簡単にボロが出ます
翌日、俺はできるだけ平静を保って過ごした。
マリーと会ったら普通に挨拶し、他のメンバーとも普通に挨拶をして仕事をした。
しかし、女子の洞察力は当然ながらそんなに甘くない。
一発でレベッカに見破られて、さきほどから怪訝な表情で見られている。
それを無視して淡々とモップをかけていく。
「ねぇ、あんたマリーとなんかあったの?」
レベッカがモップをつかんだまま俺に聞いてくる。
ちなみに、レベッカはあまり掃除に熱心では無く、いつも俺の方が広範囲を掃除している。
「い……いえ、別に。なにもありません」
「嘘じゃん。あんたやけにマリーに冷たいし、マリーも元気ないし」
と、レベッカがモップを壁に立てかけて、じっと俺の顔を見てくる。
なんでそうやって顔を見るんだ。
耐えきれずに顔をそらす。
「気のせいです」
「は? その態度でごまかせてると思ってるの? 私たち仲間なのよ。そういうごまかしは無しだから」
そっと振り向くと、レベッカは真剣な目で俺を見ていた。
あー駄目だ。
やっぱりごまかせない。
「じ、実を言うと……マリーとちょっと喧嘩をしまして」
「喧嘩? マリーが喧嘩をするなんてちょっと信じられないけど。それに、マリーのあの落ち込み方はちょっと普通じゃ無いわよ」
と、レベッカが意外そうに首をかしげる。
たしかに、マリーは元気そうなふりをしているが、時々どこを見ているかわからない顔をしている。
男連中は気づいていないようだが、女からしたら一目瞭然だ。
「その……いろいろありまして。聞かないでもらえるとうれしいんですけど」
「あのね、私たち、仲間なの。そういうの無し!」
レベッカが宣言する。
ある意味、男らしい。
「それが……ど、どう言ったものか……」
正直、自分の中でとどめておくのはとてもつらい。
誰かに話したい気持ちはある。
でも話したら当然マリーにも伝わってしまうし、このゴタゴタが屋敷内に広まってしまう。
「あんた、昨日ご主人様の前でマリーが好きって言ったんでしょ?」
「ぶっ!」
思わず吹き出した。
って、ばれてるんかよ!
「な、なんでそれを」
「ご主人様とガストンが話しているのを聞いたの」
ちくしょう、立ち聞きとは卑怯な!
あるいは、あの男が意図的に流布したんじゃあるまいな!?
なんか、昨日の男の態度はすごく悪かったし。
「い……言いたくないですが、好きって言いました」
「そんで、どうしたの? なんでマリーがあんなに悲しんでるの?」
レベッカの目は真剣だ。
「えっと、マリーさんが私の部屋に来て」
「うん」
レベッカが真剣な顔で頷く。
本気でマリーのことを心配しているようだ。
「いきなりキスされまして」
「うん………………え?」
レベッカが固まった。
レベッカの手がスローモーションのようにゆっくりと上がり、俺を指さした。
「マ、マリーと……あ、あんたがキスしたの?」
なんで俺は指さされているんだろう。
俺はぎこちなく頷いた。
「そ、そうです」
そう答えると、レベッカは手を下ろして、壁に立てかけてあるモップを握った。
どうしていいか分からずに、とりあえずモップを握ったみたいで、握っただけでとくになにもしていない。
「そ、それでどうしたの!? あ、そっか、あんたが押しのけたの?」
「えっと……三回ほどキスされたんですが」
「さ、三回も!?」
レベッカがモップをつかむ手に力を入れる。
「じゃ、じゃあ、なんでマリーがあんな悲しんでるのよ」
「わ、私が変なことを言ったから」
「何を言ったのよ!?」
レベッカ迫ってくる。
「あ……えっと……だ、騙しているということを」
いかん、本当に言っちゃった。
「なにを!?」
「な、なんでしょうねぇ」
耐えきれなくなって目をそらす
「ごまかすな! 何を騙してるのよ!?」
「いや、そのぉ……」
レベッカに怖い顔でにらまれて、だんだんと頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。
思考が全然まとまらない。
「だ、だから、私は男だと言うことを……」
「え、男ぉ!?」
レベッカが変な声を出して、それを聞いた俺の頭も正常に戻った。
慌てて自分の口を押さえた。
「い、いや……なんでもないです! すみません!」
俺はモップを持ってかけだした。




