252◇怪物たちの抽選会(後)
『フルカスパーティーは~~~~はいっ、「92」でーす!』
ペーセルさんの元気な声。
黒騎士姿のフルカスさんはこくりと頷くと、そのまま下りていく。
『ふーちゃんは今日もクール可愛いなぁ。あ、「92」だと赤組だね』
四つのトーナメント表は、それぞれ赤青白黒と呼称される。
割り振られた番号もランダムで、『1』から『25』がそのまま赤組、とはならない。
今、スクリーンで赤組が拡大され、『92』の表示が『フルカスパーティー』に変わった。
既に十数パーティーの番号が判明している。
視聴者が特に気にしているのは、やはり高位の冒険者や有名な魔物がどうなるか、だろう。
五つの魔王城、五人の魔王。彼ら彼女らはいかにバラけようとも、必ず二人が同じ組に割り振られることになる。
第一段階を突破した十二人の騎士団長率いるパーティーも、騎士団同士で戦う機会が巡ってくるかもしれない。
現代に三人集まった四大精霊契約者も注目の的だろう。
『アストレアパーティーは、えぇとね――「19」だね』
予選でその強さを見せつけた【正義の天秤】アストレアパーティーは、白組。
その横、対戦相手の枠は既に埋まっていた。
『わぁ、初めて一回戦の相手が決まりましたねー! 予選で【湖の勇者】レイスパーティーと【炎の勇者】フェニクスパーティーに挟まれながら制限時間が尽きるまで戦い続けた驚異の騎士団長! アストレア選手率いるパーティー! その初戦の相手は~? なんとなんと、みんな大好き「ゆきぼうや」シリーズの著者でもあるこの御方っ! 世界ランク第六位【雪白の勇者】スノー選手率いるパーティーとなりましたー!』
ペーセルさんが、アストレアさんに近づきマイクを向けた。
『意気込みとかあったりしますかー? 聞けたらとても嬉しいなぁーなんて、思うんですけど』
アストレアさんは今日もキリッとした顔つき。彼女の抑揚のない声が、会場に広がる。
『騎士団に敗北は許されない。正義の剣が折れてしまえば、民を守ることなど出来ないからだ』
『なるほど! 誰にも負ける気はない、ということですねー!』
『その金色の髪、すごく綺麗だね』
『シトリーちゃん! わたしも思ってたことを! でも今関係ないから我慢してたことを!』
『……よく分からないが、感謝する。もう失礼してもいいだろうか』
アストレアさんがステージから去る。
次々と、強者たちの番号が明らかになり、彼ら彼女らの組が確定されていく。
内、会場を震わせた幾つかのものを挙げるならば――。
◇
『今、エリーちゃんが登録証をたっちしましたー! 気になる数字は~ででん! 「38」ですー。赤組だね。んん? もしかしてこれって――』
エリーパーティーの対戦相手は、既に埋まっていた。
会場がざわつく。
僕らと共にレイドで冒険者を迎え撃った世界ランク第九十五位【絶世の勇者】エリーパーティー、第一回戦の相手は。
世界ランク第四位【炎の勇者】率いる――。
『……フェニクスパーティー、だね』
シトリーさんの声がそれを告げた時、エリーさんが獰猛に笑ったのを、僕は見逃さなかった。
ペーセルさんにマイクを向けられたエリーさんは、銀の髪を自分で払い、後ろに流してから言う。
『勝つわ』
短く、力強い言葉。
この空間には他にも運営の人たちがおり、すかさずフェニクスにマイクとカメラを向ける。
『以前も宣言した通り――』
フェニクスも、燃える眼でエリーさんを見返す。
『私達の戦いに、二度と敗北はない』
レイドでは共にレメゲトンの仲間として戦った二人の勇者。
彼らが公の場で激突する機会が、ここに確定した。
◇
世間が受けた衝撃で言えば、あるいはこちらの方が上という組み合わせがあった。
『さてさてみなさん! これから最強の冒険者がくじを引きますよー! 世界ランク第一位と同じ組になる不運? あるいは幸運? それを掴むのは一体どなたたちなのかー?』
世界ランク第一位【嵐の勇者】エアリアルさんが、登録証を装置に触れさせる。
フェニクスパーティーを抜けた僕を探し、自分のパーティーに誘ってくれた【勇者】。
タッグトーナメントでは、世間からの僕の評価を知りながら、解説として高く評価してくれた。
レイドでは強大な敵として魔王城深部まで侵攻し、互いの限界値を更新するような戦いを経験させてくれた。
人類最強は誰かと問われれば、大抵の者は彼の名を挙げることだろう。
『番号は~なんと奇しくもこの数字! 「1」です! 白組ですねー。――あ』
ペーセルさんが素で固まったのが分かった。
『……そうか。こうなるか、これは実に――楽しみだ』
エアリアルさんの声を、マイクが微かに拾う。
『対戦相手は世界ランク第二位――【漆黒の勇者】エクスパーティー、だね』
エクスさんとは、オリジナルダンジョンで共に戦った。
彼はとても強くて心優しい人だが、それ故にある悩みを抱えていた。
仲間に恵まれたと強く感じているからこそ、長く一位に届かないことに苦悩していた。
ダークの試練では弱っていた心を突かれ、一度は理想の世界に囚われてしまったほど。
しかし、もう違う。
今のあの人は――。
『どうやら、今日の俺は随分とツイているらしい』
彼の顔に、もはや翳はない。
『それはお互い様だね、エクス』
一位と二位の視線が交わり、互いに笑みを浮かべる。
『俺たちの方が、強い。それを証明しよう』
今のエクスさんには、絶対に一位に至るという強い心が戻っている。
『受けて立つとも』
一位は一位で、更なる高みへの研鑽を欠かさない。
早くも一戦目で、最強の冒険者パーティーを決める対戦カードが成立してしまった。
◇
注目を集めるのは冒険者だけではない。
『元より強者の集いとは言え、こうなると運命を感じてしまうね』
【六本角の魔王】アスモデウスさんが、妖しげな声で言う。
一回戦の相手を知った彼女が、ステージ上で漏らした言葉だ。
『そうは思わないかい? なぁ――パイモン』
彼女の視線の先にいるのは――長身の美しい、男装の麗人。
鋭い眼光と隙のない佇まいから、近寄りがたさを感じる。
そこまで考えて、僕は頭を振る。
何を考えている。女性ではない。知っていた筈なのに、彼を見たその瞬間にどうしてもそう浮かんでしまった。
彼。そう、男なのだ。
『南の魔王城』またの名を『超級・冠絶のダンジョン』の支配者。
【万天眼の魔王】パイモン。
第一段階で世界ランク第十一位【灰燼の勇者】ガロパーティーを倒したのも、彼のパーティーだ。
『気色悪いこと抜かすな。そのようなことで一々運命など感じてたらキリがない』
『自分の胸が高鳴ったら、何度目だろうとそれは運命なのさ』
『そうか。そのようなものがあるのなら、お前は一回戦で消える運命だよ』
『おや、私と君では感じたものが異なるようだね』
『そのようだ』
東西南北の魔王城、そのトップ同士が率いるパーティーもまた、初戦で激突することになった。
◇
「じゃ、行ってくるよ」
いよいよレイスパーティーの順番となった。
名前を呼ばれたレイスくんは普段と変わらぬ様子で、ステージに向かう。
トーナメントは百組を四つに分けたもの。
二十五組ずつということで、いわゆるシード扱いの枠が多くなっている。
レイスくんの引いた番号も、そんな枠の一つを埋めるものだった。
僕らが戦うのは、一回戦で勝ち抜いたどちらかのパーティーになる。
レイスくんは――アスモデウスさんに微笑みかけた。
『これも運命?』
アスモデウスさんは一瞬僕を見て、それからレイスくんの視線に応えるように微笑んだ。
『あぁ、ドキドキするね少年』
南の魔王か北の魔王か。
どちらかのパーティーが、僕らの初戦の相手になる。
◇
そして、全ての組み合わせが決まった。
僕らの組には【六本角の魔王】アスモデウスパーティー、【万天眼の魔王】パイモンパーティーを始めとした多くのパーティーが集まった。
どの組も、激戦必至。
「ねぇ、レメさん。フェニクスさんと戦えなくて残念?」
レイスくんがそんなことを言う。
フェニクスパーティーは赤組、僕らは黒組だ。
トーナメントで当たることはないし、共にトップに立っても最終段階では共闘する仲間になる。
つまり、この全天祭典競技であいつと敵として戦うことはないのだ。
「そういう気持ちも少しはあるよ」
「少しなんだ」
「うん。そこまで気にするほどのことじゃあないから」
「へぇ?」
レイスくんは一瞬意外そうな声を出したが、すぐに考え込むような顔になり、やがて頷いた。
「そっか。そうだね、今回戦えないなんて、考えてみれば些細なことだ」
彼も分かったようだ。
確かにこの大会は、僕やレイスくんにとって特別なものだ。
レイスくんはお父さんと、僕は師匠と、戦えるかもしれない機会なのだから。
けれど、僕とフェニクスは、何もこれきりではない。
最高の勇者を目指す限り、この先何度でも矛を交える機会は訪れるだろう。
今日じゃなくても、いつかまた道が交わる。
ならば焦る必要も、残念がる理由もない。
ふとあいつの方を見ると、あっちもこっちを見ていた。
何故か微笑むので、僕は顔を顰める。
するとフェニクスは口許を押さえ、噴き出すのを堪えるように笑う。
僕はやつから視線を外した。
「戻ろうか。出来れば同じ組になったパーティーへの対策を考えたいんだけど……」
「それはいいけどさ、ブレイン。なんか楽しそうじゃない?」
「え?」
「緩んでるよ、口許」
「……そんなことないよ」
「へぇ?」
リーダーからの疑うような視線を受けながら、僕らは歩き出す。
魔王だろうと、騎士団長だろうと、勇者だろうと、他のいかなる強者だろうと、関係ない。
全部勝つ。
隻角の師を思う。僕に己の角を分け与えた、最強の魔王のことを考える。
――伝えたいことがあるんだ。
そしてそれは、戦いの場でしか叶わないものだった。
ならば、そこまで行くだけだ。




