敏感肌は下着の素材にうるさい
「これも駄目?」
「うん、ごめん駄目」
「これは?」
「あ、これいいかも……この素材で私に合うサイズあるかな?」
俺の部屋は女の子が集まっていた。
マリー・レベッカ・コレットが俺の前で下着を並べている。
よく考えればうれしい状況なのだが、しゃれっ気も何もない実用的な「布」という感じであり、正直全く興奮しない。
というか、少女達が照れを一切見せないのでそもそもそういう気分にならない。
照れてくれないとこちらもリアクションの取りようがない。
そして、下着を並べて何をしているかというと、俺の皮膚にあう下着を探しているのだ。
俺は寝間着を着直して、それぞれの下着を触って感触を確かめていた。
まるで変態のようだが、今は女だから変態じゃない。
「それにしても……困ったわね。そんなに肌が敏感なんて」
マリーが眉をひそめる。
そう、俺の体、めちゃくちゃ敏感肌らしい。
おそらくこの体自体が過敏なのだと思うが、体がなじんでいないことでさらに敏感になっているのだろう。
ゴワゴワした下着をかぶった途端、背中をざらざらこすられる感覚に悲鳴を上げてしまった。
「コレットも随分と敏感だけど、輪にかけて酷いね、これは」
レベッカが俺の腕を指でそーっとなぞった。
体中に電撃が走る。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」
「う、うわっ、ちょっと引くわ。なにそれ」
「だ、だって……本当にゾワゾワくるんですよ」
「うそぉ」
レベッカがまた触ろうとするので慌てて腕を引っ込める。
「と、とりあえず、その下着の素材が一番いいです」
俺が指さしたのはコレットの下着だ。
俺より小柄だからサイズは合わないだろうが、滑らかな生地でざらざらしない。
「これですか。でも、すごく高いですよ」
コレットがそっけなく言った。
「え、でもメイドの給料で買ってるんだよね?」
俺が聞くと、コレットは首を振った。
「あ、知らないんだっけ。コレットはこう見えてお金持ちの家の長女なのよ。社会経験という意味でここで働いているけど、本当は私たちなんかと全然ちがう身分なの」
マリーが説明すると、コレットが首を振った。
「いえ、ただの成り上がりの商人です」
そういえば、そんな話をこの前コレットから聞いた気がする。
「ということは、これは家で買った物なの?」
俺が聞くと、コレットが頷いた。
「私も肌が弱いので、安い生地だと肌がチクチクするんです。だからかなり高級な下着でないと駄目なんです」
「あぁ、むかつくなぁ。私らなんかその安い生地しか着られないのに。こんちくしょー」
レベッカがふざけてコレットの頬を親指でぐりぐりする。
コレットは不満そうな顔をしながらも、よけずにおとなしくぐりぐりされている。
しかし、高い下着ねぇ……
一体いくらなんだ。
当然ながら俺にはこの世界の金など無い。
「え、えっと、コレット、悪いけどお金貸してくれるかな……?」
ダメ元で聞くと、コレットが顔をしかめた。
すごく嫌そうな顔だ。
「私だって今はここの給料と貯めてあったお小遣いぐらいしかありません」
「ご、ごめん、そうだよね」
「うーん、困ったわね。もう一回さっきの下着着てみたら?」
マリーが先ほど俺が着た下着を指さした。
いや、絶対に無理だ。
しかし、マリーの顔は本気だ。
そりゃそうだ。
この感覚は他人には分からないだろう。
実際に見せないと分かってもらえないだろう。
「う、うん……」
下着をつかんで手元に引き寄せる。
3人の少女がこちらをじっと見つめている。
「あの……着替えられないんですが?」
「女同士だし、そんなに気にしなくてもいいと思うけど」
といったのはマリーだ。
「そうだよ。そういうこと気にするから気になるんだよ。さっさと脱ぎなよ」
といったのはレベッカだ。
「私も気にしません」
これはコレット。
うぐ……ここでさらに強硬に追い払えば、こちらが分からず屋になってしまう。
「ぐぬぅ……」
寝間着をほどいて上半身をあらわにする。
空気が直に皮膚に触れて、それだけでゾワゾワした気分になる。
「そ、そんな見ないで……」
「綺麗な肌よねぇ……」
とつぶやいたのはマリー。
「胸は勝ったな」
と言ったのはレベッカ。
「……」
コレットは何も言わない。
視線が皮膚の上を辿っていくような妙な気分になるが、とにかく下着をつかんで覚悟を決めて頭からかぶった。
「ぬあっ……ふぅ……ひぃ……ぃぃぃぃ………」
毛羽だった生地が敏感な背中の皮膚をこする。
歯を食いしばっても変な声が出てしまった。
お腹は意外と大丈夫だ。
とにかく背中がやばい。
「え、嘘でしょ? そんなに?」
マリーが改めて驚いた顔をする。
「う、うん……む、無理」
「でも、動いたら慣れるかもよ?」
「え……待って、無理」
「着ているうちに柔らかくなるし」
といって、マリーが俺の腕を取って引っ張る。
ベッドに腰を下ろしていた俺は強制的に立たされた。
寝間着をほどいていたので、当然寝間着がずり下がり、下が丸裸になる。
「ぎゃーーーー!!」
慌てて、手で押さえる。
するとその動きで下着が勢いよく背中をひっかいた。
「ふあっ……」
意識が一瞬真っ白になる。
ちょ、刺激が脳みその許容レベルを超えてる!
絶対超えてる!
刺激やばい!
なんだこれ!
「あー、ごめんね」
マリーが寝間着をつかんでくれたので、それをつかんで下半身を隠す。
しかし、背中のゾワゾワは止まらない。
「どう? 意外と大丈夫だったりしない?」
と聞くのはマリーだ。
「大丈夫じゃないみたいです」
とコメントしたのはコレットだ。
俺は背中のゾワゾワに耐えるために歯を食いしばっていた。
きっと美少女がしてはいけない顔をしている。
「下は隠しててあげるから、ちょっと腰をひねって上半身動かしてみてくれない?」
マリーが笑いながら言う。
「え゛……無理無理! 今の時点でも本当に無理なんだからっ!」
「ちょっとだけ、お願い」
恩人のマリーに頼まれては断りにくい。
仕方ない。
少しだけ。
猫背になっている体を起こして、ラジオ体操の動きでゆっくりと上半身を回転させていく。
下着の生地がいままでとは違う風に背中をこする。
「ひゅ、ひゅおおおおおおぉぉ!?」
「うわ」
そうコメントしたのはコレットだ。
「あ、ほんとにやばそう」
これはレベッカ。
「もう一回回してみない?」
これはマリー。
「マ、マリーさん、私もう無理ですけど……」
「そんなこといわないで、もう一回だけ」
「う、うぅ……」
細心の注意を払って、本当にゆっくりと体を動かす。
あ、これならまだ耐えられる刺激かもしれない。
でも、ゾワゾワしないけど、なにか人に触られるような変な感覚がして……
待て、これ逆にやばいぞ!?
「あ……あぁ……あ……」
「わー……」
レベッカが半分あきれた顔で俺を見ている。
コレットは無表情だ。
マリーはちょっとニヤニヤした笑いを浮かべている。
え、ちょっとマリーさん!?
俺の天使、なんでそんな笑みを浮かべているの!?
「もう一回やってみて」
「い、いやいや、む、無理ですから! わかりますよね!?」
「えー、そんなー、もうちょっとだけ」
マリーの笑みがどんどん黒ずんでくる。
え、ちょ、ちょっとあなた……もしかしてS気質なんですか?
「マリー、そんくらいにしてやんなさいよ。あんた意外と怖いわね」
レベッカの言葉にマリーがはっとした。
「あ、ごめんなさい。ちょっとふざけちゃって」
いや、明らかにあかん方向に行ってたぞ。
もしかして本人もその性癖に気づいていないのかもしれない。
「と、とにかく無理なので……」
俺はその下着を刺激しないように脱いで、寝間着をもう一度着込んだ。
「おい、こりゃ無理だよ。ご主人様に言って下着買ってもらうお金を出してもらうしかないんじゃない?」
レベッカが助言してくれた。
今まで苦手な相手だと思ってたけど、訂正する。
君は大事な俺の味方だ。
「うーん、でも分かってもらえるかしら……」
マリーが悩んだ顔をして、そしてぱっと表情を明るくした。
「いい方法を思いついた。たぶん、この方法なら大丈夫だと思う」
「え、本当ですか!?」
俺はマリーに食いついた。
「うん。でも、あなたも協力してね」
「もちろん、なんでもします」
そう答えると、マリーは満面の笑みを浮かべた。
俺はぞくりと嫌な予感がした。