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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第1章 バロメッシュ家
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これはなんのプレイ?

 コンコン


 扉を叩く音がして、マリーと貴族の男アルフォンスが入ってきた。


 やはり男の顔を見ると、心臓が跳ね上がる。

 この体の感受性は、異性に弱すぎだ。

 まぁ、男だったときのことを思うと馬鹿にできないが。


 そして、コレットとレベッカは部屋の隅で事の推移を見守っている。


「なんだっていうんだ?」


 男は怪訝な表情でマリーに腕を引っ張られている。

 見るからに、マリーの様子に面食らっている。


 おそらく、マリーのあの悪い顔を見たことがないのだろう。

 そしてマリーと付き合いが長くない俺でも分かることがある。


 マリーは今、調子に乗っている。

 悪い方向に。


「ご主人様、彼女に普通の下着を着せたんです」


「は、はぁ? な、なんだっていうんだ? 下着のことなど、俺はしらんぞ」


 男は、顔は平静を装っているようだが、声が焦っていることを示している。


 しかし、マリーはそんなことにかまわず、男の腕を引っ張る。


「まぁまぁ、ご主人様。とりあえず見てみてくださいよ」


「お、おい、一体どうしたんだ。それに、お前達まで……」


 男が部屋の隅にいるレベッカとコレットに目をやった。


「そんなことはどうでもいいんです。すっごい、かわいいんですから」


 マリーが捕食者の目で俺を見た。

 え、まじ怖い。


「お、おぉ、そうだな、似合っているな」


 そう、俺は今メイド服を着ている。

 下に先ほどの普通の下着を着た状態で。


 動くとやばいので、忍者のように息を潜めながら微動だにせず立ち尽くしている。


 男はマリーの剣幕に「メイド服を褒めればいいのかな?」と解釈したらしく、そんなセリフを言った。

 それはあきらかにとってつけたセリフだと思ったのだが、俺の感受性はそれに最大限答えた。

 顔が一瞬でほてった。


「い、いやいや、ぜ、全然似合ってないですけど……」


 ごまかすために否定を返した。


「そんなことはいいんですって。ほら、ちょっと体を動かしてみて、ね?」


 マリーが悪い顔で俺をそそのかす。


「え……」


 男の前であれを!?

 さっきは納得したけど、実際にやるとなると恥ずかしすぎる。


 男の前で醜態をさらすのは、ものすごく抵抗感があるんですけど。


「いいから、動こう?」


 マリーの顔が黒い笑みを浮かべる。

 ええ……


 まじですか。


「うぐっ……」


 体をゆっくりとねじる。


「ひょ……ひょおおぉぉ……」


 男の目があることを意識して、がんばって叫ばないように耐える。

 歯を食いしばる。


「な、なにをしてるんだ、お前達は?」


 男がうろたえる。

 見た目通り、かなり真面目な人物らしく、マリーに悪乗りはしていない。


「ちょっと、ダメダメ。もっと激しく動いて。それじゃ伝わらないわよ」


 マリーがすごく冷たい眼で俺を見る。


 まじ怖!


 マリーさん、ドSの素質ありすぎじゃないですか!?

 あんなに天使のように優しかったのに。


「う……うう……」


「早く!」


 な、なんでやねん。


 ええい、やけくそだ。

 たしかにこの下着は替えてもらわねばならない。

 そのためにはこれくらい!


「えいっ……ひょわっ……ひょるわぁ……ひっひっ……ひぃっ」


 体を一気にねじったところ、変な背中の刺激と羞恥心が組み合わさって、呼吸が一瞬おかしくなる。

 慌てて、ベッドに座り込んで呼吸を整える。


「はぁ……はぁ……う、うう……」


 は、はやくこの下着脱ぎたい。

 背中のゾワゾワを無くしたい。


「というわけなんです! 楽しいですよね!」


 マリーが満面の笑みを浮かべて、男に話しかけている。


「は、はぁ? な、なんだっていうんだ?」


 男が困った顔をする。


 男がだんだん気の毒になっている。

 完全にマリーのペースだ。


「あ、あの……私から言います。マリーに下着を持ってきてもらったんですが、生地がゴワゴワで背中にすれて……へ、変な声が出ちゃうんです」


「あー……」


 男が一瞬考えるような仕草をしてから、頷いた。


「肌が弱いのか?」


「そう……みたいです。体調が万全でないせいもあると思うのですが、とても耐えられた刺激じゃなくて」


「ほ、本当に敏感だな。なるほど、上質な生地でないといけないのか」


「だから、買ってもら……」


 と言いかけて言葉が小さくなった。

 まてまて。

 何の関わりもないのに拾ってもらって、看病してもらって、さらにここで住まわせてメイドとして雇ってくれと無理なお願いをしてばかりだ。

 その上、下着の生地があわないから、おそらく非常識な値段の高級下着を買え、だって?

 そんな非常識で厚かましいことはさすがに言えない。


「……買うお金を貸して頂けないでしょうか。働いてお返ししますので」


「なんだ、そういうことか。まぁ、その程度の金は貸してやろう。たかが下着だ」


 たぶん「たかが」っていう値段じゃないんだよなぁ。

 男はそういう衣類の値段感覚とかはないのだろう。

 俺だって、さっきのコレットの話がなければ全然見当もつかなかった。


「あ、ありがとうございます」


「用はそれだけか?」


「はい」


「じゃあ、金はガストンに言ってくれ。俺から話を通しておく。それから……」


 男はマリーを見た


「病み上がりの病人であまり遊ぶな」


 男に言われたマリーの顔から悪い笑みが消える。

 神妙な表情になって頭を下げた。


「申し訳ありません。ついふざけてしまいました」


 その男の横顔を見た俺の心は勝手にキュンキュン言い出した。


 邪悪ないたずらから自分を救ってくれた白馬の王子様……


 と、止まれ、俺の感受性!

 いちいち、そういう妄想膨らませるな!

 俺男だから! あっちも男だから!

 そのルート、普通にホモになるから止めて!


「まぁ、小うるさいことは言いたくないが、ほどほどにな」


 男が部屋を出て行った。


「び、びっくりした。マリー、悪乗りしすぎでしょ」


 隅にいたレベッカが声をかけてきた。

 横のコレットも頷く。


「ご、ごめんなさい。ついふざけちゃって……」


 マリーがしおらしく目を伏せる。

 さきほどまでの悪乗りの様子は全く無い。

 本当にスイッチが切れたようだ。


「マ、マリーさん、めちゃくちゃ怖かったんで……もう止めてもらえますか?」


「ご、ごめんなさい」


 マリーがあまりに申し訳なさそうにするので、これ以上責めるとこちらが悪者みたいになってしまう。

 言いたいことはあるが、飲み込んでしまおう。


「も、もういいですよ」


 俺はそう言って話を切った。

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