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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第5章 バロメッシュ家を離れて
182/216

まともな状態でご対面

 気楽な気分でゲストルームの扉前まで来ると、メイドさんがカートを引いて出て行くところだった。

 もうアルフォンスが居るようだ。


「さて……」


 どうやって入っていくか、と思ったところでちょっと躊躇する。

 あれ、いざ会うとなるとどういう顔をしていいのかわからないぞ。


 前回は変な風な対応をしちゃったからなぁ……

 それにマリーとなんか変な関係だし、それも後ろめたい気持ちになる。

 いっそのこと、婚約解消してもらったほうがいいかもしれない。

 マリーと友達に戻ったつもりだったけど、なにか自分が離れられない気持ちになってしまって……それを正直に説明した方がいいかな?

 でも、アルフォンスは気を悪くするだろう。


 そんなことを考え出すと、足を踏み出せない。


「うー……」


 立ち止まっていると、カートをひいていくメイドさんがこちらを見た。

 

 う、また変な目で見られる。


「え、えい!」


 メイドさんの視線が逃れるために、勢いで扉を開けてゲストルームに飛び込む。


 椅子に座っていたアルフォンスが驚いた顔で俺を見ていた。

 そのアルフォンスと目が合って、なんか気まずい雰囲気になる。


「あ……こ、こんにちは」


 とっさにそう言うと、アルフォンスがぎこちなく頷いた。


「あ、あぁ……こんにちは……。そ、そこは、お久しぶりですとか言うところだろう……ま、まぁいいが」


 アルフォンスがぎこちなく言うと、すっと正面から俺の顔を見た。


 あ、あれ?

 アルフォンスってこんなに格好良かったっけ?

 なんか、記憶にあるより印象がいいんだけど。

 ギュスターヴみたいに超絶美形とかそういうんじゃないけど、すごく安心できるような、信頼できるような、そんな雰囲気がある。

 あれ? あれ?


 さっきまでマリーのことが頭の中を渦巻いていたはずなのに……あれ??


「な……なんかあった?」


 と聞く。


「いや、何もないが、前のお前が様子がおかしかったから、改めて出直してきただけだ。一応これでも苦労して時間を作ってるんだぞ」


「そ、そうなんだ。あ、ありがとう」


 顔を合わせると変な気分になっちゃいそうなので、視線をそらせながら答える。


 あれー、あれー?

 なんで自分はこんな風になってるわけ?


「そ、そっか、また来たんだ……」


 そう言うと、アルフォンスが眉をひそめた。


「悪いのか?」


「いや、悪くないよ! 全然悪くないけど……」


 おかしい。

 おかしいぞ。

 なんで、こんなに恥ずかしいんだ。

 男同士だって! 俺は男だって!


「とりあえず、今日は普通のようだな」


 アルフォンスが少し安心した声を出した。


「うん。あ、あのときは寝不足で変なテンションだったから……」


 本当は今日もなんかおかしい。

 なんでこんなに照れくさいんだ?


「本当はもうしばらくしてから来るつもりだったんだが、どうも落ち着かなくてな。とにかくはっきりさせないと仕事に手が着かないと思ってきたんだが、今日はいつものお前で良かった」


「あはは……あのときはごめんね」


 そう答えると、アルフォンスがじっと俺の顔を見た。


「アリス……お前、やっぱりかわいいな」


「にょわっ!?」


 血圧が一気に上がり、脳内快楽物質が大量に放出され、目の前が真っ白になりかけた。


 うお!?

 危ない!


 鼻血が出るかと思って、とっさに鼻を抑えた。

 出るわけがないのだが、なんだかそれくらい脳天に突き抜けた。


 な、なんでいきなりそんな刺激の強いことを言うんだよ!?


「な、ななななななな」


 アルフォンスを指さして非難しようとしたが、「な」しかでてこない。


「おい、落ち着けって」


 アルフォンスが苦笑しながら立ち上がって、近づいてくる。

 ちょぉ! 近づいてくるな! 恥ずかしいから!


「やっぱりお前はいいなぁ。ちょっと頭を撫でていいか?」


「えぇ!?」


「……ダメか?」


 アルフォンスが残念そうに言う。

 そ、そういう顔をされるとさぁ……


「え……まぁ……いいけどさぁ」


 そう答えると、アルフォンスが笑って手を伸ばして来た。


「うわ……うわ……」


 手を伸ばされただけで思わず変な声が出てしまう。

 その手は俺の腕を掴むと、少し強引に引き寄せた。


 ご、強引……な、なんか、いい……


 そして、わりと手加減せずにワッシャワッシャと頭をなで始める。

 そっと来ると思っていたから、驚いて思考が止まった。


「うわ……うわっ……わ……ま、待った、そんないきなり……」


 途端に身体がふわふわしてきて、身体の制御が効かなくなってくる。

 とっさにアルフォンスに寄りかかって、しがみつくようにして身体を保つ。


 なにこれ、気持ちいい。

 なんか、アルフォンスのなで方がどんどん洗練されてきている気がする。

 それとも自分の感度の問題だろうか。

 とにかく、めっちゃ気持ちいい。

 このまま寝ちゃいそう。


「やっぱりお前はいいなぁ」


 その言葉に若干『下衆』な感じを覚えて、急に頭が覚醒した。


「……はぁ!?」


 アルフォンスを見上げる。

 アルフォンスは笑いながら俺の顔を見ている。


「表情豊かでいいなぁ」


「今、変な意味で言ったでしょ! 変な目で見るのはや、やめ……」


 言い返そうとしたら、また頭をなで回されて二の句が継げなくなる。


「お前は本当にちょろいな。そうそう、チョロいところがかわいいんだからな」


 反論したくて、手を振り払おうとするが、アルフォンスは強引に頭を撫でてきた。


「や、やめて……ご、強引……」


 顔が真っ赤になってくる。

 やばい。

 抵抗しても無理矢理やられるのが快感過ぎる。

 俺って本当にM気質だ。


「ん、そんなに嫌か?」


 アルフォンスが手を止めた。


「え……?」


 突然大事な物を失った気がして、アルフォンスを見上げた。

 よっぽど虚ろな表情をしていたらしく、逆にアルフォンスが動揺した顔をした。


「な、なんだ……」


「と、突然止めないで欲し……」


「おいおい」


 アルフォンスが苦笑いをしつつ、また頭を撫でてくれた。

 う、う……き、気持ちよすぎる。


「なぁ、もういいだろ? 俺の所に戻ってこいって」


「え……あ……うあ……」


 何か言おうとしたが、快感で言葉がまとまらない。

 ちょっとやばいよ、これ。

 なんで、頭を撫でられるだけでこんなに気持ちいいんだ。


「なぁ、おい、俺のことがそんな嫌か?」


「べ、別に嫌じゃ……」


「じゃあ、いいだろ」


 アルフォンスが笑いつつ、肩に置いていた手をすっと背中に移動させた。


 え?


「お……おあぁぁぁぁl!!」


 突然強い刺激が走って悲鳴が出てしまった。

 背中にゾクゾクという違和感が走る。


 い、いきなり背中を触るなぁ!!


「っと、やりすぎたか……すまんな」


 アルフォンスが謝るがそれどころじゃない。

 必至にアルフォンスにしがみついて、その『快感』が抜けるのを息を殺して待つ。

 そう、いままではただの強い刺激だったのに、今の刺激はとても気持ちよく感じてしまった。


「フーー……フーー……」


 や、やばすぎ!

 な、なんだよこれ!

 こんなことでこんなに気持ちよくなってたら、本当にまずいじゃん!

 このエロい肉体め、いい加減にしてくれ!


 快感と違和感が薄れてきたので力を緩めると、アルフォンスが腰の辺りを支えた。


「この辺なら触っても大丈夫か?」


「う、動かさなければ……」


「そうか」


 アルフォンスがまじまじと俺の顔を見た。

 そして、困ったように視線を外した。


「おい……すごい顔してるぞ」


「う、うるさい。デリカシーない……」


 手で目元を隠す。

 どんな表情をしているのか……鏡があっても自分で確認したくない。


「ったく、お前、こんだけ発情しておいても断るとはなかなかいい根性してるな。普通、覚悟を決めるだろ……」


 アルフォンスが恨みがましくつぶやく。


「な、なんか、今日強引……」


 強引ですごくいい。


「あのなぁ、この前、俺がどれだけ動揺したと思っているんだ。わけのわからない反応をするから……こっちだって不安になる。でも、ちょっと強引だったか……ま、許してくれ」


「う、うん。許す」


 無意識に頷いていた。

 あれ?

 自分で言っておいてあれだけど、甘すぎないか?


「だいたい、強引なのが好きなんだろ?」


「え? あ……まぁ……そうかもしれないけど……」


 なんと答えた物か迷って視線をそらせると、アルフォンスが俺の頬に手を当てた。


「え?」


 そこにアルフォンスが顔を近づけてくる。


 え、嘘だろ。

 さすがに冗談だろ。


 と、思っているうちに包み込まれるように唇にキスされていた。


「…………」


 な、なにこれ?

 え、ちょっと。

 自分の中が混乱しすぎていて、なにをどうしたらいいのかわからない。


 アルフォンスが唇から離れた。

 「え、もうちょっと」と言いそうになったのを飲み込み、アルフォンスの顔を見上げた。


「な、なんで……?」


「なんでって……今更聞くか?」


 アルフォンスが照れくさそうに言った。


「だ、だって……」


 動揺して床を見つめていると、唐突に手を握られた。


 え?


「頼む。俺と結婚してくれ」


 顔を上げると、アルフォンスが真剣な顔で俺を見ていた。


「……げ」


 唐突のプロポーズに汚い声が出でしまった。

 こんな声が出たら雰囲気もなんにもあったもんじゃない。


 ってか、何言ってるんだこの男は!?

 婚約者だってただの名義だろ!

 たしかにちょっといい仲だったのは認めるけど、それと実際に結婚するのとはレベルが違う!

 何考えているんだ!


「は、はい……」


 頷いた。


 って、なに頷いているんだ俺!

 雰囲気に流されている。


 慌てて、頭を振って目を覚ます。


「……なんて言うと思ったか! お、お、男なんだから、お、お、お前とけ、け、け、結婚なんてするわけ……ああああもおおおおおお!!! 変なこと言うな! もう言うな!」


 手を振り回して、アルフォンスを振り払うと、アルフォンスはなぜかちょっと笑いながら俺を見た。


 顔から火が出るかと思うほど、顔が熱い。

 今の自分の表情は絶対に自分で見たくない。


「それは受けるってことでいいんだな?」


「はぁ!? なんで!?」


「だって、そういうことだろ?」


「な、なんなんだよ! きょ、今日は本当に強引だな!」


「強引なのが好きだって分かったからな」


「だ、だからって……それとこれとは……」


「な、いいだろ?」


 アルフォンスが余裕そうな顔をしているが、表情の端々に必死さがにじみ出ている。


「え……まぁ受けてもいい……んぐっ!?」


 慌てて言葉を飲み込む。

 なんでつい頷きそうになってしまうんだ。


「い、いや、ダメだって!」


「なんだよ、今受けるって言ったよな?」


 アルフォンスが勝利を確信した顔で言う。

 そういう顔をされると喜ばせたくなってしまうから、止めて欲しい。


「ち、違うって。『受けてもいいなんて言うわけ無いだろ!』って言おうとしたんだよ!」


「そうか? そんな感じじゃなかったけどなぁ」


 アルフォンスが軽く笑う。

 今日は本当になんかキャラが違うぞ。

 いつもはここまでガンガンこないのに。


「も、もう、なにふざけてるんだよ! さっさと帰れよ!」


 わざと乱暴に言うと、アルフォンスが一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。


「まぁ……そうするか。また時間のあるときに来るからな」


「ええ!? 本当に帰らなくてもいいじゃん! もっといじって欲し……」


 やばい。

 何言っているんだ、自分は!


 アルフォンスがちょっと驚いた顔をしたが、すぐに吹き出した。


「おいおい、異世界からの来訪者はとんだ好き者だなぁ」


「だから、アルフォンスがそうやっていじり回すから……え、えーと……」


 やばい。

 どんな台詞を言っても好き者感が出てしまう。


「お前、まさか人の屋敷で事に及ぶ気か?」


 アルフォンスが真顔になって言った。


 はぁ!?


「だ、誰が!? そんなことするわけないだろ! これだから、頭の中がピンクで染まった生き物は!」


「ずいぶんな言いようだな。でも、それはお前だろ」


 と、アルフォンスがまた頬に手のひらを当ててきた。


「う……」


 アルフォンスに肩を抱かれたまま、頬を撫でられる。

 や、やばい、恥ずかしいし気持ちいいし、なんだこれ。

 絶対にこの身体は発情してるぞ。

 たしかにいつも発情してるような体質だけど、今日は特にやばいぞ。


「も、もう止め……」


 アルフォンスの腕を掴んで軽くはね除けようとしたが、アルフォンスはそれに反抗してきた。

 手をどけてくれない。


「お前……本当に誘うのがうますぎるぞ。ここが人の屋敷だって忘れそうになる。……聞かれてないだろうな」


 アルフォンスが人の頬をすりすりしながら、扉の方を見る。


「こ、このお屋敷のメイドさんたちはマナーが厳しいから、だ、大丈夫だと思うけど……」


「そうか。でも、この辺にしておかないとな」


 アルフォンスが俺の頭をポンポンと二度ほど撫でてから、俺を離した。


「え、嘘、ここで終わり?」


 反射的にそんな台詞が出た。


「ん? まだやる気か?」


 アルフォンスが怪訝な顔をした。


「ち、ち、違うよ! ってか、この身体が敏感だって分かってるのに、なんでこういうことするのさ!」


「おいおい、本気で怒るなよ。喜んでるくせに」


「た、たしかに気持ちいいけど……ってか、気持ちいいから困るんだよ! 止めてよ!」


「あのなぁ……やってくれとか止めてくれとか……」


 アルフォンスがちょっと嫌な顔をする。


 う……

 たしかにそっちから見たら俺はめちゃくちゃわがままな女だろう。


「そ、そうだけど……キ、キスはやりすぎだろ!?」


「なぁ……早く戻って来いよ」


 アルフォンスがじっと俺を見てきた。

 視線が真剣すぎて、視線を合わせたら断れなくなる。

 あわてて視線をそらした。


「よ、用が済んだら戻るつもりだってば。まだ時間がかかりそうだけど……」


「そうか。まぁ……時間があるときには来るつもりだが、あまり頻繁に来るとジスラン殿もいい顔をしないだろうしな」


 アルフォンスが少し顔を曇らせる。

 確かに、それはそうだ。

 執事さんなどは普通にジスランさんに連絡をしているはずなので、あんまりアルフォンスが頻繁に来てるとジスランさんが直に止めに来る気がする。


「お前がさっさと覚悟を決めてくれれば、ジスラン殿も口を出さないと思うが……。いや、そうでもないか。それはそれでなにか言ってきそうだな」


 アルフォンスがぶつぶつと呟く。


「ま、まぁ、ちょっとお茶を替えてくるよ」


 メイドさんを遠ざけてしまったので、給仕してくれる人が居ない。

 話をしている間にすっかり冷めてしまった。


 カートを押して部屋を出た。

 すると、部屋を出たすぐ横にマリーが立っていた。


 あ……


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