⑧バテルミュージック
【前奏】
ひとりカラオケに、もちろんたった一人で来たのだが、たった一人なので、忖度的なことを全くしなくてよくて、自由気ままに歌うことが出来るので、歌い始めるまでも、かなりウズウズしている。
【AメロBメロ】
いつもよりバックの音楽の音量を高めに設定して、爆音で気持ちよく声を発して熱唱しているけど、やっぱり一人は気楽で、何も気にせず歌えるから、かなり清々しい気分だ。
【サビ】
一番盛り上がるサビに差し掛かって、思いっきり声を出したら、バックの音楽が聞こえなくなってしまって、声を少し小さくしてはみたものの、音楽がまだ小さい感じがして、音楽の音量のツマミを少し右にひねった。
【間奏】
間奏という曲の真ん中あたりに差し掛かったら、カラオケの機械までバテてきたのか、音量を上げても全然音楽は大きくならず、中盤で疲れてきたマラソンランナーのように、音量は下がる一方だった。
【AメロBメロ】
私の体力は有り余ってるとは言えないが、まだまだ残っている方で、一曲目のまだまだ中盤でバテるなんてあるはずがないのに、私よりも体力がありそうな機械はバテてしまっていて、メロディーが耳に残らない程度しか、音を放ってくれなくなった。
【サビ】
音楽の無さを補おうと、エコーとマイクの設定数を高くしたら、高くしすぎて、もうかなり部屋に響いて、ありとあらゆる壁の面にバウンドして跳ね返ってしまい、その反響が虚しさに繋がっているかと聞かれたら、ハイと答える。
【後奏】
音楽の音量が小さかったわりには、気持ちの良さがそんなに軽減せずに、のびのびと歌うことが出来て満足していたのだが、歌う部分が終わり、後奏になったあとに、急に音楽が大きくなってきて、機械は私のことが嫌いなのかなと思った。