マリーに白状しました
その日の夜、マリーの部屋に出頭した俺は、記憶のあることを洗いざらい白状した。
隠し立てすると罪状が重くなる。
自白した方が情状酌量の余地があり、刑罰が軽くなる。
もっとも、全部を覚えていたわけでは無く、よく覚えていない会話も多い。
いきなり気分が変わって媚びだしてしまったところを中心に語った。
「そんなことで女モードになっちゃったの? 口に出して自己催眠かけたわけじゃ無いのよね?」
マリーが困ったような顔で俺を見る。
「そんなことしてない」
俺は首を横に振った。
「本当に困るわね。そんな様子じゃ、またゲストに行ったときに誰かに口説かれたらおしまいじゃないの」
「ええ、そう思いますよ、マリー様……。それが自分でも怖いんだけど。なんなんだよ、この身体」
俺は自分の身体を抱えた。
この世界に来たとき、アルフォンスや屋敷の住人、そしてこの世界の人々といった外敵に怯えていた。
しかし、実は一番危ないのは自分自身……というか自分自身の身体だった。
こんなの、どうしろってんだ。
俺を転生させた神様がいるなら、出てきて釈明して欲しい。
「で、ドMなのね」
と、マリーがため息を吐いた。
「そういえば、マリーってそういう用語知ってたんだ……。アルフォンスの本棚にはそういうのあんまり無かったけど」
「ふん、私だってそれくらい知ってるわよ」
と、マリーがちょっとだけ得意そうに言った。
多分そんなに詳しくは知らないのだろうが、なんとなくの知識はあるようだ。
「ってことは、虐められるとうれしいんでしょ? 普段のアリス、そのものじゃない」
「い、いや、それは誤解だって!」
俺は全力で首を横に振った。
「俺は虐められるのは好きじゃ無い! その……ただ単に……か、かまって欲しいだけ! 痛いのとかは嫌だ!」
俺は全力で主張した。
かまって欲しいという主張も恥ずかしいが、痛いのが好きとか思われるよりはずっとマシだ。
「本当にそれだけ?」
と、マリーが首をかしげる。
実はまだある。
さっきは説明しなかったが、もやもやするから告白してしまおう。
「あとは……言いにくいけど……」
「なに?」
「さっきの出来事で分かったんだけど、この身体……絶対服従特性があるっぽい」
「え?」
マリーが眉をひそめる。
「目の前に人間に絶対服従して自分の価値をとことんまで貶めることに安心感を感じる変な特性が……」
さきほどは、アルフォンスの前に服従して好きなようにされたいという業が深すぎる感情が湧いてきていた。
言っていてものすごく嫌な気分になってきた。
なんだこの身体。
「なにそれ……」
マリーの表情がゆがむ。
そういう表情をされると不安になる。
「そ、そういう言い方は止めてよ。ど、どうしよ? 俺、転生前はむしろ逆の特性だったんだけど。どっちかというドS気質が強かったのに……」
「そ、そんなことを私に聞かれても……」
マリーがうろたえる。
「で、でも……私はアリスの味方だからね」
マリーが俺の顔を見て頷いた。
よかった。
見捨てられたらちょっと気持ちが持たなかった。
「あ、ありがとう……」
俺は素直にお礼を言った。
「な、なんか、アリスって案外難しいんだね。一応言っておくけど、私はアリスと仲良くしたいだけで、嫌いでからかってるわけじゃないからね」
「うん、知ってる」
俺は頷いた。
マリーは時々悪乗りするけど、俺を虐げて楽しもうとかはしてない。
「でも……ちょっと一線を越えると、アリスが服従したくなるんだ……へぇ……」
マリーの顔がちょっと黒くなる。
は?
お、おい、なにそれ……
「マ、マリー?」
「それは、私もちょっと本気になっちゃうかも……」
と、マリーが聞き捨てならない台詞を言った。
「は!? 何言ってるの!?」
「だってアリスが絶対服従とかしてきたら、絶対いろいろしちゃう……」
「え!? そこはこらえてよ!」
「無理だってば。アリスは普段からそういう雰囲気がにじみ出てるのに、それが爆発したらちょっと私も耐えられないと思う」
に、にじみ出てるの!?
勘弁してくれ!
「そ、そういえば、コレットも奴隷として誓わせたいとか物騒なことを言ってたけど、それも俺のせい!?」
「うん、間違いないね。コレットも結構私と似てるところがあるから」
マリーが頷く。
あ、あんな童話を読んでいる年下の女の子が、マリーと同じ!?
こ、怖い……
「レ、レベッカは!?」
「レベッカは違うでしょ。自分から行くより、アリスにキスされるのが好きだし」
そういえば、そんな感じだな。
いつもの振る舞いはドSっぽいのに。
「まぁ、それでも私はいつでもアリスの味方だから。ほら、あなたのご主人様に誓いのキスをしてちょうだい」
と、マリーが冗談っぽく唇を指さした。
「え……なんでそういう流れに?」
「ほらほら、私があなたのご主人様でしょ?」
マリーが黒い笑みを浮かべる。
「えー……はいはい……」
仕方なく返事をする。
「『はい』は一回でしょ?」
すると、マリーが蠱惑的な表情を浮かべた。
その表情に変な気分になる。
あ、これアカン奴だ。
「マ、マリー、そういうのだめ! そういうのをやり過ぎると、本当に変なスイッチ入るから止めて! 特に今不安定なんだから」
「あ、そっか」
マリーの表情が素に戻った。
よかった。
「もー……あんまり遊ばないでよ。俺の身体、本当にデリケートなんだから」
「そこがかわいいのよー」
と、マリーが俺の頬をつついた。
本当にもう。
○コメント
転生させた神様→作者
いろいろスマン。




