帰宅
馬車が屋敷に着くと、マリーはアルフォンスに話をしに走って行った。
俺とクロエが馬車から荷物を運んでいると、レベッカがやってきた。
「アリス、お帰りっと。あれ、そちらは?」
レベッカがクロエを見て不思議そうな顔をする。
「あぁ、俺が言ってたところのお嬢様。今日はこっちに泊まりたいんだってさ」
「へぇ……あぁ、すみません。ようこそおいでくださいました」
レベッカが丁寧に礼をする。
今まで客が来たことが無かったので、レベッカの丁寧な仕草と言葉を初めて聞く。
ちょっと驚いた。
「えぇ、お世話になるわ。それにしても、アリス、本当にこっちでは男言葉を使うのね。ちょっとびっくりしちゃった」
「男言葉の時もあれば女言葉の時もあるし……結構適当なんだけどね」
「へぇ」
軽い会話を交わしていると、コレットもモップを持って出てきた。
いつも俺がモップをかけていたので、コレットが代わりに掃除をしていたようだ。
「そちらはお客様?」
コレットが小さな声でもじもじしながら聞いた。
あまり人と接するのが得意な方ではないと思っていたが、実際になれていないようだ。
レベッカは丁寧に振る舞っているのに、コレットは完全にまごついている。
「うん、そうだよ。コレット、一応お客様だから、ちゃんとしようね」
そう言うと、コレットがぎこちなく礼をして、レベッカを横目に見ながらまねをする。
「なんか、思ってたのと違うわね」
と、クロエがレベッカとコレットを見る。
「なにが?」
そう聞くと、クロエが肩をすくめた。
「毎日キスされてるって言うから、てっきりもっと年上のメイドたちなんだと思ってたわ。年上からしたら、アリスをいじるのなんて簡単そうだし。だと思ったら、あんな年下の子にいいようにされてるの?」
「ちょ、ちょっと、そんなこといちいち口に出さないで……あ……」
見ると、レベッカとコレットが軽蔑した顔で俺を見ている。
「そんなこと、しゃべったわけ?」
レベッカがすごく不機嫌そうに言う。
「信じられません」
コレットもジト目で俺を見る。
「と、とにかく、クロエはお客様だから、まずは荷物を運ぶのを手伝ってよ」
「はいはい」
とレベッカ。
冷たい目を向けられつつも、レベッカとコレットの協力があり馬車の荷物をとにかく玄関に運び込んでいく。
大体運び終わったところで、マリーが戻ってきた。
「大丈夫だったよ。泊まってもいいって」
「やった!」
クロエが無邪気に喜ぶ。
こういうところを見ていると普通にかわいい。
「それから、アリスに用があるから書斎に来てくれって」
「あ、了解」
そういえばお金の事もあるもんな。
俺は受け取った布袋を持って、書斎に向かった。




