コレットとのキスについて
自分の部屋に戻ってから、さきほどの行動を思い出した。
「いやいや……普通にまずかったでしょ」
よくよく考えれば、こんだけの美少女をベタベタ触ったら男なら変な気分になるのは当たり前だ。
だいたい、この身体はやけに反応がいいし、変な声を上げたりするし、あれで男に何も感じるなと言うのは無理な話だ。
「別に俺はいいんだけどなぁ……あっちは気まずいだろうなぁ……」
今度顔を合わせたときが気まずそうだ。
うーん……
まぁ、いい。
ちょっと軽く本を読んでから寝よう。
「アリス、入りますよ」
と、扉の外から声が聞こえた。
コレットだ。
そういえば、コレットがまだいたっけ……。
「は、はい……」
やる気の無い返事をすると、コレットが本を抱えて入ってきた。
コレットは無言で壁際に置いてあった椅子をベッドの横まで持ってくると、本を開いて読み出した。
「…………」
無言でページをめくっていく。
い、いつ、キスをしろと言い出すのだろうか。
コレットをちらちらみつつも、俺も手元の本を開く。
コレットがペラペラページをめくる。
その音が耳につく。
うーん、だめだ、とても本に集中できない。
「あ、あのさ、コレット……キスなら早くしちゃわない?」
そう言うと、コレットは本をパタンと閉じた。
うわ、ちょっとびっくりした。
「アリス、そんなに私とキスをしたいんですか?」
と、コレットがほんのり顔を赤くする。
いやいや、違うから!
「ち、違うよ! 横でなんか待たれている気がして気になるから!」
すると、コレットがほっぺを膨らました。
「そこは嘘でもキスしたいって言ってくださいよ」
「え、えー……でもさぁ、嘘は良くないと思うんだよなぁ」
と、気まずくてコレットから視線をそらす。
最近分かったんだけど、コレットも結構怖いんだよなぁ。
「それに……まぁ、キスはいいんだけど、いつもちょっと長くない? せめてもうちょっと短くしてくれると助かるんだけど」
そう言うと、コレットの表情が変わった。
「なんでですか!? 私、一日に一度しかキスしてないんですよ! 我慢してるって褒めてくれてもいいじゃ無いですか!」
と、コレットが身を乗り出してきた。
「え、ええ……?」
いや、そんなことを言われても。
「レベッカもマリーも一日に何度もキスしてるのに、私はずっと我慢してるんですよ! 一日一回なんだから、ちょっとぐらい長くてもいいじゃ無いですか!」
と、コレットが感情をむき出しにして大声を出す。
いつもかなり物静かなのに、たまにこうやって感情をむき出しにする。
こういう風に言われると、俺もなんとも言えなくなってしまう。
「あ、そ、そうだよね。が、我慢してるんだよね。えらいえらい」
「そうです! だから、ちょっとぐらい長くてもいいですよね」
「あー……そ、そうね」
と言ってから、ガクッと肩を落とした。
あー、駄目だー。
本当の女の子相手になると、女の子もどきの俺は迫力で全然勝てない。
なにしろ、向こうは女の子を十三年とかやっているのに、俺はまだ一月にも満たない。
やはり年期の違いという物が迫力に出るのでは無いだろうか……。
とか、考えていると、コレットが椅子から立ち上がった。
あ、いよいよですか。
「わかったよ……やるよ」
俺もおっくうな感じで立ち上がる。
「もっと元気にやってください」
「あのさぁ……」
「いつも通り、手を離すまでキスを止めたら駄目ですからね」
と、コレットが真剣に俺の顔を見る。
俺の方がコレットより背が高いので、見上げられる形になってちょっとかわいく見える。
でも、中身は鬼だ。
「はい……分かりましたよ、コレット様」
コレットが眼鏡を外して、机の上に置く。
そして、俺の手をぎゅっと握りしめて、目をつむる。
「はぁ……」
小さくため息を吐いてから、唇を重ねる。
というか、色気もくそも無く、とにかく唇をべたっと取っつけた。
ここ数日の経験で、コレットはロマンチックにキスしようがキスと言えないようなキスの仕方だろうが、そんなことは関係ないと分かった。
とにかく、時間の長いキスで無いと満足しないらしく、とにかくずっと俺の手を離さない。
とにかく離さない。
「んー……」
唇を突き合わせ、とりあえず鼻呼吸で時間が過ぎるのを待つ。
コレットの鼻呼吸の息も顔に当たるので、大変に不快である。
やっぱりどう考えてもこれはキスじゃ無い。
いやいや、今こそ精神集中の時だ。
本も読めないし、何も出来ない。
ここで、ちょっと考えよう。
「んんー……」
えーと、掃除は一通りやったし、シフトはもう決めたし、とりあえず一週間ぐらいは特に新しく考えるべき事は無い。
シフト通りに毎日こなしていけば、特に問題は無いだろう。
よし、仕事は大丈夫だ。
次が……えーと、なんだっけ?
「ん?」
なにか大事なことを忘れているような……
「んん!?」
そうだよ、日本に帰るんだよ!
なんで、うっかり日々の業務に埋もれて、その大目的を忘れていたんだよ!?
駄目だろ、俺!
日本に帰るにはとにかく『使命』を果たさないといけないらしい。
しかし、その使命がどんなものか分からない。
過去の三勇士というのは、農業改革や医療改革をしたらしいが、いわゆる知識チートだ。
だが、俺はまだ卒業もしていない大学生で、まともな専門性がほとんどない。
つまり、知識チートをしたくてもその知識が無い。
ってことは……一体どうすればいいんだ?
「んー……」
っていうか、本当にコレットのキスが長い。
まだコレットは俺の手をがっつり握っている。
この状態でキスを止めるとやり直しになる。
なんだこの罰ゲームみたいなキスは。
「んんー……」
すると、コレットがぱっと顔を離した。
「ぷはっ……あ、もう終わりね」
と、離れようとすると手を握られたまま引っ張られた。
「え」
「まだに決まってるじゃ無いですか! 今日のアリス、キスの最中に『んー』とか変な声出し過ぎです! 真面目にやってください!」
コレットが真剣に言ってくる。
ええ……?
「そ、そう? ご、ごめんね。でも、ちょっと聞きたいんだけど……コレット、本をたくさん読んでいるよね?」
「はい、本は好きです」
と、俺の手をぎゅっと握ったままコレットが答える。
「なら、三勇士の話とか詳しく知らないかな? 彼らがどういう風に使命を知ったかとかそういう詳細な話を……」
「知りません」
間髪を入れずに否定された。
「あ、そ、そう……」
気落ちしていると、また手を引っ張られた。
「もう一度お願いします」
「はい……」
目をつむったコレットに唇を押しつけた。
も、もう、やだー!!




