ジャンとの再開
「ジャ、ジャン!?」
まさかこんなところで出会うと思わないので驚いていると、ジャンも自分に気が付いたようで俺を見て固まった。
「え、う、うそ。ア、アリ……」
やばい、本名を呼ばれてしまう!
「アリアです!」
「え、えっと……?」
「つ、付いてきて!」
俺はジャンに走り寄ると、腕を掴んで引っ張り出した。
後ろから、ひゅーっと冷やかす口笛が聞こえた。
そのままテラスに引っ張り出すと、ジャンは当惑した様子で俺を見た。
「アリスさん、なんでこんなところに!?」
「ジャンこそ、なんで……」
「こ、こういうのあんまり出なかったんですけど、アリスさんが居なくなってから寂しくて……」
「え?」
俺は首をかしげた。
「ジャンって好きな人がいるんでしょ? たしかかわいい系の好きな人が居るって。それで自分にいろいろ恋愛アドバイス聞いてきたじゃんか」
「え゛……あ、あぁ、あれですか……。さ、さすがにもうわかりませんか?」
ジャンが気まずそうな顔をした。
「……なにが?」
俺が聞き返すと、ジャンは困ったような顔で俺を見た。
「なにがって、僕が好きなのはア……アリスさんです!」
ジャンの言葉を理解するのに若干の時間が必要だった。
……は?
はぁ!?
「え、ええ!? い、いや……だって……ちょ、ちょっとまて、どういうことだ!?」
「ど、どういうことと聞かれても……」
「だ、だって俺、男だよ!? 分かってるだろ!?」
「だ、だって、どうみても女の子にしか見えないし! かわいいし! 親切だし!」
ジャンが顔を真っ赤にして言う。
「う、うわ、ちょっと待て! 待てってば!」
気持ちを落ち着けようとしながら、ジャンを見ると、ジャンは熱っぽい視線で俺を見てくる。
うわ……ちょ……て、照れるんだけど。
断るしか無いけど、そういう視線で見られるとダメなんだって……
うう……
視線をそらしながら話を続ける。
「あの……む、無理だから。その……悪いんだけど……そういうわけにはいかないんだよ。ま、まさか、ジャンが俺を好きとか……こ、困るんだけど……」
「むしろ、ものすごくわかりやすく言っていたつもりですけど……。あれでわからないアリスさんがおかしいです」
ジャンが不満そうな顔をした。
「だ、だって、全然そんな風に思わなかったから……。で、でも、悪いけど、無理だから……」
「な、なんでですか」
「えーと……アルフォンスと婚約したので……ま、前も形上の婚約はしていたけど、今回は本気で……」
頬をひっかきながら恥ずかしがりながら答えると、ジャンが口をポカンと開けた。
「え……」
ジャンは脱力した様子で手すりにもたれかかって、黙ってしまった。
「そ、そんなにショック……?」
「はい……」
ジャンはうつむいていたが、ゆっくりと顔を上げた。
「こんなに仲良くなった女の子はアリスさんが初めてですし……」
「い、いや、俺男だからね!?」
「そう見えません……」
「み、見えないだろうけどさぁ……。ま、まぁ、その、そんなに気を落とさないで……。もっといい相手はいるって」
「居ないと思います……」
ジャンが死にそうな声を出した。
「い、いや、居るって。ほら、そんなに落ち込まないで。な? な?」
見たことが無いほど落ち込んでいるジャンを必死に慰めていると、マリーがテラスに入ってきた。
「アリア、話は済んだ?」
「話はしたんだけど、ジャンが落ち込んじゃって……」
すると、マリーがふぅっとため息を吐き出した。
「振った相手にあんまり優しくしない方がいいわよ。『まだいけるかも』って勘違いしちゃうから」
マリーが少し冷たい表情で言った。
マリーは美人でモテるからこそ、その辺りはシビアなんだろう。
「そういわれても……」
「ジャンもあきらめなさい」
マリーに声をかけられると、ジャンは手すりを離して顔を上げた。
「あ、あぁ……わ、分かってるよ」
ジャンはマリーには少しぶっきらぼうに答えた。
「ジャン……大丈夫?」
「だ、大丈夫です……。またお会いしましょう」
あんまり大丈夫じゃない様子でジャンが部屋の中に戻って行った。
そして、部屋の中央で固まっている男の子の集団に入っていった。
「どうしたんだよ」
「……振られた」
「そりゃしょうがないよ。あんな高嶺の花に憧れてたのか」
「結構仲が良かったんだよ。放って置けよ!」
「キレるなよ。仕方ないって」
そんな声が聞こえてきた。
ジャンと仲が良さそうだし、友達と話していれば少しは元気が出るだろう。
「あら、結構暗いわね。アリア、そろそろ帰った方がいいと思うわよ」
マリーに言われて気が付くと、この会場に来てからかなりの時間が経っていた。
「そうだね。そろそろ帰ろうか。この体、ちょっと無理するとすぐに調子崩すし……」
帰り際に女の子達にさよならの挨拶をし、パーティ会場を出たのだった。
自分の噂を聞きに来たのに、まさかジャンがいるとは思わなかった。




