マリーに怒られる
俺たちに用意された部屋に入ると、マリーは用心深く扉を閉めた。
そして、俺に向き直った。
「マ、マリー……ご、ごめんって」
「なんで謝るの?」
と、マリーが笑みを浮かべたまま首をかしげた。
怖い。
「え、だって、怒ってると思って」
「なんで私が怒ってると思ったのかな? 聞いていい?」
「わ、私が……クロエに好きって言ったから」
思わず女言葉で答えた。
「本当? 私はそうじゃないと思うんだけどな」
「な、なにが?」
額から冷や汗が降りてきた。
「私はこう思ってるんだ。アリスは本当にクロエのことを好きになっちゃって、その告白シーンを見られたからそんなに焦ってるんだよね? 違う?」
「は? え? 違うって!」
「……本当?」
マリーの顔から張り付いた笑みが消えた。
「なら……そんなに困った顔しなくていいじゃん。てっきり、もう私のことは好きじゃ無くなったとか言われるかと思ってた」
と、マリーが息を吐き出した。
「え、そんな風に思ってたの?」
「思うわよっ。だって、アリスが私のこと本当に好きに思ってくれてるかよくわからないんだもん」
と、マリーが口をとんがらせる。
あぁ、そうか。
マリーは今の自分の身体より身長も高いし年齢も上だけど、普通に女の子だった。
不安に思ったり悩んだりするのだ。
メイド長のような人生にもまれて何事にも動じないような女性では無い。
「はっはっはっ、マリー、そんな焼き餅をやくものではないよ。いやぁ、モテる男はつらいなぁ」
突然男言葉にして、おどけた言葉を出すと、マリーがあわてて俺の口を押さえた。
「ふがごっ……なにするの」
「ちょっと、ここよそのお屋敷なんだから、男言葉聞かれたらまずいでしょ」
「のろけてる会話もよくないと思うけど……?」
「あ、それもそっか」
マリーがちょっと顔を赤らめて、俺から手を離す。
「まぁ、小声で話せば大丈夫だよ。言っておくけど、さっきのは変に楽しくなっちゃってやり過ぎただけだから。俺は別にクロエの事は別に……」
と、さきほどのクロエの仕草を思い出す。
う……場合によっては俺も乗ってしまうかもしれない。
しかし、そんなことはとてもマリーには言えない。
「別に……なんとも思ってないから」
「ならいいけど……」
マリーがちょっと不満そうに言った。
「絶対にマリーのことを嫌いになったりしないから、そこは安心して」
「もう都合がいいんだから……じゃあさ、ね?」
と、マリーが自分の唇に指を当てた。
え、キスしろって?
「い、いや……一応ここ他の屋敷だし……」
ささやくと、マリーも俺の耳元に口を寄せてささやいた。
「誰も見てないから大丈夫だってば。それに、あのお嬢様とキスをしておいて私には駄目なの?」
「そ、そういうこと言わないでよ……分かったよ」
辺りを見回して、とくに不審な点が無いことを確認して、マリーの唇に唇を押しつけた。
ふにゅっという感覚が伝わる。
他人の屋敷でこんなことをしているという事実が、なんだか変な気分にさせる。
「こ、これくらいで……」
「ま、許してあげる」
マリーがちょっと笑った。
よかった……。




