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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第3章 元の世界に帰れる方法?
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もやもやした一日

 昨日の夜はお絵かきに挑戦し、大変に心にダメージを負った。


 まず、根本的に絵が下手。

 元から下手だったんだけど、この身体になってもそれが変わってない。


 でも、そんなことより、基本的な動作がうまくできない。

 丸や線を描く動作がまともにできない。

 文字は書けるのに、なぜか絵になると全然描けない。


「あれはひどい……」


 しばらく描けばうまくなるかと思ったけど、そんな簡単なものじゃ無かった。

 自分は3歳児程度の能力しか無いと諦めて、線や丸を描く練習をしないとだめそうだ。


「絵はもういいや……」


 早々に気持ちが折れている。


「あー……朝日がまぶしくていい天気~」


 窓枠を雑巾でのんびり拭きながら目を細める。


 青い空、強い光。

 とってもいい気分。


 なんかピクニックとか行きたくなる気分。

 嘘。

 

 本当はピクニックとかそんな情緒豊かなものより、普通に買い物に行きたい。

 こんな天気の中、ウィンドウショッピングしたら楽しいだろうなぁ。


「はぁ……」


 なんとなくため息を吐いてから、雑巾を洗う。


 強い光を浴びているときはいい気分なのだが、日陰にくると途端にモヤモヤし出す。

 といってもお通じが悪いとかそういう話では無く、なにかもやもやするのだ。


「なんか……今日はおかしいな……」


 さすがにずっと光を浴びていられないので、雑巾を置いてモップに持ち替える。

 廊下をいつものようになんとなくモップで掃除するが、やはり変な気分だ。


「うーん……」


 なんかおかしい。

 とにかくおかしい。


「どうも落ち着かない……」


 居ても立っても居られなくて、モップを放り出してゲストルームに駆け込んだ。


「風邪……?」


 自分でおでこに触ってみるが、熱のある感じはしない。

 朝の食事も普通にできたので、食欲が無いわけでは無い。

 とくにだるいわけでも無い。


 それなのに、なにか違和感がある。


 昨日は寝不足気味だったが、今日は普通によく寝られたので睡眠も十分なはずだ。

 それなのに、なんだかおかしな気分だ。


「気のせい……いや、違う。絶対になんかおかしい」


 とにかく落ち着かない。

 もやもやする。


「なんだ、これ……なんだ?」


 なにかの病気だろうか。

 

 モヤモヤした気分で、マリーに相談しようと思って厨房に顔を出すと、レベッカが一人でお皿を洗っていた。


「あれ、マリーは?」


「ん? アリスどうしたの? マリーは今日は半分お休みだって」


 レベッカがお皿を洗いながら答えた。


「半分お休み?」


 そんなの初めて聞いた。


「部屋で本を読んでいるってさ」


「へぇ……」


「なに、マリーに用事?」


「うん」


 軽く手を振って厨房から出る。


 レベッカに相談してもいいのかもしれないが、なんとなくマリーに相談したい気分だ。

 理由は分からないけど、マリーに相談したい。


「ん、んん?」


 自分でもよく分からないけど、とにかくマリーに相談した方がいいらしい。

 そういう気分がする。


 廊下をちょっと歩いて、マリーの部屋の扉をノックする。


「マリー、今いい?」


「うん」


 ちょっと間があってから返事があった。


 中に入ると、マリーがベッドに座って小説を読んでいた。


「本、借りてるよ」


 マリーが顔も上げずに言った。


 そういえば、本を借りるとかそんなことを言っていた。


「あ、うん、それはいいけど……」


 相談が……と言いたいところだが、マリーが真剣な顔で小説を読んでいる。

 こんなに真剣な顔を見るのは初めてかもしれない。


 なんとなくもっと優雅に本を読みそうなイメージがあったけど、実際はがっつり集中して読むタイプらしい。

 一分の隙も無い。


「急ぎの用事?」


 マリーがちょっとだけ視線をこちらに向けた。


「あ……べ、別に」


 思わずそう言ってしまった。


 なんとなく変な感じ……これを急ぎの用事とは言いにくい。

 でも、相談をしたいのは事実だ。


「急ぎじゃ無いけど、できればちょっと相談に乗って欲しいんだけど……」


「ちょっと待って。キリのいいところまで読むから」


「分かった」


 マリーの横に腰を下ろして、横目でマリーの様子をチラチラ見る。

 読んでいるのは、途中の展開がかなり面白い恋愛小説だ。

 最後の方でぐだぐだになってがっかりしたが、途中までは文句なく面白い。


 でも、章は細かく分かれているから、しばらく待てば章が終わるはずだ。


「…………」


 ところが、全然ページが進んでいかない。

 ものすごくゆっくりじっくり読んでいる。


 そういえば、コレットにも本を読むのが速いとか言われたし、みんな本を読む速度はそれほど早くないのかもしれない。


「うー……」


 感覚的に自分の3倍以上は時間をかけて読んでいる。


 本当に全然ページが進んでいかない。


 相談したいのに。

 まだか……まだかまだか……


 待っていると、身体がうずうずしてくる。

 ちょっと横にずれて、マリーに近づく。


 うずうずする。

 また横にずれて、マリーに近づく。


 遅い……遅い……

 また横にずれて、マリーに肩が触れる。


「あ……」


 なんかちょっと落ち着いた。

 そのまま少しだけ体重を預ける。


「アリス、邪魔」


 本に集中するマリーが感情のこもってない声で淡々と言った。


「あ、ご、ごめん」


 慌てて距離を取る。


 ……邪魔って。

 言いたいことは分かるけど、言い方って物があるんじゃない?


 マリーを見るが、マリーは本に集中していて全然こちらに注意を向けていない。


 多分マリーは悪気も無く普通に言ったんだろうが、なんだか心に堪えた。


「マリー……」


 小さくつぶやいたが、マリーは聞いてないらしく本に集中したままだ。


 気がつくと、ずっとマリーの一挙手一投足を見ていた。

 ページをめくる手つき、眉をひそめる様子、真剣な顔、呼吸で上下する胸、細かく揺れる足。


 なんでこんなにずっとマリーのことを見ているんだろう?


「ねぇ……」


 遠慮がちに声をかけたが、マリーはこちらに視線を向けない。

 大声を出せば気がつくだろうが、邪魔をして機嫌を損ねたくない。


 じっと我慢していると、扉が開いてレベッカが顔を出した。


「マリー、お昼の配膳!」


 レベッカはそれだけ言って、早歩きで戻っていく。


「……うん」


 マリーは名残惜しそうに本を閉じて脇に置くと、髪の毛を整えて立ち上がった。


「マ、マリー……」


 遠慮がちに声をかけると、マリーが一瞬だけこっちを見た。


「あ、ごめんね。後でいい?」


「うん……」


 昼食のちょっとした雑用が終わると、マリーはまた部屋に閉じこもった。

 無理だとあきらめて、とにかく夜を待つことにした。

 夜になれば、いつものようにマリーとキスとしたり会話をすることになる。

 そのときに相談しよう。


 マリーに触ってると安心する、とか言ったらすごく喜びそう。


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