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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第1章 バロメッシュ家
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本を読んでみて

「う、うう……いい……いいよぉ」


 本の一章を読み終わった俺は涙をぽろぽろ流していた。

 本を読み始めた最初は「単語の意味は分からないがなぜか文章全体の意味は分かる」という不思議な状態だったが、読み進めるにつれなんとなく単語の意味や文法が分かってきた。

 すると不思議なことに頭の中で文法や単語が整理され、まるでよく知った文字のように自由に読めるようになった。

 本当に不思議なことだ。


 だが、それは些末なことだ。

 どういうわけだが、俺はものすごく感動していた。


 少年と少女のデュアル主人公で物語が進んでいくのだが、どういうわけだか少女の気持ちや少女の少年に対する淡い恋心などが、ダイレクトに心に響いてくる。

 気がつけば、その淡い恋心の切なさに涙がでていたのだ。

 ちなみに、少年の方には全くもって感情移入できなかった。


「いい……これは、いい……」


 男泣きレベルで涙を流していると、コレットがこちらをじっと見ていることに気がついた。


「え、もうそんなに読んだんですか?」


 コレットは俺が開いている本を見て驚いた声を上げた。


「え……ふ、普通でしょ?」


 本を読んでいたのは1時間ほどで、まだ4分の1にしか達していない。

 日本で本を読んでいたときと比べても、半分程度の速度だ。


「ふ、普通なんですか?」


 コレットがちょっと焦った顔をする。

 む、本を読む速度の感覚が日本人とこちらで違うのかもしれない。


 ってか、俺が涙を流しまくってるのに突っ込んでこないのか。


「こ、これ……いいね」


 同意を求めると、コレットは首をかしげた。


「その本って、たしか終盤が結構盛り上がる冒険ものですよ。最初は結構退屈な話だったと思いますけど」


「ん……」


 本をペラペラとめくって、終盤のページをチラチラ見てみる。

 なるほど、熱い台詞が飛び交っていて、白熱するバトルが展開されていそうな感じだ。


「あ、そ、そうだね……。でも、なんかヒロインの恋心とかがうまく描写されていてよかったでしょ?」


「私、あんまりそういうの好きじゃないので」


 え゛、女の子なのにそういうの好きじゃないの!?

 そんなことありえるの!?


「なんなら、もっと恋愛もの持ってきましょうか?」


「あ……うん」


「わかりました」


 コレットが本を脇に置いて、また部屋を出て行った。

 恋愛ものなんて全然好みではなかったが、この体で読むとかなり印象が変わりそうだ。

 どんな風に感じるのかかなり興味がある。


 コレットはすぐに2冊ほどの本を持って戻ってきた。


「こちらがマリーのおすすめで、こっちはレベッカのおすすめです」


「ありがとう」


 雰囲気的にマリーのおすすめのほうが良さそうだ。

 ということで、マリーの本を開いた。



 その、1時間後。


「えぐっ……う……うう……」


 1時間後、俺は涙で本を汚さないようにタオルで涙を拭きながらページをめくっていた。

 あまりの状態にコレットも怪訝な顔でこちらを窺っている。


「よくそんなに泣けますね。まだ途中ですよ」


「え、だって……だって、エメの恋心が切なすぎて……」


 エメというのは小説の主人公の名前だ。

 主人公が片思いでもだえまくるのだが、それがすべて俺の心にダイレクトアタックしてくる。

 下手したら主人公以上に切なくなってるんじゃないかというくらい、心が切なくてつらくて……表現に困るくらい盛り上がっている。


「すごい感受性ですね」


 コレットが淡々と感想を言う。


「うん……そ、そうだね……涙とまんないし……」


 恋の話が始まると、理性のすべてが吹っ飛んで頭の中がその感情だけで満たされてしまう。


 まて、やばいぞ。

 いくらなんでも簡単に理性が飛びすぎだ。


 本を読んでいるときは、自分が男であったことなど真っ先に吹っ飛んだ。

 それどころか、自分が今異世界の貴族の館で看病されながらベッドの上にいることすら、意識から完全に吹き飛んでいた。

 完全に主人公の気持ちをトレースして、めちゃくちゃ切ない気分になっていた。


 なんというかすごくお得な感受性だ。

 ここまで感受性が高ければ、映画だろうがアニメだろうが小説だろうが何を見ても楽しめるんじゃないだろうか。


「つ、続き読みたいけど、よしとこ……」


 ちょうど章が終わって、話の区切りがついたところだったので本を閉じた。

 このままひたすら読んでしまいそうで恐ろしい。

 いまはこの世界での生活基盤を築くときであって、恋愛小説に浸っているときではない。


「さて……」


 となりで本を読んでいるコレットを横目で見ながら、俺はこれからについて考えこんだ。


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