158◇第八層・武と『決闘』の領域
第八層戦、当日。
僕はリンクルームにいた。
中でも巨大サイズの繭――魔力体に精神を移す装置――が設置されているタイプの部屋だ。
そこに、雪のような白い髪の少女がいた。顔に感情の色は感じられず、瞳は銀色。
一瞬目をそらせば消えていなくなってしまうような、どこか幻想的な気配を漂わせた人物だ。
「参謀」
僕に気づいた彼女が、こちらを見る。
【刈除騎士】フルカス。第八層のフロアボスにして、魔王城四天王の一人。
戦闘時は巨大な黒の鎧に身を包む彼女だが、その中身は小柄な女性なのだ。
「自分に何か用?」
抑揚のない、平坦な声。
関心がないのではない。これが彼女の普通。
「いえ、師匠の見送りをしようかと。弟子として」
すると、彼女は少しだけ普段より瞼を上げた。
それから、頷く。なんとなく、機嫌がよさそうに。
「ご苦労、弟子よ」
彼女には『初級・始まりのダンジョン』再興で助けられただけでなく、剣の稽古もつけてもらった。
戻ってきてからも稽古は続いているし、まだ期間こそ短いが、僕にとってはもう一人の師匠だ。
魔法の師と、剣の師。僕はどちらにも恵まれた。
「ご武運を」
「ん」
小さく頷き、フルカスさんは繭を開ける。
中に入る前に、振り返った。
「そういえば、カーミラに聞いた」
「彼女に? なんでしょう」
「活躍したから、褒美をとらせたとか」
お出かけの約束のことだろう。
第三層で四人もの脱落者を出したミラさんがご褒美をというので、悩み抜いた果てにこちらから誘ったのだ。
フルカスさんに話していたとは。
なんだか照れくさいが、頷く。
「はい、レイド戦が終わってから行くことになりました」
「そう」
「え、えぇ」
じぃ、とフルカスさんが僕を見上げる。
「えぇと……その件が、何か?」
じぃぃぃぃい、という感じに続く。
「フルカスさん?」
やがて、彼女はぼそりと呟いた。
「自分も、フロアボス」
「……? はい、頼りにしています」
「褒美は?」
やっぱり、そういうことか。
一瞬ドキッとするも、相手は師匠。
ミラさんと同じものを、という話ではない筈。
弟子に褒美を求める師匠というのも変な感じだが、よく考えるまでもなく僕は魔王軍参謀。
つまり上司。活躍した部下を労うとなれば、おかしな話でもないだろう。
「よく行く店があるのですが、幾らでもご馳走するというのはどうでしょう」
フルカスさんは大きく頷いた。
「よく出来た弟子。かつ上司」
世話になっているのだ、食事くらいいつでもご馳走する……とは言えない。
何故ならフルカスさんは、その小さい身体からは想像もつかないほどに大食漢なのだ。
職員は無料で利用出来る魔王城の食堂で、ただ一人一食分の限界量を設けられているくらい。
そうでもしないと食い尽くされてしまうのだという。
気軽に奢るなんて言うと、その日の内に財布が空になるだろう。
ただ、士気が少しでも上がるというのなら惜しくはない。
「レメ」
彼女が、僕の名を呼んだ。
改めてそう呼ぶことには、意味がある。
たとえば、参謀と四天王ではなく、弟子と師としての言葉が続く、といったような。
「はい」
「よく、見ておくように」
そう言って彼女は繭の中に入っていく。
すぐに反対側の繭が開き、中から鎧姿のフルカスさんが出てきた。
彼女は僕を見ることなく、記録石に触れて第八層へ転移する。
消えた彼女の背中があった空間に向かって、僕は呟く。
「はい、師匠。見るのも稽古の内、ですね」
身体を動かすばかりが訓練ではない。観察も非常に重要。
僕は映像室へと急いだ。
第八層・武と『決闘』の領域。
元々の第八層は、入ってすぐに扉が二つある。
片方に三人、片方に二人という形で分かれなければならない。
それぞれの扉の先には一体の【龍人】が控え、各組一人だけが対戦相手となる。
勝利すれば先へ進める。どちらも五人の【龍人】を倒すと、フロアボスエリアに到着。
今回、扉の数は四つだった。
四、三、二、二という形に分かれろとの指示。
これはそのまま、各パーティーの残り人数と同じ。
組み合わせをいじるのは自由だが、やはり同パーティーで固まった方が連携は取りやすいだろう。
実際、パーティーごとに分かれた。
エアリアルパーティー。【勇者】エアリアルさん、【魔法使い】ミシェルさん、【錬金術師】リューイさん、【勇者】ユアンくん。
ヘルヴォールパーティー。【勇者】ヘルさん、【召喚士】マルグレットさん。
スカハパーティー。【勇者】スカハさん。【戦士】ハミルさん、【狩人】スーリさん。
レイス&フラン。【勇者】レイスくん。【破壊者】フランさん。
【龍人】は強靭な肉体と堅い鱗を持つ。
太古の昔、屠龍の武技に感心した竜種が、自らもそれを習得せんと人の形をとったのが始まり……という話がある。
息吹を使える者もいるが、基本的に彼らは武人気質の者が多い。
正々堂々、一対一でを好むのだ。
なので、【龍人】は格闘技の選手に多い。
ダンジョンだと多対多になりがちなので、彼らの気質に合わないのだ。
魔王城では、一対一の場を用意することでそれを解決。
一対一にこだわらず、強者と戦えればいいという一部の者はフロアボス戦でフルカスさんと共に戦う。
第十層戦で手伝ってくれたのは、この人達だ。
エアリアルさんは、悠然と。
ヘルさんは、嬉々として。
スカハさんは落ち着いた様子で。
レイスくんはわくわくした様子で。
それぞれのリーダーが先頭となって、扉を開ける。
部屋は長方形となっていて、全員が部屋に入ると扉が閉じ、鍵が掛かる。
先へ続く扉を守るのは、武装した【龍人】。
冒険者達も、一人でこれに応じなければならない。
「よくぞ参った、侵入者共」
やや異色、一対一の連続という攻略&防衛が始まる。




