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269◇エアリアルパーティーVSエクスパーティー4/光り輝く




 一方、その頃。

 アーサーもまた動いていた。


 一筋の光が、敵陣へと駆け抜ける。

 精霊術ではない。疾走するアーサー自身の輝きだった。


 精霊憑きの場合、精霊術の行使はそのまま精霊の力を借りることに繋がる。

 アーサーにとっても出来ることなら温存したい力なのである。


 『難攻不落の魔王城』四天王【刈除騎士】フルカス殿にも劣らぬ、目にも留まらぬ速度。


「むっ……。ユアン!」


「はい!」


 ドワーフの血を継ぐ【錬金術師】リューイの呼びかけに、気鋭の【勇者】ユアンが応じる。


 彼は風刃を二つ、放ったようだ。

 だがアーサーへの牽制ではない。


 それは、リューイへと向かっていた。


「……まさか」


 アーサーの目が大きく開かれる。


「我々とて、一位の座にあぐらをかいているわけではない」


 リューイが呟く。

 彼は自分の背後に迫る風刃に、己の槌を当ててみせた。


 アーサーが斬り掛かるのと同時、振り返ったリューイがそれを受け止める。


 不可視の双剣(、、、、、、)で。


 彼の動きと魔力探知で、俺にはなんとかそれを把握することが出来た。


「――魔法錬金」


 アーサーの声に、リューイがにやりと笑う。


「疾風の双剣とでも名付けようかの」


 魔法式構築の段階から、複数人の意思が混ざる魔法を複合魔法と言う。

 魔法錬金は、既に完成した魔法に介入し、自分好みの武器防具へと錬成する技術を言う。


 存在として安定している魔力空間を再形成するのとは、難度が桁違い。


 冒険者になる【錬金術師】が少ないこともあって、過去の遣い手は大戦期まで遡らねば見つからない。

 今や失われた技術に等しいのだ。


 リューイはそれを、この時代に蘇らせたというのか。

 これなら、仲間さえいればいくらでも戦える。


 材料を探す必要はない。仲間の魔法を武器に変えられる。


 十年もの間、世界一位を守りながら。

 このパーティーは、いまだに上を目指し続けている。


 己の選んだ道を、駆け続けているのだ。


 ――それでこそ、超える価値がある。


「素晴らしい。ですが、剣技で私に敵うでしょうか」


「敵わんだろうな。それがどうした」


「――――」


 アーサーが横に飛んだ。

 彼のいた場所に、亀裂が走る。


「武器に再形成してなお、元の魔法効果を残しているとは……」


「言ったろう、疾風(、、)の双剣だと」


 ユアンの風刃は、武器になっても風の刃としての効果を残しているのだ。

 リューイの意思で風刃を放つことができる双剣だとしたら、近接における実力差を埋めるには充分。


 ただしそれは、相手が【騎士王】アーサーでなかったとしたら、だが。


「それでこそです、リューイ殿」


 アーサー相手に、双剣を装備しただけでは侮りもいいところ。

 【疾風の勇者】の風刃を搭載した武器となれば、充分な脅威となる。


 我が友は、それを越えて勝利を掴むのだ。

 二回目以降の風刃を、アーサーは避けなかった。


 全て弾くか受け流すかし、リューイに肉薄。


「さすがは、世に名高き騎士の王、か。しかし――」


 正面から飛び込もうとしていたアーサーの前に、地面から土の壁が生えてきた。


 槌で叩くという手順さえ省いての高速錬成。

 精密性など何かしら犠牲にしているのだろうが、それでも凄まじい技術だ。


「触れずして! ふっ、稀代の錬金術師の真髄、しかとこの目に!」


 横薙ぎの一閃で土壁を斬り裂くと、その向こうにリューイの姿はない。


 次の瞬間、アーサーを囲むように、蠢いた地面が円錐の群れとなって襲いかかる。

 その全てを、アーサーは斬り捨てた。


 測ったようなタイミングで、彼の立っていた地面が崩落する。

 体勢を崩した彼に、近づく影があった。


 リューイだ。

 どうやら地面の中に潜んでいたようだ。


 錬金術で土を再形成し、トラップを仕掛けたのだ。

 彼の構えから見て、不可視の双剣は不可視の槍へと再形成されているようだ。


 跳躍からの一突き。

 いかに【騎士王】とはいえ、空は飛べない。踏む大地がない空中では、動きが制限される。


 それでも、アーサーには幾つもの選択肢があっただろう。

 だがあいつは、奥の手を晒すことを選んだ。


 それは、途方もない研鑽の果てに錬金術を用いた戦闘法を修得した、リューイへの敬意からか。

 アーサーが剣を、鞘に収める。


 彼の胸を貫く筈だった不可視の一刺しは、その衣装に穴を空けることしかできない。


「なっ」


「見事でした」


 聖剣を鞘に収めている間、所有者は傷を負わない――『魔法の鞘』だ。

 オリジナルダンジョン攻略で彼が精霊から与えられた魔法具であり、これまで使用を控えていた隠し玉。


 ここで使った以上、次以降の戦いでは警戒されるだろう。

 それでも、アーサーはここで、リューイ相手に使うことを選んだ。


 次に瞬きを終える頃には、リューイの槍が絶たれ、その体が斜めに切り裂かれ、魔力粒子と散る。

 それらが終わってようやく、落下中であったアーサーは大地へと戻ったのだった。


「……モルドに感謝しなければならないな」


 その通りだった。

 今のリューイは、とても放置できる相手ではない。


 ユアンだけではく、四大精霊契約者であるエアリアル、最高峰の火属性使いミシェルの魔法まで武器に出来るのだとしたら。

 その魔法を使える武器を作れるのだとしたら、その脅威は計り知れない。


 エアリアルの準備が済むまでリューイが生存していたら、とんでもなく戦いづらくなっただろう。


 行動を予測できないモルドが、みなが予想した剣士対決を裏切ってマサムネを押さえてくれたからこそ、アーサーが自由になり、この結果に繋がった。


 剣士対決が実現した場合でもリューイを早期に落とす展開にはなったかもしれないが、モルドと今のリューイの相性を考えるに、少し時間が掛かったかもしれない。


 勝負の世界では、一瞬さえ勝敗を分ける要因になり得るのだ。


 ここでアーサーが前に出ることが出来たのは、モルドの功績と言える。


 もちろん、ミシェルの注意を引き受けたマーリンや、ユアンの加勢を食い止めたガラハの貢献もある。


 そう、ガラハもまた、重要な役割を果たしてくれたのだ。

 彼にしかできない、タンクの在り方で。




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◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

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◇『難攻不落の魔王城へようこそ』◇

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◇『復讐完遂者の人生二周目異世界譚』シリーズ◇

・書籍版①~④発売中(GCノベルズ)大判小説
・コミック版①~⑦発売中(ライドコミックス)
i793341/
― 新着の感想 ―
[良い点] リューイの魔法錬金は応用力が高い上に、自身の錬金で足場崩しなど相手に全力を出させない戦い方と組み合わさると非常に厄介ですね。 アーサーも奥の手を出さざるを得なかった。 とはいえ、奥の手は切…
[一言] ↓影野大神さん、のらさん ネタばれ気味になるのですが2話先で「怪我という概念の否定」による無敵化である可能性が示唆されているのでそうだと仮定するとマサムネの刀では無理ではないでしょうか… …
[良い点] 1位がちゃんと強くていい! やっぱ1位も2位も強くないと [気になる点] アーサーの魔法の鞘、ダンジョン産である以上人の攻撃程度簡単に止められるなら実質モンクになった方が強いのでは… と…
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