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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
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しいとライブ

 

 時は2019年。4月の第3火曜日。

 午後5時ごろ……


 ぱちっ

「へい。IZUMO(イズモ)ーおっはよお」


『はい。IZUMOです。起床プログラムを開始します。午後7時からライブの予定です。午後8時には終了する予定です。午後9時から明日の役員会議の資料作りです。どんな新作発表になるかご検討ください。午後11時から12時までに資料が完成、印刷工程に移行できれば完璧です。以上です』


「明日の予定はライブの帰りに聞くー。おとー様と母上は?」


『はい。お父様は25日後に、お母様は7日後にご帰宅予定です』


 ウォークインクローゼットを歩きながら、手早く衣装に身を包む。今日はパーカーワンピースだ。


雛子(ひなこ)ちゃん。今日はこれでいいかな?」


「また素足でー。寒くないの?」


 おかあちゃんかっ!母上はそんなこと言わないけど。


「あとでタイツ履くからいいの!」


 キッチンからローストビーフと味噌汁のいい匂いがする。別に『ローストビーフは洋食じゃん!なんで洋食なのに味噌汁なんだー!』とは言わないけど、すごい不思議な組み合わせだと思う。


「今日の夜ご飯はローストビーフとマンゴーサラダでーす」


 目の前には彩り鮮やかな料理が並んでいる。正直言って、雛子ちゃんの手料理はとても美味しい。たとえお腹が空いてなくても、食欲が湧いてくるのだ。


「どう?調子は」


「きっちり24時間で起きたみたいだから、具合悪いとかはなさそう。いっただっきまーす」


 しっかり量や味の濃さも調整されていて、身に染みる絶品だった。


「じゃあ、行ってきます。戸締りよろしく。オレオレ詐欺とアポ電には気をつけて」


「行ってらっしゃーい」


 今日はしいの組するバンド“KISキス”の夜フェスだ。

 この超田舎町の巨大ドーム(いまだに砂利道のある田舎のくせになぜかドームはある)で行うことになっていて、そこそこ近いのでニャインウェイに乗って移動する。ニャインウェイとは、九ボットという移動手段の誕生にのっとって開発したイズモの底飛行型移動手段のことだ。地面から30センチほど浮上するので砂利道でも振動がなく、快適に短距離を移動できる優れものだ。


「やっほー(けい)ちゃん!」


 関係者入口で、京ちゃんこと京優姫けいゆうきが待っていてくれた。彼女もKISのメンバーである。


「はろー、しいちゃん。今日は盛り上がってこ!」


「もち!井野(いの)ちゃんは?」


「トイレ行ってる。いつもの緊張の腹痛だって」


 KISは、京優姫けいゆうきのK、井野アリスのI、しいのSという頭文字から成っていて、3Dホログラムとイズモの“しい専用人工衛星”をフル活用した新世界を提供するバンドになっている。何気にすごくない?


「うー。お腹痛いだねー」


 どうやら、もう1人のメンバーである井野ちゃんがトイレから帰ってきたようだ。


「井野ちゃんは緊張しすぎだよー?」


「あああああああああ!しいちゃんだあああ!おひさだね!」


 ぎゅううううううううう


「きついきつい。ギブギブ」


「あれ?いつもと違う匂いするだね?」


 ぎくっ。そいえばぜうす先生に抱きついた……けど、着替えたよね?


「しいちゃんのそのにおい嫌い!お風呂はいろだね!」


 そういえばこのドーム、ジャグジーもあったような気がする。どんなドームだよ。


IZUMO(イズモ)ー。ライブ開始まであと何分?」


『はい、IZUMOブルートゥース型完全防水立体表示可能イヤホンです』


IZUMOが自己紹介してる。いつもこんなこと言わないのに。もしかして自分のこと自慢してる?


『コホン、ライブ開始までは36分と25秒です。着替えやリハーサルを考えるとあまり時間はありません。お勧めはできませんが……』


「しいちゃんならリハなくてもだいじょぶだね。善は急げだね?」


「ああ、うん。じゃあ一緒に行こうかな。えっと、けいちゃんも入る?」


「私はさっき入ったからいい。音響とか調節しとく。それより、アリス風呂はすっごいから気を付けて」


 妙に元気のない京の声に、嫌な予感がした。いやでもモチベーションを上げるためだ!と自分に言い聞かせてジャグジーに向かうことにする。


「今日ここのジャグジー入るのこれで4回目だねえ」


「誰と3回も入ったの?」


「1回目はマネージャーさんとで、2回目は京ちゃん。3回目も京ちゃんだねえ!」


「それであんな声してたのか」


 あっわあわのだだっ広いジャグジーに2人で肩を並べた。


「隅々まで洗ってあげるだね!」


「ちょ……やめてよ!やぁ……んぁっ」



 そのあと、本当に隅々まで洗われた。





「めっちゃ2人ともココアの匂い」


「ふええー」


「ちょっとやり過ぎちゃっただねぇ」


「さ!着替えるよ!」


 マネージャーさんやらスタイリストさん、メイクさんたちが準備しにきた。もちろん、しいは終始『ふええ』状態で一歩も動かなかったのだけれど。


 本番まであと5分。誰もが絶望しかけていた時、救いの手が差し伸べられた。

 トゥルルルル……


「しいちゃん電話ー。ぜうす……?誰それ」


「ぜうす先生!」


「びくっただね。しいちゃんどったの?」


「ちょっと電話してくるね!」


 これは後から聞いた話だけど、ぱたぱたと駆けていくしいを見てアリスは一言「あれはファン裏切って浮気してるだねー」と言ったらしい。


「どしたのぜうす先生!」


「ああ。浜口先生が、しいが体育大会出ないって言ってるけどオレの誘いなら出るって言うかもって言うから」


「出る!出る出る!ぜうす先生の頼みなら出るよ!」


「そうか?だいじょぶか?まあ、体とか無理しない範囲で楽しめばいいからさ。また保健室呼んでな」


「うん!今からライブだから切るね?」


「おう。頑張れ!」


「ありがとー」


 にやにや状態で戻ると、ライブ開始までのカウントダウンが1分を切っていた。


「じゃあ今日もみんなのために頑張ろっか!」


「しいちゃん裏切りはなしだね?」


 ううっ痛い言葉……


『あと20秒です』


「K!」


「あい!」


「S!」


「「「えーいえーいおー!」」」


 熱気に包まれたドームには溢れんばかりの拍手が響いていた。それぞれのカラーであるピンク、水色、きみどりに光るドームの輝きは、獣道を進行中の悪魔たちをも感動させたらしい。


 なんとか9時1秒前に帰宅し、雛子ちゃんのげんこつは免れた。が、かけらも覚えていなかった役員会議の資料作りをIZUMOに指摘されて、今だけは体調不良で倒れたいと思ったしいでしたとさ。



こんばんは!兎虎彩夜華です。

今日はそこまでゆるくないかも。

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