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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
8/26

しいと体育大会練習

 


 時は2019年。5月の第3月曜日。

 午後3時23分。


 某バーにて。


「しいちゃん!電話ね」


「なんで井野(いの)ちゃんのところに私宛の電話がかかってくるの?」


久留米(くるめ)プロデューサーからだね。しいちゃんまだプロデューサーの電話番号登録してないだね?」


「だってあのおっさんあんまり好きじゃないし」


 アリスちゃんが電話に出ろとガラケーを押し付けてくる。


「私も久留米プロデューサー、おっさん臭くてあんまり好みじゃないわ」


「わかってるじゃん(けい)ちゃん。しゃーないし出てあげよう。シャンメリー来たら先に飲んでていいよ」


 仕方ないから井野ちゃんのガラケーを持ってトイレの個室に向かった。


「何ですか?久留米プロデューサー」


「何ですか?じゃないよ!体操服!あと許可降りないの依鶴さんだけなんだよ?」


 “依鶴さん”だってさ。ぐちはまならまだしも、久留米(こいつ)が言うとほんと気色悪いおっさんにしか聞こえないんだよなあ。


「何言ってんですか?本名で活動してて学校も公表してる井野ちゃんや京ちゃんならまだしも、私は本名も学校もバレたらまずいんです!ちゃんと言いましたよね?」


 はーっとわざとらしいため息が聞こえてくる。


「この企画は“いつもの学校生活”がコンセプトなんだから理解してよ」


 理解してよって言われても……。今時、胸元におっきい字で名字が貼ってあってブルマの中学校なんて、うちの学校だけだと思う。そんな格好で踊って歌えとかプロデューサー鬼畜すぎ。


「とにかく無理です!じゃあ」


「ちょっとまっ」


 通話終了ボタンを構わずプッシュ。


「体操服ねー」


  *


「体操服ねー」


――同じ頃、浜口は保健室にいた――


「どうしたんですか?浜口先生」


 一人呟いていると保健教諭の吉崎和子(よしさきわこ)がコーヒーを淹れながら話しかけてきた。


「いや。あれから高梨さんに電話掛けづらくてどうしたもんかなと」


「“あれ”って、花瓶割っちゃった事件ですか?」


「そうそう」


 差し出されたコーヒーを一口すすると独特のなんとも言えない苦味が口に広がってくる。アラフォーのおっさんではあるが、ブラックコーヒーはあまり得意ではない。砂糖がないので我慢するしかないのだが。


「でも、そのおかげで体操服がやっと変わるって、女子から感謝されてたじゃないですか」


「んー。それはいいんですけど、どうやって高梨さんを体育大会の練習に引き出そうかなあと思いまして」


 気づけば吉崎先生はブラックコーヒーを飲み干していた。毎回尊敬するが、年下の女性に『大人だなあ』なんて口が裂けても言わない。


「でも、体育大会出ることは決まってるんでしょ?普通に練習始まるから来いっていえばいいじゃないですか」


「それでいいんですかね」


「いいんじゃないですか?」


 数秒の沈黙の後、放送が入った。


 “ピーンポーンパーンポーン。浜口せんせー、浜口せんせー。至急大職員室までお戻りください。浜口せんせー、浜口せんせー。至急大職員室までお戻りください。 プツッ”


「呼ばれましたんで。じゃあ」


 コーヒーを負けん気で飲み干して保健室を出る。階段を上ろうとしたところで「ぐちはまー」と自分を呼ぶ声がした。


「ああ、杉下さんと安西さん」


 声の正体は担任を受け持っているクラスの生徒である安西絆那(あんざいはんな)杉下成宮(すぎしたなるみや)だった。


「ぐちはま、さっき放送で呼ばれてたね。この学校ってあんまりそういう呼び出しなくない?なあ、あんちゃん」


「たしかに。浜口先生、何かやらかしたん?」


「そんなことないけど……それより、あと2分でチャイム鳴るけど次の授業間に合うんか?」


「それ!早く言ってよ!つぎ理科室なのに康本(やすもと)先生は国語の授業時間オーバーするし、男子は黒板消していかないし!」


「わかったわかった。今回はワシが理科の先生に謝っとくから。でも、ちゃんと授業遅れてすみませんって言うんやで?」


「わかりましたー!」


 そういって全力で二人が走って行く。いけない。自分も呼び出されていたのに。二段飛ばしで階段を上り、10歩あまりで大職員室に到着。


「浜口戻りましたー」


「先生、これはどういうことですか?」


 そこには自分を呼び出した生徒指導部の遠田先生が雑誌を開いて仁王立ちで待ち構えていた。


「どういうことですか……とは、どういう?」


「質問に質問で返さないでください!これです!うちの学校がセクハラを容認?そんなことしていません!ちゃんとメディア対策部は機能しているんですか?浜口先生!いや、浜口メディア対策部長!」


 そう言って、遠田先生は持っていた雑誌を押し付けてきた。それには、この学校の教師が女子生徒にセクハラを日常的にしているとか、男女差別が深刻で進学先も大きく異なるだとか、根も葉もないことが書かれていた。


「この雑誌が最寄の駅で売られていたんです!が」


「が?」


「雑誌編集社に抗議の電話をしたところ、うちの学校の生徒からも多数抗議の電話が寄せられているということで、謝罪されました」


 全くもって意味不明だ。本当に記者は取材をしたのだろうか。


「とにかくです!今回は生徒たちに助けられましたが、これが発端となって違うメディアに目をつけられるかもしれませんので注意してください。あと、本当にセクハラ等がなかったかアンケートを実施し、結果公表で信頼性を示そうと思います。明後日までに作っておいてください」


 突然そんなことを言っていつもこの人は仕事を増やす。今日こそ娘にムスドのドーナツを買って帰ろうと思っていたのに……くたばれ!おっと、いけない。教師だというのに“くたばれ”なんて使うもんじゃないな。


「失礼します。浜口先生はいらっしゃいますか」


 赤い名札の生徒が訪ねてきた。そういえば、休み時間に彼の元を訪れると約束していた。そんなことも忘れるなんて、もう歳だな。


「待たせてすまないね。高島くん」


 一瞬高島くんの目が見開いたと思ったら、今度はどんどん耳が赤くなっていって、最終的に彼は(うつむ)きこう言った。


「先生。僕、嶋 隆(しまたかし)っていう名前なので“しまたか”って呼ばれてるだけで、高島ではないんです……」


 しまったかし……


「そりゃあすまん」


「いえ」


 高梨さんへの電話は……放課後にしよう。





 *





 午後六時のチャイムと同時にしいは家に転がり込んでいた。ひっそりと音を立てずに廊下を進む。


「おかえりー」


 いつもなら怖い顔をしている雛子ちゃんだが、今日は全然違う。


「しいちゃん、体育大会出るんだって?そうなら早く言ってくれればいいのにー。いま浜口先生と電話してて。かわる?」


 なんだ。てっきり青島か誰かから既に聞いているのだと思っていた。まあ、それで喜んでくれるなら万々歳か。


「かわるー。何の話かな?」


 IZUMO(イズモ)に頼んで自分の回線に繋げてもらう。


「どーしたのー?久しぶりじゃん浜口先生」


「どうしたん?はこっちのセリフや。高梨さんが“浜口先生”だなんて、珍しい」


 ああ、うっかり。なんて言えないなあ。


「いやー。そりゃあ、ちょっとは悪いことしたかなって思ってるからさ。まあ、ちょっとだけだけどね?ほんのちょびっと」


 ということにしておこう。


「そりゃあありがたい。ところでさ、お姉さんとも話してたんだけど……体育大会練習、一応水曜日から始まるから、練習参加するなら隊形に組まないといけなかったりするし。どうするかなって」


「そりゃあ参加するよ。明後日体操服の一斉交換でしょ?もう、うちの社員有能すぎて逆に怖いんだけど」


 本当に、うちの会社がブラック企業出ないことを信じたい。


「そうか。女子たちが“今週だー”ってはしゃいでたのはそれのことだったのか」


「花瓶割っちゃった事件の当事者なくせに、そんなのも知らないの?」


「まあ、そんなもんや。わしはメディア対策部やから、そこまで生徒指導部の先生と仲良くしてなくてなあ。じゃあ、体育大会の練習は参加ってことでクラスのみんなにも言っとくわ。3時間目からやから、それまでに来といてな」


「りょーかい。じゃあまた水曜日に。IZUMO(イズモ)、通信切って」


 『了解です。通信を終了します』


 もう15分も経ってる。雛子ちゃんが待ってるな。急いで一階に降りていくと、揚げ物の音がした。


「いつも6時にはご飯できてるのに、珍しいね」


「揚げたてが一番美味しいでしょ?」


「たしかに」


 今日は唐揚げらしい。あと、しそやピーマン、にんじんたちの天ぷら。


「いっただっきまーす!天ぷら、珍しいね」


「そうかな?」


 今日も高梨邸には笑い声が広がっている。




お久しぶりです。

5月中にもう1話あげれるように頑張ります。

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