⑨キマズイクウキ
【前奏】
ラブラブなカップルと、恋人がいない僕の三人でカラオケに来て、カップルの二人が僕に歌ってほしいと言って、だいぶ前に入れた究極のラブソングが、今このボックスのなかに流れ始めた。
【AメロBメロ】
二人とも僕の歌声が大好きでいつも、これを歌ってよとか、色々とリクエストされるのだが、男の方は窓の辺りを見つめていて、女の方はドアの外辺りを見つめていて、全ての目線は全く違う方向を向いていた。
【サビ】
この曲は究極のラブソングと言っても、悲恋の中でも、悲恋の悲恋の悲恋のかなり下の悲恋を歌った曲で、ギクシャクの4.5文字しか、この部屋には存在してないと言ってもいいような感じになっていた。
【間奏】
少し長めの間奏に入り、次の歌い始めの準備とか、色々と準備した方がいいなかで僕は、二人がこの曲を手元の機械からカラオケの大元の機械へと、結婚式のケーキ入刀並みにラブラブして一緒に、タッチペンを握って送信していた光景を思い出してしまっていた。
【AメロBメロ】
さらにどんどん悲恋さが増していく歌詞のなかで、この空間には動きがほとんどなく、どうやら二人ともスマホで誰かと連絡を取りあっているらしくて、空気がどんどん薄くなっていった。
【サビ】
僕がサビを歌い始める少し前から、二人が段々と僕の方に身体を向けてきている気がしていて、そのあと僕の歌のせいか女の方が泣き始めて、その後に男の方が後を追うように泣き始めた。
【後奏】
そういえば、この曲を二人が入れるときに、初めての共同作業!と叫んでいて、そこから立て続けに、五回目の共同作業!までやっていて、五回連続でこの曲を入れてふざけていたことを思い出して、これから僕はあと4回この曲を歌うかもしれないのかという恐怖が襲ったが、たった今、二人が一緒にタッチペンを握って、またこの曲を何度も何度も入れ始めていたので身が震えた。