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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第2章 豪商のお嬢様
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マリーとクロエにもいじられる

 廊下を歩きながら、さきほどのことを思い出していた。


「ま、またやっちゃった……」


 真正面から見られたり、頭を撫でられたり。


 しかも、それを受け入れてしまった。


 完全に女モードだったならいざ知らず、まだ理性は残っていたはずだ。


「ま、まぁ……疲れてるからだよね、うん」


 疲れているときはあいつに近づかないようにしよう。

 そうすれば、二度とあんな醜態をさらすことはあるまい。


 うん、大丈夫だ。


 布袋をじゃらじゃら言わせながら、玄関の方に戻っていくと、誰も居なかった。

 さすがに荷物は運び終わったらしい。


 とりあえず、お金を部屋に置いてからゲストルームの方に行ってみよう。


「さて……ん?」


 自分の部屋の前に来ると、中から話し声がする。


「あれ……?」


 扉を開けてみると、マリーとクロエが荷物を広げているところだった。


「はぁ!? ちょっと、二人とも、なんでこんなところで荷物広げてるの!?」


 すると、クロエが顔を上げた。


「アリス、遅かったじゃない。さっき、ゲストルームに行ってみたんだけど、やっぱり古いマットレスはかび臭くてね……あれじゃ私寝れない」


「え……ってことは、本気でこっちで寝るの? じゃ、私がゲストルームで寝ないと駄目か……」


「いいじゃん、一緒に寝ようよ」


 クロエが気楽に言う。


「それはさすがに……」


 と言っていると、マリーが怪訝な顔を向けた。


「……なんで女言葉になってるの?」


 あ。


 そういえば、いつのまにか女言葉になってた。


「え、単純にさっき、アルフォンスと話をしてたからだよ。男言葉で話すとあんまりいい顔をしないから、女言葉を使ってたんだ」


 しかし、マリーは首をかしげた。


「本当? なんかあったんじゃないの?」


「な、無いって」


「ふーん」


 マリーは俺の顔をじーっと見てくる。

 別に頭を撫でられたりしただけで、別になにもしてない。

 でも、なぜか罪悪感がある。


「ん? どうしたの?」


 クロエも俺を見た。


「クロエ、言っておくけど本当のライバルは、私じゃ無くてご主人様ですよ」


 とマリーがクロエに言う。


「いやいや、な、なに言ってんのよ。違うから! 俺、男に興味ないから」


 慌てて男言葉に直して、否定した。


「まぁ、建前上はね」


 と、マリーが言う。


 おいおい、なんてことを。

 建前じゃ無くて、普通に男とか興味ないから!


「そっか、やっぱりそれだけかわいいと男を意識しちゃうんだね」


 と、クロエが勝手に納得して頷く。


「い、いやいや、誤解だから!」


「あの慌て方を見てシロだと思えます?」


 と、マリーがクロエにささやく。


「思えないわね-」


 とクロエが答える。


「ち、違うって。それより、じゃあ私……俺が荷物を移動するから」


「だからいいってば。一緒に寝ようよ」


 クロエが身を乗り出してくる。


「あのー……ねぇ、分かってる? 俺、一応元男だよ?」


「今は女だし、いいじゃん。可愛がってア・ゲ・ル♪」


 と、クロエが笑う。


 可愛がるって、人の弱いところをベタベタ触るって事だろ?

 ……安眠できない。


「勘弁して……」


 クロエから顔を背ける。


「でも、本当にあのベッドは私無理だから」


「そうなんだ……」


 やっぱり俺があちらに行くしか無いだろう。

 自分もかび臭いのとかかなり苦手だが、一晩ぐらいなら我慢できないことも無い……と思う。


 俺のベッドをクロエに貸して、俺がゲストルームで寝よう。


「とりあえず、着替えを持ってくよ。鞄、借りるよ」


 お金をとりあえず、戸棚の奥に突っ込む。

 そして、空になったクロエの鞄をつかんで、下着とか替えのメイド服を詰め込む。


「え、本当にあっちで寝る気?」


 と、クロエが聞いてくる。


「当たり前じゃん。さすがに、横でいじられながら寝れないよ」


「ええぇ!?」


 と、クロエが本気で抗議の声を上げてくる。


「ちょっと、ノリ悪すぎない? せっかくなんだから、一緒に寝ようよ。このベッドのサイズなら二人ぐらい大丈夫だって」


「そういう問題じゃ無くて、横からちょっかい出されるかもと怯えながら寝たくないの。この身体の敏感さを甘く見ないでほしい」


「じゃあ、そういうことしないから。ね! お願い!」


 クロエが本気で頼み込んでくる。


「え……本気で?」


 助けを求めて、マリーに視線を向けた。


「一回ぐらい、いいんじゃない?」


 しかし、マリーはあっさりと流した。


 えええ。


「あの、マリーさん、俺から言うのも変な話ですが、『アリスは私の物』とか言ってませんでした?」


「そうだけど、クロエとは協定を結んだから、今回は許す」


「ありがとう」


 とクロエがマリーにお礼を言う。


 俺の意見は……?


 俺の扱いが勝手に二人の間で決定されている。


「でも、私の物でもあるし、もうここはうちだもんね。アリス、我慢してた分、お願い」


 とマリーが目をつむった。


「我慢してたって、馬車の中でがっつりキスしたじゃん……。しかも、ここで? クロエが居るよ」


「いいから」


 と引く様子が無い。

 クロエも黙って、こちらを見ている。


 仕方ない。


「はむっ……」


 かるくついばむように唇を寄せる。

 すると、マリーが俺の身体をつかんで積極的に押しつけてきた。


「んむっ……」


 これはキスしてるんじゃ無くて、されてるというか。

 むしろ、搾取されているというか。


 マリーは俺に唇をたっぷりと押しつけてからゆっくりと離して、そして俺の目をのぞき込んできた。

 正直、キスよりその視線の方がまずいので、止めてほしい。


「ま、満足されたでしょうか?」


 そう聞くと、マリーはニッといたずらっぽく笑った。


「うん」


「そ、それはよかった」


 慌ててマリーから離れる。

 放っておくと、またキスされそうな気配があった。


「えー、二人ともそんなキスしてるわけ? 毎日?」


 クロエが無邪気に聞いてくる。


「い、いや、普段はもっとあっさりだけど……」


「あー、アリス酷い」


 と、マリーがコメントする。


 別に酷いことは言ってない。


 すると、今度はクロエが乗り出してきた。


「ねぇねぇ、私には?」


「え、い、今? だって、今、マリーとキスしたところだよ? 間接キスってのはOKなの?」


「いいからキスして」


 とクロエが迫ってくる。


 この世界の女性は皆、目の前でキスシーンがあると襲いかかりたくなるのでしょうか?


「ま、待った、後で……」


「いいじゃん」


 と、クロエが俺の肩をつかむ。

 え、逃がさないという覚悟を感じるほどの強い掴み方なんですけど。


「マ、マリー……止めてくれない?」


「不公平だし、いいよ」


 と、マリーが頷く。


「いや、俺がよくない……」


 やはり俺の意見は聞き届けられず、クロエが唇を押しつけてきた。

 軽く逃げようとすると、腕を回され抱きかかえられるようにして唇を押しつけられる。


「ふぐっ……」


 息を少し吐き出したが、それでも唇を押しつけてくる。

 本当に身の危険しか感じない。


 マリーのキスに対抗しているらしく、やたらねっとり押しつけてくるし、全然引こうとしない。

 コレットじゃ無いんだから、止めてほしい。


「……っはぁ」


 クロエが離れて、ようやく息を吐き出した。

 クロエは手の甲で口を拭った。

 

 なんか完全に狩られる獲物になった気分なんだけど。


「ふぅ。どっちがよかった?」


「もう……そういう次元じゃ無いんだけど」


「なにそれ。はっきりしてよ」


 クロエがじっと俺の目を見る。


「む、無理」


 俺はベッドに腰を下ろした。


 こんな人と一晩一緒に寝ろだと?

 ……恐ろしい。


 やっぱり、かび臭いけどゲストルームのベッドで寝よう。


「ねぇ、マリー、アリスのリアクション薄くてつまんないんだけど」


 と、クロエがマリーに言う。


 無駄にテンションが高い。

 たぶん、よそに来ているのでお出かけテンションになっているのだろう。


「クロエ、こっちの身にもなってくれよ。今、出かけて帰ってきてリラックスしたいところなの。そういうハイテンション求められても困るんだけど」


「あ……そっか」


 クロエが中腰になって、ベッドの座る俺に視線を合わせてきた。


「な、なに?」


「じゃあ、可愛がってあげる」


「だから、そういうのやめ……」


 と、クロエが手を頭に乗せてきた。


「ほれほれ~」


 クロエがふざけた顔で頭を撫でまわしてくる。

 腹が立つはずなのに、それでも気持ちいいから困る。


「や、止めてほしいんだけ……ど……」


「とかいいつつ、感じてるし」


「なにが」


「なにって、ご主人様のお慈悲を味わいなさい」


 と、クロエが頭をなで回す。

 後頭部に手を持って行かないだけ、まだいい。


「だ、誰がご主人様って……」


「私とマリー」


「んむー……」


 いろいろ反論したいが、頭を撫でられていると、なんかもうどうでもよくなってくる。

 チョロ過ぎんよ、この身体。

 っていうか、眠い……疲れが出てくる……


「ごめん、ちょっと寝るわ……」


「え?」


 俺はコトンと、ベッドに横になって気を失うように眠りについた。


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