目覚め
体が重い。
ここは……どこだ?
冷たい物の上に横たわっているのは感じるけど、なんだ?
「う……うぅ……」
力を入れようとしたが、身体が動かない。
もう一度力を入れる。
それでも動かない。
さらに力を入れて、ようやく頭が上がった。
視界に入ってきたのは大きな屋敷だ。
テレビやネットの画像でしか見たことがないような、ヨーロッパ風の大きな屋敷だ。
広大な庭と屋敷が、高い塀に囲まれている。
今、俺は地面にうつ伏せに倒れているらしい。
ちょうど屋敷の正門の前に倒れていて、屋敷の様子が見て取れる。
「な……」
ゆっくりと横を向くと、馬に引かれた馬車がゆっくりと走っているのが目に入ってきた。
嘘だろ。
なんだこれは。
そして、どういうわけだか体が言うことを聞かない。
「な……ん……げほっ……」
声を出そうとして、喉が空気を飲み込んだ。
声もうまく出せない。
不器用に頭を動かすと、自分の手が目に入った。
なんだか、やけに白くて小さい。
「うっ……」
なんとか体を動かすと、着ている服が脱げそうになる違和感を感じた。
「なん……で……」
片肘を突いて、上半身を少し持ち上げて、下半身を見る。
そこにはいつものジーパンがあった。
しかし、どういうわけだか、ぶかぶかだ。
記憶にあるのは、大学の帰りに自転車に乗っていたことだ。
そうだ、このジーパンをはいて半袖のシャツを着て、自転車でいつもの道を走っていた。
そして、うっかり石を踏みつけて姿勢を崩して転んだのだ。
記憶はそこで終わっている。
おそらくその後、体を地面に打ち付けただろうが、死ぬような怪我をする状況ではなかった。
じゃあ、ここは天国ではないはず。
うっかり気を失って白昼夢でも見ているのだろうか。
「げふっ……がっ……」
また喉がおかしな風に空気を飲み込んで、苦しくて力が抜けた。
顔を地面に打ち付ける。
地面はアスファルトではなく、本当の土だった。
視線の先にある屋敷の敷地の中で、メイド服を来ているメイドと思われる少女がこちらを指さしている。
なにを言っているかわからないが、慌てた様子でそのメイドと貴族のような格好をした男がこちらに向かって駆け寄ってくる。
「た……たす……」
手を伸ばした腕に俺の腕時計がはめられている。
直感的に、この世界とは異質な物を感じた。
これを見られてはまずい。
直感的にそう感じた。
震える手で、なんとか腕時計を外し、時計をジーパンのポケットに詰め込む。
安堵した瞬間、体がグルグル回るような感覚で頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「だ、だれ……か……」
駆け寄ってくる男の姿が一瞬だけ見えた。
しかし、すぐに視界はブラックアウトした。
そして、誰かの手を握った感触を残して、俺の意識は遠のいていった。