⑥イッセイトイレ
【前奏】
私がこれから歌い始めると分かった瞬間から、次々と仲間たちは部屋から出ていき始めて、段々と部屋の密度は減っていって、その代わりに不安はゆっくりと増加を始めた。
【AメロBメロ】
いくら下手だからといっても、部屋からぞろぞろと出ていく必要はないよなと、思いながら歌っていると、耳を塞ぎながら出ていく友達までいた。
【サビ】
サビ頭を歌う直前にはもう、七人いた友達は全て部屋の外に出終わっていて、見回しても人間らしきものは、ミュージックビデオの女優さんだけで、寂しくて震えている、みたいな歌詞が余計に胸に染みた。
【間奏】
曲が始まる前から、外に出る予定だったのか扉は開いていて、全員が部屋から出ることが終わってからもまだ扉は開いたままで、それに気がついて少し焦って、慌てて扉を閉めた。
【AメロBメロ】
今までの下手な歌が、外にタダ漏れになっていたことを想像しただけで恥ずかしくなり、声はかなり小さくなってしまい、身振り手振りまで小さくなって、さらに心も小さくなっていた。
【サビ】
サビと共に扉が開き、タオルやハンカチを濡れた手に擦り付けながら、ずらずらと友達が帰ってきて、そこへ、戻ってきてくれてありがとう、という歌詞が響き渡って、サビのうちに帰ってきてくれたことをとても嬉しく思った。
【後奏】
私の前に歌った友達の歌がヤバイほど上手すぎたという理由や、ドリンクバーのほぼ全ての飲み物に利尿効果のある薬が入れられていたという理由で、トイレに行ったのだと私は信じていて、私も今、無性に行きたくなってしまって、ポケットのハンカチを確認して外に飛び出していった。




