英雄の墓
翌日、エミリーさんと合流して、エミリーさんと自分とマリーの三人で跡地に向かった。
道すがら、エミリーさんがその英雄について説明してくれた。
「三勇士ほど有名な方ではないのですが、400年ぐらい前に他の世界から来られて、この街を救ってくれた英雄様です」
「あ、そっか。あの三勇士以外にも居るんだっけね」
自分が聞くと、エミリーさんは頷いた。
「その頃は内戦状態で街単位で戦っていたそうです。それがずっと続いて国全体が疲弊して、他国に襲われる前に勝手に自滅する寸前というところまで行ったそうです」
「そうらしいわよね」
と、マリーも頷いた。
教養がそこそこありそうなマリーでもその程度の認識なので、この世界の一般人の歴史知識はかなり薄い。
「どういう英雄だったんです?」
と、自分が聞くと、エミリーさんが少し遠い目をした。
「ええっと……たしか、背中に蛇のような不思議な生き物の絵が描かれた英雄様だと聞いています」
背中に蛇……龍?
背中に龍?
もしかして、893な人?
いや、そもそも全く時代が違う人かも知れない。
1500年代の人かもしれないし、時間の流れが違っていて1800年代の人かもしれない。
それに、日本人とも限らない。中国人かも知れない。
「その人がなにをしたんです?」
「えぇ、その英雄の方は自分の足で当時の諸侯と杯を酌み交わしてとりまとめたとか」
「へ、へぇ……。す、すごい行動力……」
「そのおかげで内戦が徐々に収まったそうです。もしあの英雄様がいなければ、この街は無くなっていたと言われています」
「そうなんだ……」
英雄というのはいわゆる賢者みたいな人たちだと思ったら、行動派の人も居たようだ。
そんな話をしながら細い通りを歩いて行くと、少し広い通りに出た。
表通りほど広くは無いが、裏通りと言うほど狭くない。
通りの両側には時代を感じさせる建物が並んでいる。
「雰囲気がありますね」
と、マリーが建物を見て言った。
「はい、旧通りです。えーと、こっちですよ」
エミリーさんに続いて十字路を曲がると、少し広い場所に出た。
手入れされた庭とこぢんまりとした家。
その家も手入れはされているがかなり古い物に見える。
「はい、ここです」
エミリーさんが笑いながら、その小さな建物を指さした。
「え、こ、ここですか?」
背中に龍の入れ墨があった英雄と言うことで豪勢な建物を想像していたが、エミリーさんはどう見てもその建物を指さしている。
「ほ、本当にここ?」
「はい」
なぜかエミリーさんが自慢げに頷いた。
きっと街の自慢なのだろう。
「ここに400年前の英雄が……」
マリーも感慨深げに建物を見た。
そして、自分を見た。
「アリス、なにか感じる?」
「え? なにかって?」
「他の世界から来た者同士、なにか感じたりするのかなって」
「い、いや、ないない。そういう特別な能力とか全然無いし」
「そっか。やっぱりアリスはアリスだね」
なにか馬鹿にされているような……。
三人でその敷地に足を踏み入れると、チリリンと鈴の鳴る音が聞こえた。
そちらを見ると、片足を引きずったおじいさんが鈴を鳴らしながら歩いてきた。
「あ、どうも~」
と、エミリーさんが挨拶すると、おじいさんは顔をしかめてから自分たちを見た。
「エミリーか。あの悪ガキが、随分と大きくなったな」
「前も言われましたよ、それ」
「後ろの二人は知り合いかい? また随分とかわいらしいのを二人も連れてきたな」
「そんなこといいから、この二人に説明してあげてくださいよ」
「あぁ、分かった分かった」
エミリーさんがそのおじいさんに小銭を渡すと、おじいさんが咳払いをして少し丁寧な口調になって説明を始めた。
何度も説明し慣れているようで、突っかかることも無くすらすらとセリフを言う。
話の内容はエミリーさんが言ったのとほぼ同じだった。
内戦が酷くなったときに異世界からやってきた男がこの地域を駆けずり回り、諸侯達と話し合いの機会をつくり、徐々に内戦を収めていったそうだ。
それも十年以上かけて徐々に徐々に、本当に根気よく行動したらしい。
おじいさんの語る英雄の苦労話に思わず感情移入して、拳に力が入った。
「す、凄いですね……」
「だろう。だからこの街の誇りなのさ。代々俺のような案内役が手入れしてきたんだ」
おじいさんも誇らしげにその小さな庭と家を見た。
「最後は大勢の人々に囲まれ、大往生だったと言うことさ」
おじいさんがしみじみと語った。
「へぇ……え?」
なんとなく頷きかけたところで、言葉が止まった。
……え、ちょっと待った。
大往生?
おかしい。
「あ、あの、すいません。内戦を止めるという使命を果たしたんですよね。か、帰ったのでは?」
自分がそう聞くと、おじいさんは変な顔をして庭の隅の四角い石柱を指さした。
「何を言っているんだい。いまもご遺体はあの下に眠っているよ。見てみなよ、この小さな墓を。ご本人が墓など質素でいいと最後まで言い張っていたらしい」
見ると、その小さな石柱の前に花や小銭が並んでいる。
「え、ええ!? は、墓……墓って……」
内戦を終わらせるという大きな成果を出したのに、帰れなかったのだろうか。
そんな馬鹿なことがあるだろうか。
「こ、この街の英雄は帰らなかったとしても……ほ、他の英雄は帰ったんですよね?」
そう聞くと、おじいさんは首をかしげた。
「ん? 若かった頃、農業を改革したホメレスト様の跡地や、戦を収めたジョン様の記念碑のある場所にも行ったことがあるが、どちらもご遺体を収めた墓があったなぁ。もっとも、こんな墓と違って豪勢だったがね」
「え……それって……使命を果たしても帰れない……って……こと……?」
俺は愕然として、その場に立ち尽くしたのだった。
第五章終わり




