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第八話:ヒカーワ神殿でヒッキー・ヤマモトと対決

 ケンは村で小さい馬車を借りた。

 ヒカーワ神殿にはウラーワ村から徒歩でも行ける距離だが、もしヤマモトを捕まえたら荷台に乗せて護送するためだ。

 縄と筵も持っていく。

 御者台には、ケンとナオミが座って、後ろの荷台にはハナが斧を持って乗る。

 ケンが手綱を取って、馬車を北に向かって進ませた。


 今日は晴れていて、暑くもなく、涼しい天気だ。

 オーミヤ村の近くを通り過ぎると、ヒカーワ参道というヒカーワ神殿を参拝する人たちが通る道が長々と続く。

 大勢の参拝者の人たちが歩いている。

 道の両側にケヤキ並木が植えられていた。

 ハナは馬車の荷台で、周りを興味深そうにキョロキョロと見回している。


「ここは紅葉がきれいなところで有名みたい」とナオミが言った。

「ふーん、いつ頃」とケンが気のなさそうに返事をする。

「あと二か月くらい先かなあ」とナオミは言いながら、頭の中でケンと二人だけで紅葉の中を散歩している姿を想像した。

 最近は、だいたい三人から五人くらいのパーティでずっと活動していたので、ケンとふたりっきりという時間はほとんどなかった。


 頭の中で、ナオミは普段着でケンと一緒に紅葉を見ながら歩いている。

 枯れ葉がチラホラと降っている中、自分は冒険服ではなくかわいいブラウスにスカート姿。

 いつか、そういうデートをしたいなあとナオミは思う。


 二人はいつの間にか手をつないでいる。

 大きい木の前で立ち止まって、二人は互いに正面を向き合う。

 ケンが自分に向かって、「きれいだ、ナオミ」と言ってくれる。

 目を見つめ合って、顔を近づけて、そして……。

「ナガーノ山! もっときれい!」といきなりハナが後ろから顔を突き出して、大声で言った。

 ケンとのデートを妄想していた途中で、突然、大声で言われたのでドキドキするナオミ。


「び、びっくりした。そうね、ハナちゃんの言うとおり、ナガーノ山も紅葉がきれいみたいよ、ケン」

「ふーん」とケンはなんとなくあまり興味がない様子だ。

 ケンのつまらなそうにしている横顔を見て、もう、せっかくロマンチックなデートの計画を考えていたのに、少しは紅葉に興味をもちなさいよと心の中で勝手に怒るナオミ。


 おっと、仕事中なんだからデートのことなんて考えちゃいけないと、ナオミは片手で自分の頭をポカポカと叩いた。

「ナオミ、どうした?」と後ろのハナが聞く。

「あ、いや、なんでもないよ」

 ふう、気を引き締めなきゃとナオミは思った。

 そんな、ナオミを興味深そうにハナは見ている。


 ヒカーワ神殿に到着。

 赤い門があり、その付近に馬車を停めた。

 神殿の参拝者が大勢いる。

 門から中を見ると、華麗な神殿がいくつも建っていて、敷地内はもみじや銀杏の木が生えている。

 かなり広い敷地だ。


「人も多いし、どうしようか」と門の近くの案内図を見ながらケンが言うと、

「神殿の事務所に行ってみましょう」とナオミが事務所らしい建物を指差した。

 三人は門の側にある事務所に行って、ヒッキー・ヤマモトの容姿を伝えて、事務員たちに見たことないか尋ねてみる。


「ああ、その人なら、よくこの神殿の敷地内をウロウロしているよ」と年配の事務員が答えた。

「え、本当ですか」とケンとナオミが驚いていると、

「ホームレスかと思っていたよ」と事務員が答える。

「なにか悪さとかしませんでしたか?」

「何もしないよ。敷地内で、よく昼寝しているけど。あんまり無下に追い出すのも可哀想だと思って、放っておいた」


 その事務員から、ヤマモトがよくいる場所を教えてもらった。

 本神殿の左の方にある手洗い所付近で、よく見かけるようだ。

 それにしても、隠れもせず、あのヘンテコな恰好で堂々と神殿の敷地内をウロウロと歩いているって、ヤマモトはいったい何を考えているんだろうかとケンは思った。


 ヒカーワ神殿に赤い門から入ると、池があってその上の橋を歩くと、本神殿がある。

 本神殿の入り口まえを左に横切って、奥に行くと手洗い所があった。

 手洗い所の日陰の石畳の上で、大の字になって昼寝をしている男がいた。

 タキシード姿に黒いマントを着て、顔は白塗りでピエロみたいな化粧。

 ヒッキー・ヤマモトだ。


「おい、ヤマモト!」とケンが声をかけると、

「あ、貴様ら、この前の奴らだな!」とヤマモトもこちらに気付いて、ピョンっと立ち上がる。

「虐めやがって、復讐だ!」とヤマモトが、例の水が入った小瓶から、黒い石をいくつか取り出して、地面にばらまいた。


 地面からわずかに浮いている黒い石。

 その黒い石を中心に、そこら辺の砂利を巻き込んでゴーレムが出現した。

 十体はいる。

 しかし、あまり大きくない。

 材料の石が少ないのかわからないが、ハナより小さい。


「行け、ゴーレムたちよ! こいつらを倒せ!」とヤマモトが命令する。

 ゴーレムが襲いかかって来た。

「えい!」とケンが先頭のゴーレムの頭部を剣で叩く。

 簡単にゴーレムが崩れ落ちる。

 ハナも片っ端からゴーレムの頭や胴体を斧でぶっ叩き、ゴーレムを倒していく。

 あっさりと全部倒してしまった。

「やっつけた!」とハナが飛び跳ねて喜んでいる。

 何だ、大したことないなとケンは思った。


「おい、ヤマモト観念しろ!」とケンとハナ、その後ろからナオミがヤマモトに近づく。

 ヤマモトはうろたえて、

「チキショー! こうなったら、必殺、ジューンジ稲川流金縛り!」と叫んで、妙な呪文を唱える。

 ケンたちの体が硬直した。

 ハナは硬直したまま、前方に倒れて思いっきり顔面を石畳にぶつけてしまった。

「フギャア!」とハナは叫んで、痛みで地面を転げ回る。

「痛い!」とケンも倒れた時に右脚の脛を、壊れたゴーレムの破片に当ててしまった。


 しかし、金縛りと言っても一瞬だけ。

 ナオミはすぐに金縛りが解けた。

「どうだ、まいったか! 俺の魔法の威力は。じゃあ、さらばだ、諸君! また会おう! アハハハハ!」と笑いながらヤマモトが逃げ出す。

 そのヤマモトの背中に、

「ウィンドアロー!」とナオミが風の矢を放って、ヤマモトを手洗い所の壁に叩きつけた。

「ウギャ!」と叫んで、ヤマモトは地面にうつぶせになって動かない。


 ちょっと強すぎたかなと、少し心配になって、ナオミはヤマモトが倒れているところへ走って行き様子を調べるが、気絶してるだけのようだ。

「ふう、案外、簡単に捕まえられたわね」とナオミがヤマモトを持ってきた縄で縛った。


 脚を押さえて痛がっているケンに近づいて、

「大丈夫、ケン。回復魔法をかけようか」とナオミは声をかける。

「俺よりハナを先に回復してやってくれ」とケンが怪我したところを押さえながら言った。


 ハナが地面に座り込んで、顔を押さえながら泣いている。

「ハナちゃん、痛みを治してあげる」とハナの顔に手かざしをするナオミ。

 すると、すぐに痛みが治まったようで、

「痛くない。ナオミ、すごい! アリガト!」とハナは喜んでいる。

「どういたしまして」と少し得意げになって、ケンの方へ行こうとするナオミの袖をハナが掴む。

 ハナが何か言いたげな顔をしている。


「なに、ハナちゃん?」とナオミが腰をかがめて顔を近づけると、

「ナオミ、タロ治せないか」とハナが小さい声で聞く。

「タロ? あっ、弟さんのことか。私が出来るのは簡単な回復魔法だけで痛みを和らげる程度なんだ。タロちゃんはどこが悪いの」

「急に脚、動かなくなった」

「脚が動かなくなったの? 可哀想。けど、うーん、多分私には難しそうな感じがする。ちゃんとしたお医者さんか、それとも神聖魔法を使える人なら出来るかも」

「そうか」とハナは残念そうな顔をした。


「まあ、どっちにしろ、かなりお金がかかると思うよ」とナオミが言うと、

「うーん、やっぱりお金、必要」と腕を組んで悩むハナ。

 その様子がなんとなくおかしくて、ナオミは少し笑ってしまった。

「けど、今は冒険者になったんだから、働けばすぐにお金が貯まると思う」とナオミが言うと、

「あたし、もっと働く! がんばる!」とハナが腕を振り上げた。

「ハナちゃん、がんばって、私も応援するから」

 二人は笑顔で、「オー!」と言ってハイタッチする。


 その間、放っておかれているケンが、

「おーい、そろそろ俺も回復してくれよ」と少し情けない声を出した。

「はい、はい、お待たせしました」

 ナオミがしゃがんでケンの脛に手かざしする。

「これで、よし」とナオミが立ち上がる。


 ケンも立ち上がろうとするが、

「痛い!」とナオミの方によろけて、思わずナオミの胸をムギュっと手で掴んでしまった。

 一瞬、固まる二人。

「何すんの! いやらしい!」と平手打ちをかまされるケン。


 ケンが頬を手で押さえながら、

「わざとじゃないよ。まだ痛いんだよ」と抗議するが、

「ウソ、ちゃんと回復したわよ」とナオミが少し怒る。

「何だよ。疑うのかよ」

「そんなに重傷なの」とナオミが疑わしい目でケンを見る。

「いや、とにかく痛いんだよ」とケンは脚を押さえている。


 ケンが足を引きづっているため、ハナが気絶したままのヤマモトの体をひょいと肩に担ぐ。

「おい、ハナ、一人で運べるのか」とケンが聞くと、

「全然、大丈夫」とハナは平気なようだ。

 その間も、ケンは脚を痛そうに擦っている。


「本当に足が痛いの?」とナオミが聞くと、

「本当だってば。魔法の効果がすくないぞ、意地悪すんなよ」とケンは少し不快な顔で言った。

「意地悪なんかしてない!」とナオミはスタスタと先に歩いていく。

 私の回復魔法をバカにすんのかとお怒り気味のナオミに、

「何だよ~本当に痛いんだって。胸さわったのもわざとじゃないよ」とケンがまた情けない声を出して抗議する。

 すると、ケンのところにハナがヤマモトを担いだまま近づいて来て、小さい声でささやいた。

「ナオミ胸デカい。仕方無い」

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