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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
3/26

しいと“にーと病”/しいと役員会議

 



 時は2019年。4月の第3水曜日。

 午前3時30分。


「今寝ちゃったら会議出れないんだよねー。でも、電子書籍も紙の方も読めるの、もうないし……ひまー」


 雛子ちゃんも寝ているし、(けい)ちゃんもアリスも通話中に寝てしまった。まあ、みんな明日も学校だから仕方ないのだけれど。


「あっ」


 ゼウスノートを書くのを忘れていた。神ノートは、『ぜうす先生』こと神楽(かぐら)先生との交換ノートの名前だ。厨二(ちゅうに)病感溢れるネーミングなのは目を瞑ってほしい。ちなみに、日誌みたいな感じで1日の記録と一つ質問を書くというルールになっている。


『しいちゃんが学校に来る日と来ない日の差は?』


 という質問に、答えを考えて書いていく。


『6歳くらいから、中途半端な睡眠時間だと12時間以上酷い頭痛と吐き気に見舞われるようになって、どんどん寝る時間が長くなっていってた。かと言って、いつも寝た時間と同じ時間起きていられるわけでもないんだけどね。規則正しい生活を心がけたり薬物療法を試したりしても改善されなくて、まあ紆余曲折あって今の中学校に通うことになったの。でも、そのおかげでぜうす先生と会えたんだよ。まあそれは置いとくとして。1時間でも、6時間でも、8時間でも、12時間でもダメだけど、24時間寝れば頭痛や吐き気に悩まされることもなくって。お医者さんには睡眠障害って言われたけど、24時間寝れるなんてニートみたいだなあと思って、自分で“にーと病”って命名してる』


 本当は病気の話なんて書いていらないかもしれない。でも、なんだかこの話を書けばぜうす先生が「苦労してるのにすごいね」って褒めてくれるような気がした。


『イズモの仕事とかもそうだけど、小学校のときに「さぼってる」っていじめられて……不登校になってからは起きてる日は行くし、寝てる日は行かなくなった。それだけ!』


 結構書いたつもりだったのに、これだけ書いてもたったの30分しか経っていなかった。仕方なくノートにイラストを描いて時間を潰すことにする。小学校の卒業式から退院祝いの写真まで全部引っ張り出してきて、おもひでスケッチとして模写していく。


「あーあ。いつから“普通”じゃ無くなったんだろー?」


 ふとそんな疑問が口から出てきたので、『それだけ!』という言葉の下に『普通になりたい!』と付け足しておいた。




 そんなこんなで、やっと3時間が過ぎた。早めの朝食を摂って朝の番組を巨大モニターに映し出す。出発は1時間後。役員会議の会場は日本海に浮かぶ“イズモ天文学センター”の地下、つまり海中にひっそりと(たたず)む秘密施設の中というわけだ。まあ、毎年夏休みに遊びにいくので大して珍しいものでもないけれど。


 さらに2時間ほど経って、やっと雛子ちゃんが起きてきた。


「おはよー、しいちゃん」


「うん。おはよう。朝ご飯はもう食べたからいい」


「もー!今日は特製ソースカツ丼の予定だったのにぃ」


「朝からカツ丼?」


 ちょうど炊飯器が炊きあがりの音楽を奏でて、しい達に応えたみたいで面白かった。


 ピーンポーン

 ピンポーンピンポンピンポンピンポンピポピポぴぽぴぽ


「うっるせええええええええ!」


 がちゃっ


「わがむすめええええええええええええええええええ!」


 なんなのこんな朝っぱらから!


「なに?お父様、帰宅は25日後じゃなかったの?あと、そんなにインターホン押さなくてもちゃんとでるs」


 言い終わる前にお父様は突進してきた。


「我が娘はいつも可愛いねえ」


「抱きつかないで!最後まで言わせて!もうなんなの?」


「航路が変更になったから、この家の前に飛行機を横付けしてもらってるんだ。依鶴いづるも大気圏でスカイダイビングするか?」


 たしかに、家の前の広大な空き地に父専用のジェット機が泊められていた。


「何言ってんの?それ仕事?」


「元石油王のおじさんと仲良くなったんだよ。ていうか依鶴、家ちっちゃくないかい?ママとパパの家に帰っておいでよ。それか、新しいおうち建てようかい?」


 家とかいいから、その「元石油王のおじさん」がどんなおじさんか見てみたい。元石油王のおじさん......


「この家も結構広くて満足してるからいい。それより、今から役員会議だから暇なら私の会社まで送って?」


「喜んで!依鶴がその才能を発揮できることがパパの一番の幸せだよ」


「違うでしょ!母上の笑顔を見れることでしょ?母上が聞いてたら嫉妬しちゃうよ?」


「それもパパの幸せだね。それより、役員会議なんだろう?準備しなくてもいいのかい?」


「あー。たしかに。着替えてくるから、うち入って待ってて?」


 新調したスーツに身を包み、こないだの病院の近くで買ったマスカラと新色リップ諸々で大人らしいメイクを。


「お父様ーじゅんびできた……よ?」


 なんだこの状況は!朝っぱらから父親が巨大カツ丼をかきこんでいる!


「あ、しいちゃん!お父様、流石さすがね!しいちゃんのために作ったカツ丼、全部食べてくださるって!」


 そのカツ丼をしいに食わせようとしてたのか……てゆうか、そのどんぶりはどこから持ってきたの?直径2メートルのどんぶり。あ……特注シール貼ってあった。すご……じゃなくて!


「お父様!早く行こ!」


「はいはい。ごちそうさま雛子さん。これからも娘をよろしく」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「じゃあ、いこっか。似合ってるねスーツ」


「だから、そういうのは母上に言ってって!」


「はいはい」


 ジェット機を飛ばして30分。イズモ天文学センターのエアポートに到着した。


「ありがとうお父様」


「頑張ってこいよ!ガッツポーズ!」


 やっぱり、しいはぜうす先生のガッツポーズじゃないと勇気付けられないらしい。


 なんかめっちゃバリバリスーツの人ばっか……

 あー。もっとゆるくやりたいー

「あー。もっとゆるくやりたいー」

 声に出てた。


 指紋認証、顔認証、身体検査を済ませて会場入りする。なんかめっちゃアットホームなんだけど?あ、さっきの聞かれてたのか。

 前回までの円卓や黒椅子は取り払われ、パステルカラーのローソファーが円形に並んでいる。それに合わせたローテーブルにはラムネやパウンドケーキもスタンバイ済みだ。


「この短時間ですごい……」


「そりゃあ、姫さんのご要望にお応えするのがこの会社の役割ですから」


 振り返ると、青島隆二あおしまりゅうじ副社長が立っていた。いつも執事のコスプレをしている34歳独り身男である。


「なんでいっつも執事のコスプレしてんの?」


三十路(みそじ)のおっさんになっても姫さんへの忠誠は変わらないということを伝えるにはこれが一番いいかと思ってさ」


「ああ、はい」


「ほんで、今日は何を提案するつもりなんすか?」


「空中都市」


「は?もっかい言ってください」


「空中都市」


「そりゃあ通らねえっすよ姫さん。いくらなんでもそれは……」


 バンっと扉が開かれ、役員たちが入ってきた。もっとも、まともにスーツを着ているのは3人だけだが。


「じゃあ、役員会議を始めまーす。司会はしいです。3分で終わるので時間下さーい」


 簡単に作ったスライド&アニメーション動画を見てもらう。


「じゃあ、これを作ります!」


 しーん。


 役員A:「すげえええええ!やっぱり依鶴様は天才だ!」


 役員B:「設計から作業スケジュール、総工費も文句なしです!やはり依鶴様は天使だ!いや、神の子だ!」


 役員C:「いつも規格外な発想で世界を改変してくださる。頭が上がりません」


 そんなことを自分より歳が二桁上の重役たちがほざきまくって企画は無事通過し、本当に3分で会議は終了した。そこからは毎回恒例の役員茶会となった。


「姫さん、何使ったんですか?」


「何もしてないし。ああ、お父様にここまで送ってもらったから催眠術にでもかかったんじゃない?」


「それはあり得そうですね」


「青島、めっちゃ眠いからここで寝てもいい?」


「太りますよ?」


「ねむいときに寝る以上の贅沢はないから。じゃあおやすみ」


 3秒後には寝息をたて……青島のひざにダイブした。もちろん意識的にではないが。


「こういう事するから姫さんに手出しそうになるんですよ。どうすればいいんすか……」


 なんて、青島がつぶやいていたことは誰も知らない。



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