 俺が描く絵とか絶対に人に見せたくない。

 下手すぎてあまりに恥ずかしい。


「さて、すっかり夜だな」


 ダニエルが窓を見て言った。


「え!?」


 嘘だろ!?

 今日はもうこのまま帰るつもりだったのに!


「そ、それじゃあ、これでお暇して……」


「おい、三日間は居るって言ってただろ」


 ダニエルが不満げな顔をする。


「い、いや、さすがに男一人所帯だとは思わなくてさ……な、なにかの間違いがあっちゃいけないだろ?」


 ものすごく言いたくない台詞を言った。

 こういうことを口に出すと自己実現しそうですごく嫌だ。


「は? おいおい、男同士だろ」


 ダニエルが笑う。


 俺で自分の性癖を満たそうとしておいて、よくそんなことを言えたものだ。


「昨日はとてもそんな言い訳が通るような状況じゃ無かっただろ……と、とにかく、俺はもう帰るんで」


「こんな時間に女一人で外を出歩くなんて、怖いもの知らずだな」


 ダニエルが意味ありげにつぶやく。


 ん?

 あれ?

 この世界は安全なはずでは?


「あのさぁ……そういう変な脅しは止めてくれ。アルフォンスからも聞いたけど、この世界は外を出歩いても襲われたりすることは無いって聞いたぞ」


「昼間の大通りならそうだろうな。だけど、今真夜中で、この前はずっと細い通りだぞ」


 と、ダニエルが特に演技している様子も無く普通に言う。


 え……まじ?


「夜中の細い路地は危ない……ってこと?」


「当たり前だろ。物取りならまだいいが、その容姿だからな、攫われてもおかしくはないな」


 ダニエルが当然という口調で言った。


「え、う、嘘だ!?」


 思わず声が裏返る。


「おいおい、夜中の細い路地が危ないなんて常識だろ? 一体、お前はどんな世界から来たんだ?」


「どんな世界って……」


 ふと、日本に居るときに見た『海外の反応のまとめサイト』を思い出した。

 そういえば、真夜中の日本の通りを撮影した動画に対して、海外の人が『全然犯罪の匂いがしない!』『夜でも一人で歩けるなんてすごい!』とか書き込んでいた。


「えっと……夜でも女性が一人で通りを歩いても普通は事件に巻き込まれない国だったかな」


「おいおい、そんなわけないだろ」


 と、ダニエルが肩をすくめた。


 そうか、そういう感覚なんだ。

 安全と言ってもそれは昼間のことであって、夜は危険なのが当たり前なんだ。


「じゃ、じゃあ、俺は今日もここに泊まるしか無いわけ?」


「攫われたくなければな」


 俺はうんざりした気分になった。


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