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藪から棒

「まさかジャンがいるとは……。でも、自分の正体がばれなくてよかった」


「そうね。私も驚いたけど」


「バロメッシュの屋敷で会うときに気まずそうだなぁ……」


「そのくらい大丈夫よ」


 ジスランさんの屋敷に戻ってからマリーと話をしていると、ドアをノックする音がした。

 返事をすると、執事が入ってきた。


「今日はどうでしたか。お楽しみになれましたでしょうか」


 俺は執事を見て不機嫌な顔になった。

 信用できない相手だ。


「ええ、まぁ、それなりに。それで、なにかご用ですか。手短にお願いします」


 つっけんどんに言い返したが、執事は動じない。


「はい。実はアリス様のお見合いが決まりまして、その日程と準備についてお話ししたいと思いまして」


 は……?

 今、なんて言った?


 俺は執事の顔を穴が開くほど見た。

 しかし、執事はすました顔で全く動揺を見せない。


「は……はぁ?」


 俺がポカンと口を開けていると、マリーが勢いよく立ち上がった。


「そ、それはどういうことですか!?」


 と、マリーが抗議したが、それでも執事は顔色一つ変えない。


「そ、そんな話聞いていませんよ!? だ、だって私はアルフォンスと……」


 言いかけると、執事はわざとらしく首をかしげた。


「おや? その件については諦めて、アルフォンス様の輝かしい未来についてはアリス様も祝福すると言っていた。と、主から聞いておりますが」


「んな……」


 そういえば、ジスランさんに無理矢理言いくるめられたのだった。

 だが、お見合いなんてやるわけにはいかない。


「そ、そんなもの受けるわけにはいきません。断らせていただきます」


 緊張しながらも、執事に向かって言い切った。

 自分、偉い。


 しかしそれでも執事の顔色は変わらない。


「お言葉ですが、断るというのはまずいかと」


「なぜですか?」


「相手が第三王子のエドワード様です。相当な理由がなければお断りするのは大問題になります」


「は……?」


 第三王子……王子!?

 どこかの貴族と無理矢理引き合わされるのかと思いきや、王子!?


「じょ、冗談ですよね?」


「冗談ではありません。当家の主がまとめてきた話であります」


「え……その……こ、困ります……」


 マリーの顔を見たが、マリーも王子相手となると困惑したようで、困った顔で俺を見返した。


「ど、どうしよう」


「どうしようかしら……」


 ひそひそ言い合っていると、執事は勝手に納得した顔でしれっと言った。


「では、そういうことでお願いします。明後日に来られることになっていますので、早速準備をお願いします」


「明後日!?」


 嘘でしょ!?


 執事はそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。


 おいー……なんだよこれ……


 残された俺は、マリーを見た。

 でも、マリーも不安そうな顔をしている。


「ど、どうしよう……。マリー、なにか思いつかない?」


「お、思いつかないって言われても……。お相手が王子とか……わ、私もどうしていいか分からないわよ」


「マリーも長いこと貴族と関わってきたんだから、わ、わかんない?」


「分かるわけないでしょ。そもそも私がバロメッシュのお屋敷で二年ほど働いただけで、それ以外に貴族の方との交流とかないわよ」


「そ、そっかぁ……」


 と、ここで全然関係ないことを思い出した。

 アルフォンスがマリーに手を出そうとしたことを前に聞いた。

 二年間働いていると言うことだけど、アルフォンスがマリーに興味を持ったのはいつのことだろう。


 今聞くべき事では無いが、気になってしまう。


「あのー……突然変なことを聞くけど、アルフォンスからマリーにアタックをかけたって聞いたけど、それっていつのこと?」


「え? 今それを? あー……それ聞きたいの? 聞きたくないでしょ?」


 マリーが少しげんなりした顔をした。


「聞きたくないけど、気になるし……」


「そう。まぁ、秘密って訳じゃ無いわよ。入ってすぐの時のこと。あんまり乗り気じゃない対応をしていたら、すぐにご主人様の方から引いたけどね。その後はなんにもないわよ」


「そ、そうか……。え、えーと、なんで拒否したの? 自分が言うのはなんだけど、アルフォンスってそんなに悪い人じゃないと思うけど……」


 すると、マリーが少し顔をしかめた。


「あのねぇ。確かにごくごく稀に貴族が庶民と結婚することはあるわよ。でも、大抵は貴族は貴族同士と結婚するの。貴族が庶民の女に手を出すのは遊びなの」


「あ、あぁ……そっか……」


 自分が英雄という特殊な立場だから庶民と違うだけで、普通ならそうなっていたのかもしれない。


「う、うーん、でも、アルフォンスは真面目だからそういうつもりじゃなかったんじゃないかな。本当に仲良くなったら結婚しようとか思ってたかも」


「それはわからないけど、働きに出る前から親や友達から『気をつけろ』って言われていたからね。そこはそっけなく振る舞ったの」


「うー、うーん、そっか……」


 ぬー、もやもやする。

 アルフォンス……結婚した後に浮気したりしたら嫌だなぁ……。


「でも、そんなことをできたマリーなら、どうやって断ればいいか分からない?」


「そうねぇ……。私はあの時はあくまで『仕事』として対応をしていたかな。そうすると男の人も付けいる隙が無いから、だんだん諦めることが多いかな。でも、相手がガンガンくるタイプだとそれでも避けきれないかもね」


「な、なるほど……。じゃあ、王子もあくまで仕事というか事務的な淡々とした対応をして、相手の興味を失わせるということでいいかな」


「いいんじゃない? でも、アリスだから……そんな対応できないかも……」


 マリーが心配そうな顔をする。


「よ、横でアドバイスしてくれない?」


「その場で? ……まぁ、やってみるけど」


 そんなことを話したりしているうちに、問題の日はやってきてしまった。



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