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行き先が決まりました

 目を開けると、アルフォンスの顔が目に入った。

 よく分からずにそのままぽけーっとしていたが、頭がはっきりするにつれて状況が分かってきた。

 アルフォンスの膝に頭を預けたまま眠っていたらしい。


「ぬおっ!!」


 ガバッと身を起こすと、アルフォンスが寝起きの俺の頭をぽんぽんと撫でた。

 その引力に引かれてまたアルフォンスに張り付きそうになるが、そこをなんとか耐えた。

 頭をぽんぽんするとか反則……


「へ、変なところで寝ちゃって……」


 言いかけると、アルフォンスがやれやれという顔をした。 


「今、ちょうどジスラン殿が帰られたところだ。お前が俺に掴まったまま寝てしまったせいで、挨拶もろくに出来なかったぞ」


「も、申し訳ありません。無理張り引き剥がしてくれてよかったんですけど」


「しっかり掴んでたんだぞ。ジスラン殿がそのままにしておいてくれと気を遣ってくれたんだ」


 と、アルフォンスがちょっとふざけたように言った。

 そ、そんなにしっかり掴んでいたのか。


「な、なんか、いろいろすんません……」


「まぁいい。それでな、ジスラン殿からいい話があった」


 アルフォンスがちょっと得意げな顔をした。


「え、なんでしょう?」


 頭をはっきりさせるために、カートの上にあった水に手を付けて一口飲み込んだ。


「お前とマリーは家を探しているようだが……見つかってないみたいだな?」


「そう……みたいですね。結構苦労してるみたいです」


 そう答えると、アルフォンスは頷いた。


「だろうな。保証人も無しでお前たちくらいの年の娘に家を貸すところはそうそうないだろう。ジスラン殿がお前のことも心配して、普段使ってない別荘をお前たちに貸してくれるとのことだ」


「え? そうなんですか?」


 それはすごい。

 渡りに船だ。


「いいですね! ってことは、多分家賃はかからないですよね!」


「お前……しっかりしているな。まぁ、俺の方から多少のお礼はしないといけないが、お前が家賃を払う必要は無い」


「それは素晴らしい! さすが貴族! 太っ腹! ジスランさんって大貴族?」


 寝起きの変なテンションで叫ぶと、アルフォンスが頷いた。


「ああ、かなりの領地を持って居る」


「やっぱり大貴族なんですね。そういえば、ご主人様は他に別荘とかないんですか?」


 単純に興味で聞くと、アルフォンスがちょっと嫌な顔をした。


「領地の方には別荘というか……物置になっている離れぐらいはあるぞ。だが、都にそんないくつも建物を持ってるわけがないだろう。一体どれだけ金がかかると……」


「あ、すいませんでした。別に非難するつもりで言ったわけじゃ無いですって」


「ならいいが……」


 アルフォンスが納得してない顔で頷く。

 どうも、アルフォンスとしては格上の貴族と比較されるのは結構ストレスらしい。

 自分は「貴族はすごいなぁ」くらいで、特にアルフォンスがしょぼいとか思っているわけではない。

 でも、アルフォンスは俺のセリフを結構真に受けてしまっているようなので、あんまり他の貴族との比較は言わない方が良さそうだ。

 すました顔をしているくせに、意外と繊細だ。

 まぁ、男ってそういうものか。


「とにかく、別荘を貸してくれるというのはありがたいですね」


「あぁ。だいたい、お前とマリーが借りようとしていた家はどうせ普通の一般住宅だろう?」


「詳しくは聞いてないですが、マリーは安いところを探すって息巻いていましたから、多分小さい家だと思います」


「そうだろう。だが、マリーもお前も見た目がいいし若いから、そんなところに住んだら不用心すぎるぞ」


 アルフォンスがまたやれやれという顔をした。


「そんなに治安悪いんですか? 夜は危ないと聞きましたが……」


「というか、お前たちの容姿とその用心の無さがな」


 アルフォンスがあきれたように言う。


「ま、まぁ、そうですね」


 俺の容姿もかわいいが、マリーも文句なしの美人だ。

 この年頃の女二人だけで暮らすとか結構危ないのは間違いない。


「それに、お前は有名人なんだから、居場所が知れたらジスラン殿のような人がわんさか詰めかけるぞ。ジスラン殿の別荘は普段住んでいないらしいが、それなりの邸宅で管理している使用人もいるらしい。見ず知らずの人間が気楽に入ってこれる場所ではないから、そのほうが絶対にいい」


 アルフォンスが真面目な顔で言う。


「そ、そうですね。ジスランさんに甘えた方がよさそうですね」


 そんな話をしていると、マリーが書斎に入ってきた。

 マリーは俺を見ると、あきれたような顔でため息を吐き出した。


「ご主人様、ジスラン様を見送ってきました。それにしても、アリスはなんでご主人様に抱きついて寝ていたわけ?」


「い、いや、抱きついてないって。普通にそのまま眠くなって……」


「しっかり抱きついてた。なんでそういうことをするのよ……」


 マリーがジト目で俺を見る。


「ふ、不可抗力で……」


「……まぁ、いいか。いつものことか」


 マリーは勝手に納得した。

 反論したいが、反論できる気がしない。


「なんかジスランさんが家を貸してくれるという話らしいよ」


 そう言うと、マリーが頷いた。


「私も聞いてる。確かにその方がいいと思うから、私からもお礼を言っておいた」


「そ、そうなんだ」


「ダニエル様の家に近いみたいだし、場所も良さそう。ちょっと気は使うけど、家賃もかからないし安全だから、普通に家を借りるよりも良いと思う」


「そ、そうだね」


 マリーがジスランさんを送るついでにいろいろ話をしたようだ。

 こうして、本当に屋敷を出て行くことになったのだった。


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