267◇エアリアルパーティーVSエクスパーティー2/天の底に
俺とエアリアルが採った選択は、奇しくも同じだった。
魔力器官をフル回転させ、生成した魔力を聖剣に流し込む。
聖剣の力で魔力を圧縮・純化させることで質を高め、続く魔法の効果を上げるのだ。
全ての第二段階参加者の目標は、二つある。
『目の前の一戦に勝つこと』と『最終戦で勝つこと』だ。
前者だけに力を注ぐべきという者もいるかもしれないが、ヘトヘトになった状態で、最強の魔王と最高の勇者に勝てるだろうか?
――有り得ない。
故に、考えねばならない。
いかに、有限の力を消費せずに勝ち抜くかを。
俺とエアリアルでいえば、精霊の魔力だ。
こんな判断、少し前までの俺ならば出来なかった。
仲間はもう充分やってくれているのだ。
自分がなんとかしなければと、自分を追い込んでしまったかもしれない。
けれど、今は言える。
「みんな、少しの間、任せるよ」
俺の仲間たちは強い。
そして、そんな仲間たちを勝たせるために、俺は戦う。
【嵐の勇者】と【漆黒の勇者】が聖剣を握った状態で動かず、双方の仲間だけが動き出した。
爆発音。
吹き荒ぶ風と、紅焔の光。
【先見の魔法使い】マーリンと【紅蓮の魔法使い】ミシェルの巨大な火炎球がフィールド中央で激突し、爆ぜたのだ。
並の魔法使いなら数分は魔力と魔法式を練る必要がある規模だ。
それを、二人は一瞬で放った。
爆風がフィールドを撫で、俺たちの服がバサバサと揺れる。
ギリ、とミシェルが歯を軋ませた。
魔法を使う時はテンションが上がる彼女にしては、珍しい仕草だった。
「どうしたんだいミシェル。いつもの、楽しそうな顔の方が君には似合うよ?」
「……マーリンちゃん、前より強くなってない?」
ミシェルの言葉に、マーリンはなんてことのないように答える。
「あぁそのことか。杖が強化されてね、これでも聖杖らしい。天才の私の杖が加護を帯びてしまった……こういうのを、鬼に金棒と言うのかな? なぁ、東国のことわざだろう? マサムネに合っているか聞いてくれないか?」
マーリンはいつもの調子だ。
ミシェルは応じず、絞り出すように声を漏らす。
「……火属性でさ、負けるわけにはいかないんだよね」
ミシェルの異名は突出した火属性から付けられたものだ。
それが開始直後の一発だけとはいえ、マーリンに相殺された。
そのことが、ミシェルの自負を傷つけたのか。
万能の天才マーリンは、残念ながら器用貧乏とは違う。
なんでもそつなくこなすが突出した点がないのではなく、全ての要素が突出しているのだ。
それは、一属性を極めんとする多くの魔法使いを絶望させるには、充分過ぎる才覚。
「もうフェニクスに負けているじゃないか。彼を除いた場合の最強なんてもの、私に奪われて何が悔しい」
マーリンは大切な仲間だが、言葉を選ばず言えば――性格が悪い。
気に入った人間ほど困らせたがる。
彼女が気に入った人間を煽る時、それは効果的に機能する。
相手のより大きな力を引き出すのだ。
ミシェルから、莫大な魔力が発せられる。
それは彼女の頭上高くで、先程よりも二回り大きな火炎球となった。
「それ、わたしは認めてないんだ~」
世界一位パーティーの者が、絶望に屈するわけもない。
たとえ万能の天才だろうと、四大精霊に愛された勇者だろうと。
道を譲りはしないという、意地。
「いいね、素晴らしい。それでこそ、燃えるというものだ」
マーリンから聖杖に流れ込んだ魔力が、魔法へと昇華される。
「――――」
ミシェルが目を見開いた。
彼女には分かるのだろう。
それが何か、理解できるのだろう。
故に言葉を失った。
「究極の精霊術を指して、深奥と言う。では、究極の魔法はなんと呼ぶ?」
巨大な、火の鳥だった。
「……天……底」
ミシェルが、うわごとのように呟く。
魔法は精霊術を劣化させたものだと言われている。
人間にも使えるレベルに落としたものなのだと。
人間が精霊術を使うには、特別な才能を持つ【勇者】に目覚めた上で精霊に気に入られるか、精霊憑きとなって武器に加護を施してもらうしかない。
じゃあそれ以外の人間は、決して精霊術の領域に届かないのか。
精霊に愛されるかどうか、その巡り合わせの有無で、自分の限界が決まってしまうのか。
かつて、そんな現実に抗い、限界を超えた者がいた。
精霊に選ばれなかった者は使えない筈の精霊術の縁に、手を掛けた者。
理を歪めるほどの執念、熱量、努力が実現させた、有り得ない可能性。
人の身のままでは辿り着けない筈の天界、その底に辿り着いたかのような、偉業。
それを指して、天底級魔法と言う。
現在、天底を扱えるとされる人間は二人いる。
一人目。
元世界ランク第一位【不屈の勇者】アルトリート。
彼が扱えるのは風属性の天底級。
本来であれば人類史上に語り継がれる偉業だが、現在の評価はそうなっていない。
理由は幾つかあるが、風属性だったことが大きい。
深奥を使える、四大属性『風』を司る勇者が、同時代にいたこと。
更には、エアリアルパーティーが、アルトリートパーティーを超え一位になったこと。
その年に、アルトリートパーティーが解散してしまったこと。
より強い光に世間の関心が集まったことで、彼の凄まじさは浸透しなかったのだ。
最高の勇者の驚嘆すべき技は、時代に恵まれず世間には評価されなかった。
だが、知る者は知っている。
それがどれだけ、凄いか知っている。
二人目。
元世界ランク第一位【大聖女】パナケア。
瀕死の重傷さえ治してしまうその技量は、白魔法の極地といえる。
不遇【役職】でありながら、世界一位のパーティーにおいて重要なメンバーであると世間に知らしめた、圧倒的才覚。
その時代の常識を覆した、真の天才。
その天才もまた、子を愛する気持ちから一線を退いた。
そして、ここからは非公式。
三人目。
世界ランク第二位【先見の魔法使い】マーリン。
彼女が成し遂げたのは、四大属性全ての天底級到達。
精霊との再会を望み、魔法の道を極めた彼女の到達点は、人類の限界を突破した。
扱える技の多さが強さというわけではない。それは当然。
だが、今この時代、魔法使いとして最も優秀なのは、マーリンだ。
最後に、四人目。
元世界ランク第四位【最良の黒魔導士】レメ。
彼の黒魔法は、もはや黒魔術と見分けがつかない。
二百人の盗賊全員に黒魔法を掛けるだけでなく、複数の効果を使い分け、適宜切り替えるなど人間業ではない。
なによりも恐ろしいのは、あれだけの力を持ちながら、本人は満足していないことだ。
まるで、もっと上があることを、身を以って知っているかのように。
この時代は、どこかおかしい。
俺を含めて四人の深奥到達者、そして四人の天底到達者。
そして、世界最強の魔王。
世界が平和になって以来、この時代が確実に、最も強き者たちが集う時代だ。
少し前までなら、弱気になっていたかもしれない。
こんな時代に生まれたなんて不運だ、とかなんとか。
だが、今はこう思える。
なんという幸運だろう。
強き仲間と共に、強き敵を打ち倒せば、俺たちが一番強いと証明できる!
マーリンが笑う。
「君のことは大好きだよミシェル。けれど今日、証明しよう。最も精霊に近い魔法使いは、私なのだと」
「……それでも、負けないっ! 君が、一番優秀なんだとしても――火属性だけは、譲らないから……!」
ミシェルの火炎球が、使い手により注ぎ込まれた魔力により更に膨らむ。
それはまるで太陽のようだった。
最高峰の魔法使いたちによって、世界が紅く照らされる。




