254◇フェニクスパーティーVSエリーパーティー
アタシを表現する言葉はいくらでもある。
通りの良いものを上げるなら、世界ランク九十五位の冒険者、【絶世の勇者】、『新しい波』。
「エリー様」
呼び声に、先程まで閉じていた目を開く。
【白魔導士】のケントが、自分の胸に手を当てながら声を掛けてきたところだった。
栗色の毛をした、清涼な水のような印象の男だ。
「なにかしら」
「係の者がやってきまして、そろそろお時間とのことです」
「そう」
全天祭典競技第二段階。トーナメント赤組。その一回戦。
会場は『東の魔王城』内に設けられた魔力空間。
控室は何種類かあるようだが、人間五人のアタシ達に割り振られたそこは、何も特別なところはない平凡な個室だ。
係の者とやらが伝えてきたのは、入場の時間。
「じゃあ、行きましょうか」
「ハッ」
四人全員から、ハキハキした返事がある。
ケントが大きな団扇を、同じ【白魔導士】のジャンは丸めた赤のカーペットを持つ。
双子の【黒魔導士】ライナーとライアンは、綺羅びやかな椅子を控室の外まで運ぶ。
誰が何を持つかは、日によって変わる。
しばらくはそのまま通路を進む。
照明とは違う、一際大きな光の見えるところ。
その先が、戦いの場。
パーティー名が呼ばれ、アタシは椅子に腰掛ける。
双子がそれを持ち上げ、ジャンはカーペットを転がした。ケントは優雅に団扇を扇ぐ。
視覚的インパクトはもちろんのこと、主従がひと目で分かる移動方法。
ステージ中央についたら、飛ぶように下りる。
椅子も団扇も、風魔法で場外へ吹き飛ばす。
――世に、一体どれだけの冒険者がいるか。どれだけのパーティーがあるか。
世間に認められ、求められるのは、砂漠で砂を一握りした数よりも、きっと少ない。
では掴まれなかった者たちがみな無価値なのか。
そんなことはないのだ。
ただ、世界は広大で、時間は有限で、娯楽は豊富で、だから――全ての才能や努力を見てもらうのは難しい。
価値あるものさえ埋もれ、多くの天才や努力家が挫折の果てに消えていく業界。
そこで生き残るには、適応するしかない。
才能があるなら、どうアピールするのか。
能力があるなら、どう活かすのか。
自分と仲間を、一握りの中に含めるために何が出来るのか。
辿り着いた答えが、これだ。
だが、これもまだ道半ば。
まだまだ行ける。行くのだ。アタシ達は。
『世界ランク第九十五位【絶世の勇者】エリーパーティーの登場です!
風の分霊と契約したリーダーエリー選手は、芸術的なまでに繊細な魔力操作によって実に多彩な精霊術を使い分ける実力者!
「難攻不落の魔王城」レイド戦では、第十層に出現し業界最高峰の冒険者たちを大いに苦しめました! そんな彼女を支えるのは――』
下僕たちの紹介も続く。
ダンジョンで勝ち続け、レイドで強者と戦い、全天祭典競技の第二段階まで進む。
そこまでの結果を積み上げてようやく、【白魔導士】【黒魔導士】がアタシを支えているのだと、実況者は実感を込めて紹介するのだ。
パーティーを組む時も、デビュー後も、周囲はこの構成に理解を示さなかった。
嘲笑い、否定した。
結果を示すごとにそれらは小さく、少なくなっていったが、消えはしない。
自分の大切なものについて、自分だけが分かっていればいい、という考え方もあるだろう。
そういった心の強さも、ある。否定はしまい。
だが、アタシはそうじゃない。
分からせてやるのだ。
沸かせてやるのだ。
心躍る冒険を見た時の昂りだけは、偽ることが出来ない。
アタシ達を馬鹿にしていた連中が、アタシ達の活躍を見て思わず喝采を上げる。
そうなったら、アタシ達の勝ちだ。
嫌ってなさい、馬鹿にしてなさい。
楽しませて――下僕にしてあげる。
観客席の騒がしさが、突如数倍にも増す。
彼らが入ってきたからだ。
今この時、アタシ達よりも世間に認められている冒険者たち。
砂漠の中にあって、自分たちは砂粒ではなく宝石なのだと主張し、それを認められる者たち。
『現れましたッ……! 世界ランク第四位!! 【炎の勇者】フェニクスパーティィィィッ!』
歓声が爆発する。
『リーダーであるフェニクス選手は、火精霊本体との実に百三十年ぶりの契約者!
結成から七年と比較的若いパーティーながら、「北の魔王城」を攻略!
その後挑んだ「難攻不落の魔王城」では第四層から第十層までを解明し、のちの攻略者たちを大きく助けました!
老若男女問わず絶大な人気を集めるのは、圧倒的なまでの火力ゆえか! またはその凛々しい容貌ゆえでしょうか! いえ、その両方でしょうか!』
魅せる娯楽となった時点で、冒険者の評価基準に容姿が加わった。
今では、見た目も立派な武器。
そういった意味では、フェニクスの容姿は四大精霊との契約に劣らぬ強みと言える。
『そんな彼と共に戦うのは【戦士】アルバ選手ですッ!
リーダーとは育成機関からの付き合いということもあり、息の合ったコンビネーションを見せます!
鍛え抜かれた肉体からは想像もつかぬ俊敏性を誇り、伸縮自在の魔法剣の軌道は予測不能!
刃の形をした嵐となって敵を切り刻む姿に沸いた方々も多いのではないでしょうか!』
【戦士】アルバ。確かに、肉体に恵まれている。加えて、戦闘勘が鋭い。
普通なら即退場といった不意打ちを受けても、そのセンスだけでなんとか回避するような、そんな場面を何度も見てきた。
だがそれゆえに、センスに頼るような戦い方が目立つ冒険者でもあった。
若さというか、甘さというか。どちらでも構わないが、その欠点がある時を境に消えた。
『難攻不落の魔王城』攻略失敗後、だ。
『続いてパーティーに加わったのは、当時冒険者としては非常に珍しい種族であったエルフ――【狩人】リリー選手です!
リーダーが注目を集めていたからこそ、エルフの加入には多くの賛否が集まりました。
しかし! リリー選手は実力で否定派を黙らせ、その弓の腕で世界を魅了したのです!
目にも留まらぬ「神速」はまさに神業!
パーティーの世界ランク急上昇に伴い、エルフの冒険者は年々増加!
人間以外の種族でも冒険者になり、活躍していいのだと世に示した、業界の功労者ともいえるでしょう!』
【狩人】リリー。矢の威力はそこそこだが、狙いが鋭い。それでいて速さ重視に変えることも出来、『神速』では彼女が矢を放っている姿を拝めないほど。
少し前までは、まるで誰かに弓の腕を見せつけるような戦い方に見えた。
それは魔王城攻略失敗後に修正されていき、レイド戦後に完全に解決した。
『速さをウリにするパーティーにおいて、仲間がそんな戦いに集中出来るのは彼がいるから! ――【聖騎士】ラーク選手!
攻守において隙がなく、敵の攻撃を冷静に防いでは、ここぞというタイミングで攻勢に出ます。
アルバ選手やリリー選手が自由に動けるのは、彼の守りがあるからこそでしょう!
クールな仕事と甘いマスクから、女性人気が一際高いことでも有名です!』
【聖騎士】ラーク。高身長で、かつ腕も長い。大盾で攻撃を受け流されたあとに、彼の振り下ろしが降ってくるのだ。余程硬い種族でなければ、叩き切られてしまうだろう。
動きが的確すぎるのが難点だったが、最近は敢えて隙を見せて攻撃を誘ったり、フェイントを織り交ぜて敵の虚を突くようなやり方も増えた。
やはり、魔王城のあとの話だ。
『そして最後はこの人! 育成機関卒業後即座にパーティーに迎え入れられた新進気鋭の冒険者! ――【氷の勇者】ベーラ選手です!
高位の水の分霊と契約した彼女は、三年の修行期間で「氷結」の精霊術を高め、世界第四位のパーティーに加入!
直後から時に繊細で美しい、時に大胆でド派手な精霊術を披露!
瞬く間に世間に受け入れられ、多くのファンを獲得! 既にフェニクスパーティーの重要な戦力として活躍しています!』
【氷の勇者】ベーラ。近中遠で言うなら、中遠距離あたりが最も輝ける魔法使い寄りの冒険者。
逆に言えば近接戦闘能力に穴がある。
こちらは魔王城での経験が理由だと断定は出来ないが、やはり改善しようという意思が見える。
経験から学べないものは論外。
とはいえ、あまりに劇的だ。スポーツのチームで言えば、監督と共に方針が変わったような。
意識を変えざるを得ないような、誰かの言葉があったように思うのだ。
引退した冒険者が、現役冒険者を指導することは、ある。
元世界一位【不屈の勇者】アルトリートなどは、彼の指導を求めて訪ねてくる冒険者が絶えないなんて話があるくらいだ。
フェニクスパーティーにそういった存在がいる、という話は聞かない。
ちり、と脳裏によぎるのは、黒い衣を纏う、魔王城第十層のフロアボス。
レイドで勇者パーティーを撃退するために、別の勇者パーティーと同盟を結ぶような、肝の据わった【黒魔導士】。
「今日も、私は最高の勇者に近づくべく剣を振るおう。みんな、力を貸してくれるかい」
フェニクスが言うと、メンバーはそれぞれ応じた。
観客席には、早くも立ち上がって騒ぎ出す者たちもいる。
ゾクゾクした。
フェニクスパーティーが築き上げてきた実績が、この期待と応援を生んでいるのだ。素晴らしいじゃないか。
叫ぶ。
「さぁ、アタシの下僕たち? 今日もアタシたちの戦いが始まるわ! 観客は超満員! ほとんどの人間が、向こうの勝ちを確信していることでしょう! まったく――楽しくてならないわね?」
「ハッ!」
「今日も訊いてあげる。最も美しいのは?」「エリー様です!」「最も強いのは?」「エリー様です!」「では、この戦いに勝利するのは?」「エリー様です!」
「馬鹿ね、アタシたちよ」
「ハッ!」
「良い子たちね。さぁ、証明し続けましょう。勇者の戦いが最も美しい、最も高まる、最も楽しくて、最も激しい。さぁ、証明し続けましょう。白も黒も、人を最高に際立たせる色なのだと。足でまとい? まったく! センスのない輩は困るわね?」
「ハッ!」
アタシたちの声に、フェニクスパーティーの面々が複雑な表情を浮かべる。
【黒魔導士】を追い出した過去でも思い出したのか。
「我々はみな、失ったのが最良の【黒魔導士】であると理解しています」
フェニクスが言う。少なくともその言葉に、取り繕うような軽さはない。
「へぇ?」
「それでも、勝つのは私達だ」
そう思って戦いに臨まない者など、ここまで上がってきた者の中にはいまい。
「えぇ、えぇ、そうよね。勝負の世界だもの、負ける未来は常にある。けれど勝つ。何故なら――」
「勇者は最後に必ず勝つのだから」
「百点ね。でもどうしましょう? 敵味方どちらにも、勇者がいるわ」
「困るほどのこととは思えませんが?」
彼は既に知っている。
勇者同士の激突で、敗者に回る勇者もいるのだと。
それでもなお、勝つべく力を尽くすのだ。
最後の最後に、勇者として終われるように。
「あは。いいわね、すごくいい。素敵よ、勇者フェニクス」
試合が始まる。




