人間とは贅沢なもの
それから、なんてこともなく日々を過ごした。
たまにコレットは相手して欲しそうな顔をしてくるが、レベッカが「ダメでしょ」と言って止めてくれている。
そんな状態なので、レベッカも表だってアプローチしてこない。
マリーも少し不満そうな顔はするが、キスしてきたり、無理矢理さわってきたりしてこない。
「平和だ……」
いつものように廊下をモップがけして、いつの間にかたまる埃を綺麗にしていた。
そう、とても平和だ。
しかし、人間というのは贅沢な物。
これまでマリーやアルフォンスから手を出されまくっていたのに、いざ全然相手されなくなるとそれはそれで寂しかったりする。
「といっても、またマリーとかレベッカにモーションかけたらまずいし……」
そうなると、アルフォンスとイチャつくしか無い。
廊下のモップがけを一段落済ませると、モップを持ったまま書斎に訪れた。
「書斎の掃除をしたいんですけど」
そう声をかけると、アルフォンスは書斎から顔を上げて「ああ」と頷いた。
どうも事務作業中だったらしい。
相手してもらいたかったのに。
むー。
「……じゃあ、失礼しまーす」
仕方が無いので邪魔にならないように部屋の隅をモップがけをする。
アルフォンスの方をチラチラ見ていると、作業が一段落したのか、それとも疲れたのか、書類を投げ出した。
ここがチャンス!
掃除をしながら近づいていくと、アルフォンスがちらっと振り向いた。
よし!
「……ど、どうした?」
アルフォンスが驚いた顔をしている。
「え? な、なにがですか?」
「ものすごく物欲しそうな顔をしているが……」
「んぐっ」
感情が表情に出過ぎているようだ。
「ん……そ、そのー……暇だったらー……暇じゃ無さそうだけどー……相手して欲しいなぁ~
とか? ここ数日、あんまり話もしていないしー」
「お前……都合がいいなぁ」
アルフォンスがぶつぶつ呟いたが、椅子をくるっと回して両手を広げた。
「え?」
「ほら、ここに座れ」
「え、そ、それはさすがに……」
とはいえ、アルフォンスは真面目に言っているようだ。
自分から言っておいて断りにくい。
「じゃ、じゃあ……そ、そっと……」
アルフォンスの膝に浅く座ると、腕を回されてそのまま抱きしめられた。
「ひっ!」
「お前が相手しろっていったんだろ」
「そ、そうだけど……。わぁっ! ちょ、ちょちょちょ!」
アルフォンスがお腹をくすぐった。
「ちょっ! 無理無理無理! やめてやめて!」
「なんだー? 自分から言い出しておいてー?」
アルフォンスが完全に遊んでいる声をだす。
ちょぉっ!
ここまでされるとは思ってなかったんだけど!
くすぐったいし、け、結構性的にも興奮しちゃうよ、これ。
ふああぁぁぁぁ!!!
「や、止めて止めて!」
アルフォンスの腕を掴んで止めようとしたが、力が敵わないので全然抵抗できない。
「ふああぁっっ……くっ……ひっ……」
つい変な声がでてビクンと体を震わせると、アルフォンスが手を止めた。
「……大丈夫か?」
「あ、あんまり……」
ぜぇぜぇと荒い息をしながら答える。
「すまん……。ちょっと悪乗りしすぎたかな」
アルフォンスが頭を撫でてくれると、少し気が和らいでアルフォンスにもたれかかった。
「うー……。その……触ってくれるのはうれしいけど……あ、あんまり強引なのはさぁ」
「ほお。うれしいのか?」
「ま、まぁ……。全然触ってくれないよりは……」
「なんだ、お前。この前は拒否してたくせに」
「あ、あれは……いざ改まるとちょっと緊張しちゃってさ……」
「ほお?」
またアルフォンスがお腹をさわさわと触る。
「ちょっとぉ! ダメだってば!」
全力で抵抗していると、コンコンと扉を叩く音がした。
「…………」
二人とも無言になる。
また見られたし。
俺がアルフォンスの膝から降りて、わざとらしくモップを持った。
「い、いいぞ」
アルフォンスが声をかけると、扉が開いてレベッカが入ってきた。
レベッカは気まずそうな顔をしている。
「そ、その……待とうかと思ったのですが、急いで渡した方がいいかと思ったものですから。タイミングが悪かったらすいません」
「……そ、そうか」
アルフォンスは返答に困ったあげくにそう答えた。
「王子からのお手紙です」
横から覗き込むと、レベッカが差し出したのは装飾が施された封筒だった。
アルフォンスが封を開いて中身を見る。
「……急だな。明後日だ。しかもこれは……高級な料理店だな」
「会合のこと?」
「あぁ。まぁ……王宮に来いと言われなかっただけマシかな」
アルフォンスがほっとため息を吐き出した。
それからは変な事をしようという気分にもならず、俺もおとなしく自分の部屋に退散した。




