259◇レイスパーティーVSアスモデウスパーティー
歓声が聞こえる。
戦いを心待ちにしている人たちの声だ。
ステージへと続く通路を、僕らレイスパーティーは行く。
入場の時を待つ中、相手選手の紹介が耳朶を打つ。
『第一回戦にて自身と同じく魔王が率いるパーティーを撃破したのはこのパーティー!
「超級・極北のダンジョン」の支配者がリーダーを務める――アスモデウスパーティー!』
そう、一回戦で【万天眼の魔王】パイモンさんのパーティー相手に勝利を収め、僕らの対戦相手となったのはアスモデウスさんたちだった。
あの戦いで、世間のアスモデウスさんを見る目は変わったことだろう。
『世間では長らく「調整者」などと呼ばれていた彼女ですが、先の戦いで世界に証明しました! 我こそは魔王に相応しい強者である、とッ! 五大魔王城、北を支配するその人物とは! ――【六本角の魔王】アスモデウス選手ーーーーッ!!!』
紫の波打つ長髪をなびかせて、彼女はやってくる。
顔の上半分を仮面で隠し、肌だって晒していない。
それでもなお、凄艶。
彼女の仲間たちも続々と入場する。
『蜘蛛の亜人と魔人の血を継ぎ、かつては自身もダンジョンを率いていた実力者!その糸と雷電から逃れられる者はいない! 北の魔王城四天王【雷雲の支配者】バエル選手!』
下半身が蜘蛛で、上半身が魔人の、大人しそうな女性。
彼女は蜘蛛の糸を操る種族固有の魔法に加え、魔人の魔力を利用した雷魔法を得意とする。
一度捕らえられたが最後、抵抗する間もなく雷撃によって灼かれるのだ。
『鳥の亜人と魔人の血を継いだ彼女は、アスモデウス選手自ら勧誘したことで北の魔王城の魔物になりました。彼女に奪えぬものは無し! 同じく四天王【理の略奪者】シャックス選手!』
人型だが、下半身は鳥の特徴が反映されている。上半身は魔人の女性で、背中から一対の翼が生えていた。髪もそうだが、そのほとんどが白く、先端部分が黒に染まっている。
快活な雰囲気の女性だ。
彼女の固有魔法『掠奪』は、敵の五感や理解力、攻撃力といった概念的なものまで奪うことが出来る。
『難攻不落の魔王城』においては【時の悪魔】アガレスさんが固有魔法持ちだが、彼の『空間移動』のように、固有魔法は扱いが難しい分強力なものが多い。
『龍人のハーフである彼は、先代当主の時代より北の魔王城を支えているのだとか! 少年のような容貌からは想像も出来ぬ強さと貫禄! あらゆる水魔法は、彼の前では無力! フロアボス【水槽の悪魔】クロケル選手!』
レイスくんと同年代くらいに見える少年だ。
【竜の王】ヴォラクさん同様、龍人の特徴を残しながらもほとんど人と変わらない姿をしている。
枝分かれする角に、部分的な鱗、そして竜の尾。
だが説明があったように、彼は長らく北の魔王城を支えている。
その間、ずっと見た目が変わっていない。
そして、彼の固有魔法は『水の支配』なのだとか。
フェニクスパーティー時代はそれ自体が脅威となることはなかったが、今の僕はレイスパーティー。
そしてリーダーは水精霊の本体と契約している。
『最後はこの人! 魔王直属の配下である彼は、これまで幾度となく冒険者たちを屠ってきました! 剣の腕はもちろんのこと、その美しき瞳は彼に未来を教えます! 【時読み騎士】エリゴス選手!』
金髪の美丈夫だ。魔人の角を生やし、騎士を思わせる衣装に身を包んでいる。身軽さを優先してか、甲冑は無し。
未来視の魔眼を持っており、戦闘に使う。
アスモデウスパーティーは、いずれも強者揃い。
北の魔王城の中でも、固有魔法持ちを集めているようだ。
「じゃ、行こっか」
レイスくんが歩き出し、僕らはそれに続く。
『対するは、「難攻不落の魔王城」レイド戦で一躍有名人となったこの人のパーティーです!』
鼓膜を揺らす、大歓声。
『十歳にしてプロの冒険者たちと肩を並べて戦った姿は記憶に新しいでしょう!
水精霊本体と契約した彼は、レイド戦を経て空席だったパーティーメンバーを揃えてきました。全天祭典競技開始以降からその活躍は他の四大精霊契約者に勝るとも劣りません!
【湖の勇者】レイス選手――ッッ!!』
深い海を連想させる毛髪と瞳。甘い容姿とサービス精神旺盛なファンへの対応。
更には水精霊本体との契約に、豪快さも繊細さも併せ持った魔法の数々。
同業者や敵に対して放たれる、好戦的な言動。
人々の関心を集めないわけがない。
天性の冒険者。
『こちらも同じく十歳! レイス選手と共に育ったという彼女は、幼いながらに一線級の戦闘能力を誇ります! 少女と侮るなかれ! その拳はあらゆるものを打ち砕く! 【破壊者】フラン選手!』
色を抜いたような白の髪と、赤い瞳。造形物めいた美しさを持つ少女。
マントで覆われた小さな体と、少女の体につくには大きすぎる右腕。
『とにかく強い』と言われる【破壊者】に目覚めた彼女は、うちの大事なアタッカー。
『勇者パーティーとしては異色の構成でも知られるレイスパーティー、続くメンバーはサイクロプスのハーフです! 彼女は大きな体と盾で仲間を守り、棍棒で敵を薙ぎ払います! 【鉱夫】メラニア選手!』
生い茂る木々を連想させる緑のふわふわした毛髪で隠れているが、その奥には種族特有の一つ目がある。
気の弱いところはあるが、彼女は心優しい女性だ。
仲間を守り、仲間と勝つために力を尽くす彼女は、頼りになる仲間。
『同パーティーはサポート【役職】も揃えています! 彼はオリジナルダンジョンの探査にも同行し、仲間を大いに助けました! 優しげな微笑に鬼の怪力! 異端の【白魔導士】ヨス選手!』
ヨスくんは真っ白な髪をした、鬼の青年。
戦闘系の【役職】持ちが多い種族の中で、サポート【役職】に目覚めた彼は、挫けることなくその技を鍛えた。
今の彼は、戦える【白魔導士】だ。
オリジナルダンジョンで一緒に戦った分、僕とは息が合う。
『最後はこの人! 元世界ランク第四位パーティー所属の彼は、脱退後しばらく消息が掴めませんでした!
彼が再び表舞台に現れたのはとある都市で開催された種族問わないタッグトーナメント!
のちに魔王城レイドで出現する【銀砂の豪腕】ベリト氏と共に現れた彼は、魔王城四天王や第九十九位パーティーの冒険者など実力者達を打ち倒し見事優勝をつかみ取りました!
その後オリジナルダンジョン探査に参加した彼は、精霊の試練を突破したばかりか、精霊憑きとなり聖剣を手にします!
全天祭典競技予選では、前パーティー時代にその力が不明瞭とされていた黒魔法がいかに優れていたかをポイントで証明!
【黒魔導士】界の希望の星! 数々の強者が認める圧倒的実力! 【黒魔導士】レメ選手!』
長くないですか?
僕の紹介だけ、やけに詳細というか……。
作為的なものを感じる。
――フェローさん、かな。
師匠の息子で、魔王様の父。
彼が、師匠を想って業界を変えようとしているのは分かっている。
師匠は僕にとっては恩人だけれど、【魔王】としてのあの人は弱者に興味がない。
そんな師が、今回はフェローさんの企画に乗った。
そのことを、フェローさんはどう思っているのか。
戦うに値する強者が現れたからだとするなら、それは誰か。
僕と師匠の関係を知っているフェローさんは、それを僕だと思っているのか。
僕のやってきたことを世間に浸透させて、師匠の敵に相応しい者に仕立て上げようとしている?
その時が来た時、戦いが最高のエンターテインメントとして世間を盛り上げられるように?
考えすぎかもしれない。
彼の思惑がどうであれ、やることは変わらない。
仲間と、目の前の一戦を勝つ。
「また会えて嬉しいよ、レメ。レイスパーティーの諸君も」
アスモデウスさんが楽しげに微笑む。
「最強の魔王と戦う前に、そうじゃない魔王も倒しとかないとね」
レイスくんの言葉に、アスモデウスさんの配下四人が殺気立つ。
だが当の魔王本人は笑顔のまま。
「君たちがあの御方と戦うに相応しい者であるならば、結果もついてくるだろうね」
戦いが、始まる。




